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第10章 商品開発

#55 MLMC

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 魔結晶を加工する装置を作り上げる為にエルラーに色々と作製を依頼したハヤトは、完成を待つ間にもお店の運営をしなければいけない。
 売り切れてしまう商品を毎日のように仕入れることが出来ない状況が続けば、1日で売る販売量を考える必要がある。そうなるとお店の通常運営は難しいので何とかする必要があるのだ。

 解決策としてアダムスに調整をお願いしていた商品確保に関しては、他の商会に作製を代行することで落ち着いた。ただしギルド[リンクス]に所属している商会に限ることで、技術供与する商会の管理を行い易くしたらしい。
 また丸薬、軟膏型の回復薬の販売に関しては主にラーカス商会が担いつつ、一定量の納入をクリアした商会は、それを越える量を自ら販売することを認めることにし、流通量の状況を見つつ緩和する予定であるそうだ。

 こうしてお店の開店に向けて着々と準備が進みつつあるなか、後は目玉商品となる魔道具を完成させるのみである。

■■■

 実際にエルラーに依頼した部品を組み立てることで、装置を完成させる。

「出来た……」

「ああ、これで完成だな」

「後はエルラーが作ってくれた魔結晶を加工出来れば、完璧だな」

「そこは任せてくれ。いろいろと作製方法を試して、簡単には割れない魔結晶が出来たはずだ」

 鉄を溶融して不純物を取り除くように、熱を加えて作製する方法を生み出したそうだ。純度と結晶化の過程を変えることで最適な作製方法を見つけられたらしく、そう簡単に真似されるような手順ではないらしい。

「まぁ、実際に試してみるのが一番だな。早速だがその魔結晶を見せてくれるか?」

「ああ、それでなんだがな」

 エルラーが取り出した魔結晶は四角ではなく、筒状のインゴットであった。

「えっと……これだと固定が出来ないんだが?」

「すまん! 四角に作ろうとしたんだがな、無理だった……そして自分で四角に加工しようと思ったけどそれも上手くいかなかったんだよ」

「まぁ作ってもらっておいてなんだが、それならこの筒を切り出すためにも別の装置を作らないといけないのか……」

「と、とりあえず円柱を固定できる万力も用意したから、これと入れ換えて装置を動かしてみよう。上手くいってから装置を増やした方がいいだろ?」

「まぁそうだが……それなら組み立てる前に言ってくれよ」

「いやあれだけ、せがまれると言い出し辛くてな……まぁ手伝うから許してくれ」

「……はぁ、ならさっさと始めるぞ」

「おう!」

 一度組み立てた装置をいきなり分解する悲しさを味わいつつ、再度組み立てを行う。そしていよいよ魔結晶の加工を始める。
 まずは円柱状の魔結晶を四方から固定し、薄くスライスすることにした。

「よし……なら動かしてくれ」

「ああ、行くぞ!」

 エルラーが魔力を込めて装置を稼働させる。そして自分が取っ手を回してワイヤーを魔結晶に押し当てて切断を始めた。

「いける……っぽいが、ちょっとストップ!」

「そうだな、これは辛いな」

 魔結晶は順調に切断されていってはいるが、聖水をかけながらの加工なので水しぶきが出て、側で作業するのはかなり辛いのだ。

「とりあえず、見えなくなってもいいからカバーを作ってから続きをしよう」

「そうだな……このままだと掃除が大変だしな」

 この世界に透明なプラスチックは存在しないし、透明なガラスで覆うにはお金がかかりすぎる。なのでとりあえずは木材を加工して箱を作り、確認用の窓を設けた。

 そして加工作業を再開し、五ミリメートル程の厚さに切断することが出来た。
 もっと薄くしたいがどの程度まで薄く出来る、または薄くしても作動するかが分からないので、まずは魔道具を完成させることから始めることにしたのだ。

 切り出した魔結晶を取り出し、出来映えを確認する。

「うーん、やっぱり切断した面はボコボコだな」

「そうだな……これだと魔法陣を刻むのは難しい……かな」

「だが加工したらこんなものだろ? 刻めるならこのままでもいいんじゃないのか?」

「うーん、そうだろうけど…………なぁ、この加工した面を溶かすか、結晶化をやり直して綺麗に出来ないかな?」

「あー、それならまぁ出来なくはないかもな」

「ならやってみてくれ、ここまで来て妥協はしたくないんだ」

「はぁー、分かったよ……だが魔力を消費し過ぎたからちょっと休ませてくれ」

「それは……仕方ないな」

 魔結晶を切り出す装置は、魔道具の塊でもある。それなりの出力を出すためには魔力の消費も激しいようで、ただの生産職に動かし続けるには荷が重いらしい。
 アイテムで回復し続けることも出来なくは無いが、精神的な疲労までは回復出来ないので適度な休息か必要なのだ。

 作製方法を公にすることは出来ないので、生産し続ける為には魔力バッテリーで稼働させられるようにしなければいけない。そしてそのバッテリーに魔力を貯める体制の仕組みも考える必要もある。
 商会内の人で工面し続けるには限度があるので、別の場所から手に入れる方法を考えなければいけない。

