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第8章 武器(剣2)
#45 聖魔剣
しおりを挟むアトゥムスが納得いく魔剣を作るために聖剣を元にして作ることになった。
鉄のなまくら聖剣でそのままでは使い物にならないので、聖剣をインゴットに戻し新たな剣を作る。
■■■
「よし鉄と他の金属の合金作りの調整は俺がやっておくから、ハヤトはアトゥムスと魔結晶に紋を刻む作業をしてくれ」
「そうか、それもそうだな。ではアトゥムスさん、向こうでどんな効果を付与するか決めましょう」
「ああ、分かった」
ということでエルラーと別れハヤトとアトゥムスは書庫に移動する。
「それでアトゥムスさんはどんな魔法を付与したいのですか?」
「そうだね……魔石が水系だし水関連の魔法が良いかな」
「そうですね、魔結晶でその辺の検証はまだですがその方が良いですよね」
「魔石ではその傾向があるというのは既知の事実だからね。というより書庫に来たというのはどういう理由なのかな?」
「それは……」
自分がまだ魔法の知識もなければ、文字を読むのもうろ覚えなので本で確めて、魔法の紋も本の中から探す必要があることを伝えた。
「あはは、そうだった、君は異世界から来たんだったね。大丈夫だよ、どんな文字や紋を刻めば良いかは私が教えてあげるから」
「アトゥムスさんは魔法にも造詣が深いんですね!」
「まぁ魔術師ほどではないけど、それなりに知識は有るつもりだよ」
「なら色々と教えてほしいんですけど、聞いてもいいですか?」
「うーん、まぁ簡単なことならね……」
ということで魔法について基礎的なことを教えて貰った。
■■■
この世界の魔法的な能力は大分してスキルと魔法の2つある。
[スキル]
発動に制約がある魔法に対して、制約がほとんど無く常時簡単に発動できる能力の事で魔力もほとんど消費しない。
[魔法]
詠唱、名称、固有、記録魔法の4つに分類される。
□□□
[詠唱魔法]その名の通り詠唱を行うことで、精霊や神の力いわゆるマナと呼ばれるものを周囲から集めて発動する。時間がかかるが自身が持っている力以上の威力を使え、また魔法の発動にはイメージの力が大事なのだが詠唱を行うことでその必要は無くなる。
[名称魔法]詠唱を省略し魔法の名前のみを発動の触媒とする魔法。発動する魔法のイメージと理を理解していなければ使えないが、加えるイメージの違いによって威力の強弱が調整できるのでレベルの高い魔法使いはみな名称魔法を扱うことが多い。
[固有魔法]種族によって使える魔法。詠唱だけでなく名称すら必要とせずに使うことができる。純血種であるほど強い威力を発揮できる。混血の場合は薄くなれば使えなくなるが、複数の固有魔法を持つことも多い。また一般的なスキルとは違い魔力を消費する。魔物が使う魔法も固有魔法と呼ばれているので、魔界の最大種族である[真人族]には忌避するものも多い。
[記録魔法]魔力を溜めることができる魔石に魔法を発動する陣を刻んであり、そこに魔力を加えることで発動する魔法。一般の生活に広く広まっておりもっとも多く使われているので生活魔法と呼ばれることもある。しかし強い威力の魔法は刻む魔方陣が大きくなるだけでなく、溜めれる魔力の量が多くなければいけないので、それだけ魔法石の純度と大きさが必要となるが、そんなものは上位種の魔物や伝説級の魔鉱石が必要となるので、滅多に見ることはない。また魔方陣を刻むことができる錬金術師もユニークスキルによるものであり、まだまだ研究段階の代物である。
□□□
この世界の現状ではスキルと固有、記録魔法が魔法として認識され、詠唱、名称魔法は古代魔法に位置付けられるほどほとんどの人が上手く使えないそうだ。
「もっと詳しく学びたいなら[オベロン学園]でちゃんとした魔導師に習ってくれ」
「へぇーそんなところが有るんですね。是非とも行ってみたいです」
そんなこんなで話を続けながら、どんな剣を作成するのか決めていった。
■■■
「どんな感じだエルラー?」
「ああ、A級の魔法を使えるようにミスリルの量を増やしつつアダマンタイトで強度を増してだな……」
「分かった、分かった、その話は後で聞くから早く剣を完成させよう」
隣で聞いているアトゥムスが熱くなったエルラーの会話を遠い目をしながら聞いている。
「ああそうだったな。で魔結晶の方はどんな感じなんだ?」
「ああ、上手くいったよ。どんなのを刻んだかは実際に見た方がいいかな」
アトゥムスと相談して決めた紋を刻んだ魔結晶を渡す。
魔結晶には片側にしか紋は刻まれていない。全面に刻む方が効率が良くなるがそれが出来るほどの魔法の知識がアトゥムスにもあるわけでは無く、錬金術師の技術も遥かに難しくなるので刻むことが出来なかった。
「まぁ見てもあんまりよく分からないから早く剣を仕上げよう」
「そうだな!」
ということで、エルラーが調整した合金で剣を作る。
■■■
試すのであれば実際に魔物を相手にしたいということで、アトゥムスが完成した剣を手にし魔の領域に踏み入る。そして相手としては不足だろうが目の前には複数のゴブリンがいる。
「なら少し離れていてくれ」
「ああ分かった」
戦うのはアトゥムスだけなので、ハヤトとエルラーは離れた位置で様子を伺う。
そしてゴブリンがアトゥムスに襲いかかる。
「いくよ!」
アトゥムスの掛け声と共に、剣に魔力が纏われる。
左手に持った剣で水の壁を生み出しゴブリンの攻撃をいなす。そして右手の剣で水流を生み出し、離れた位置のゴブリンも含めて倒した。
アトゥムスによって自在に操られた剣技と水流によって魔物は一瞬で掃討される。
「へぇー、左右で別々の役割を担わせているんだな!」
「折角、二つあるからな。アトゥムスと相談してそうすることにしたんだ」
剣の試し斬りを終えたアトゥムスが近付いてくる。
「うん、面白いねこれ。魔力に応じて淀み無く力に変換される感覚は初めてだよ」
これまでにも魔剣が無い訳ではないが、ここまで安定した力を持ち、それも二対の剣など存在しなかった。
技術と知識的に刻められる範囲と量が限られていたので、それならばと簡単だが応用が聞くような魔剣にしたのだがアトゥムスは気に入ったみたいだ。
「でもシンプルなことしか出来ないですからね。やっぱりこれ以上を求めるなら、もっと知識を学ばなければいけないですね」
「それは今後に期待だね。でも加護は少し弱まってるとは言ってもしっかりと残ってるし、あながち聖魔剣ってところかな」
「そうですね。でもこれ以上同じことは出来ないですからね……」
ベース材料となった鉄の聖剣はもう無いので、これ以上聖魔剣は作り出せない。なので本当に特別な一振りである。
「そうだね、大事に使わせてもらうよ。本当にありがとう!」
「いえ、こちらこそありがとうございます。お陰で今後やるべきことがはっきりしてきた気がします!」
■■■
こうして無事に納得のいく業物を作ることが出来、アトゥムスとの取引は終了した。
しかし今後は新しい知識と技術そして聖魔剣を作るための材料探しを、商会の拡大業務に忙殺されるかもしれないが、是非とも取り組みたい。
今回の一件で聖騎士団との太い繋がりが出来たのだが、教会に目をつけられて様々なことに巻き込まれることになるのだが、それはまた別のお話である。
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