 休息をとったエルラーが作業を再開し、魔結晶の表面を鏡面まではいかないが、かなり平面に近い状態まで近付けることが出来た。

 そして魔法陣も無事に刻め、魔道具として機能することも確かめられた。

「よし後は魔力バッテリーを完成させるだな!」

「えっと、もう一度あの装置を動かせと?」

「当然! さっ、早く完成させないとなアダムスに怒られるぞ?」

「うへぇ、それを言うかよ……分かった、分かった。さっさと完成させよう」

 幾ら作製の見通しが立ったと言っても、まずは一つでも完成させなければ話にならない。それに供給魔力の問題も解決させるためにも、バッテリーは必要なのだ。
 装置に使うものは小さくなくても問題無いが、完成形を作り上げることで活かせるものもある。

 とにかくエルラーに頑張って貰い、魔力バッテリーを制御するために必要な魔法陣を刻めるだけの枚数の魔結晶シートを作り続けた。

 完成した魔結晶シートに、蓄積から排出に関わる全ての命令系統を刻むことで、それぞれが単一の魔道具となる。
 そしてその魔道具を重ね固定することで、一つの魔道具、魔力バッテリーが完成した。

 自分には確かめることが出来ないのでエルラーに使って貰おうとしたが、流石に疲れているということでヒソネに確かめて貰う。

「どうですか?」

「うん、これなら持ち運べるし、扱いやすいね!」

「供給する魔力の量はどうですか?」

「それは実際にウェルギリウスさんの所で確かめてみればいいのではないですか?」

「それもそうですね、報告も兼ねて行ってみます」

 確かに完成したらその魔道具を見せ、そしてお互いの素性を明らかにすると約束したのでウェルギリウスの家で試して貰う方が話が早い。

 ウェルギリウスの家に移動し、魔力バッテリーを用いて料理を作って貰うことで、性能を確かめたいという事情を説明する。

「なるほど、これが魔力バッテリーなのですか……分かりました、直ぐに確かめてみましょう!」

「お願いします」

 急な訪問にも関わらず快く受け入れてくれ、調理場で実際に試してみる。

 重ね合わせられた魔結晶は回転させることで、弱火から強火そして中火でキープ、またオンオフの扱いも簡単に出来るようになった。

「凄いですねこれは……私も何度か魔道具を扱ったことがありますが、これほど扱いやすいものでは無かったですよ」

 これまでにある魔道具は魔力を供給することで発動し何かを為すということが主であり、調整は使い手の力量に掛かっていた。しかし新しく作り出した魔道具は使い手を選ばないのだ。

「そう言って頂けると自信になりますよ。この魔道具によって僕たちが、ここで商売を続けられるかが掛かっていますので」

「何を弱気な事を言ってるのですか、これは革命的に凄いものですよ! 世界の勢力図すらも変えかねない代物だと気付いていないのですか?」

 魔道具は主にして武器として扱われる。それが誰にでも簡単に、それも同じ性能を発揮出来るならば、大量に魔道具を配置することで誰しもが一流魔導師になれてしまうとのことだ。

「確かに大量に生産出来ればそれも可能かも知れませんが、そこまでたどり着くには何年掛かることやら……でも確かに扱いには気を付けなければいけませんね」

 下手に製造方法が出回ると悪用される恐れがある。情報を守るためにもラーカス商会が責任を持って管理しなければいけないのだが、それには今の商会の規模では難しいことも出てくる。しかしそれを解決する鍵は恐らく、目の前にいるウェルギリウスが握っているはずだ。

「まさかここまでの魔道具を作り出してくるとは思ってもみませんでした…………では私も約束通り、お話せねばなりませんな」

「そうですね……それならば僕も話をしましょう」

 魔道具で作り上げた料理を食べながら、ウェルギリウスが自身の生い立ちから今に至るまでを、そして自分は異世界からの転移者であることを告げた。

「そうでしたか……やはりハヤトさんはただ者ではなかったでしたな」

「いえ自分なんて…………ですがウェルギリウスさんこそ、あのマーロー商会の創業者だったとわ」

 マーロー商会はこの聖都市でも5本の指に入るほどの規模を誇る。今は隠居の身だとしても、商会における影響力は計り知れないものがあるだろう。

「本当はお話するつもりはありませんでした。マーロー商会とは繋がりを絶っていることもありますが、私の古い考えが押さえ付けて新しい芽を摘んでしまうかもしれないと思ったからです」

 深く関わりすぎることは避け、商人として入れ知恵をすることはしないようにしてくれていたそうだが、それでも時代を変える商品を目の当たりにして商人の血が騒いだそうだ。

「必要がないかとも思いますが、今後は私にも是非とも協力をさせてもらいたい」

「本当ですか!? それは是非ともお願いしたいです!」

 マーロー商会が信じるに足るかはさておき、ウェルギリウスのことは信頼出来る。今後のことを考えるとラーカス商会が単独で大きくなっていくことは困難が伴うので、協力してくれる商会の存在は心強い。


 こうして新商品が完成しただけでなく、ラーカス商会の今後を左右する大きな繋がりが出来、商会として大きな転機を迎えるのであった。
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