31 / 61
第5章 出逢い
#30 取引
しおりを挟むハヤトたちはアトゥムスに強引に連れられて、聖騎士団長に引き合わされる事になったが、嫌疑に掛けられている最中なのに勝手に抜け出して訪ねる時点で不味いと思うので心配しか無く、内心ドキドキのまま騎士団長の部屋に入る。
■■■
「団長!」
「アトゥムスよ、いつもノックぐらいはしろと言ってるだろう。今はいそ……」
アトゥムスを認識した後に後ろにいる3人に気付いたみたいだ。
団長と呼ばれた人は髭を蓄えた初老の男性で優しい雰囲気をしているのだが、一瞥されると体が動かなくなる。まさしく蛇に睨まれた蛙の気分だ。
「アトゥムス、そちらの方々は?」
「そうですそうです、何かの手違いで私の知り合いが拘束されていたみたいなので、釈放させたいのですが良いですか?」
「えっ!」
何も聞かされていなかったハヤトは驚いてアトゥムスの顔を見ると、大丈夫任せとけと言わんばかりのウインクをされる。
「はぁー……まぁお主が引受人というならそれで良いが。これ以上は問題を起こすでないぞ」
「モチロンデスよ!」
「まったく……そちらの君はハヤトさんと言ったかな?」
何で自分の名前をと思ったが、色々と聴取されたので既に名前が伝わっているのだろう。
「ええそうです。今回はお騒がせしてしまい申し訳ございませんでした」
アトゥムスが助けてくれるとはいえ、悪いことをしてしまったので頭を下げる。
「それはもう良いのだが、君達はラーカス商会の方々で間違いないのかな?」
「ええそうですが、もしかして商会が処分されたりするのですか?」
落ち着きを払った声で聞かれるも、はかるような目線に緊張する。
「すまんすまん、そうでは無い。最近良く噂を耳にするのでな、個人的に気になっておったのだよ」
「そうだったのですか」
処分とかは無いみたいなので安心する。
「丸薬の回復薬とやらも使ってみたが、あれは素晴らしいものだ」
「それは恐れ入ります」
「そこでだ、大量に購入させてもらいたいと思うのだが問題ないかね?」
「それは……」
流石に自分で判断出来ないので、ヒソネにヘルプの目線を送る。それを見たヒソネが前に出て来て会話に加わる。
「エンディミオン様、お初にお目にかかります。私はラーカス商会で事務職をしているヒソネと申します。私からお答えさせて頂きたいのですか大丈夫でしょうか?」
「ああ、構わんよ」
「只今、我々ラーカス商会では丸薬型回復薬の増産に着手したところでございます。出来るだけの準備はさせて頂きたいと思いますが、どれ程ご所望なのでしょうか?」
「そうじゃな……とりあえずは今週中に1000個ほど貰えるかな」
「今週中……いえ分かりました、直ぐにでも準備させて頂きます。ですが、とりあえずということは今後も取引をお考えなのでしょうか?」
「現場に配備して確かめる必要があるが、この取引が上手くいくようであればそうなるのぅ」
「わかりました。我々はこの聖都市でお店を構えようと考えておりますので、そうしていただけますと大変ありがたいです。精一杯頑張らせて頂きます」
■■■
団長とヒソネの話がまとまって退室し、取引を本当に出来るのか確認する。そんなに直ぐに1000個の回復薬をつくれるとは思わない。
「ヒソネさん、1000個を今週中にって間に合うのですか? 在庫がそんなにあるとかですか?」
「そんな分けないです! ですがあの場で断れる訳がないでしょ! 今すぐ帰って作製しますよ!」
「ええっ! 折角だから聖騎士団員の武器を見せてもらいに行きたいのですが」
「そんなことはどうでもいいです! もしこの取り引きが上手くいかなければ商会の未来は無いです。ですが上手くいけば一気に大口顧客を獲得出来て、規模の拡大が見込めますよ!」
「ええっ! ちょっ、まっ」
すぐそこに未知の剣があるので見に行きたいのに、断れず今度はヒソネに引っ張られて行く。ヒソネにも力で負けるとは思っていなかったので、ハヤトは軽く落ち込むが誰にも気付かれない。
急いでアプレルの町に帰るのだが、何食わぬ顔でアトゥムスが付いてくることに誰も突っ込まなかった。
魔剣をつくってほしいからといって、聖騎士団員が勝手に外出して良いものなのだろうか?
だが助けてもらった手前、断るわけにもいかない。なのでアトゥムスが気にしていないので、ハヤトも気にしないことにした。
0
お気に入りに追加
710
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい
紙風船
ファンタジー
等しく芽生える”職業”と呼ばれるある種の才能に恵まれなかった俺は森の中でモンスターに囲まれていた。
窮地に陥ったその時、偶然にも才能が開花した俺は命からがらに危機を脱することができた。
町に戻った俺が確認した職業は《錬装術師》。
聞いたことのない職業だったが、俺は偶然にもその力の一端を垣間見ていた。
それは、”武器”と”武器”の融合……”錬装”だった。
武器に備わった”特性”と”属性”。その無限の可能性に俺は震えた。
俺はこの力で強くなりたいと強く、強く願った。
そんな俺の前に現れた最強と名高い冒険者”チトセ・ココノエ”。
偶然現れた彼女だが、その出会いは俺の運命を大きく変える出会いだった。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
スウィートカース(Ⅷ):魔法少女・江藤詩鶴の死点必殺
湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
ファンタジー
眼球の魔法少女はそこに〝死〟を視る。
ひそかに闇市場で売買されるのは、一般人を魔法少女に変える夢の装置〝シャード〟だ。だが粗悪品のシャードから漏れた呪いを浴び、一般市民はつぎつぎと狂暴な怪物に変じる。
謎の売人の陰謀を阻止するため、シャードの足跡を追うのはこのふたり。
魔法少女の江藤詩鶴(えとうしづる)と久灯瑠璃絵(くとうるりえ)だ。
シャードを帯びた刺客と激闘を繰り広げ、最強のタッグは悪の巣窟である来楽島に潜入する。そこで彼女たちを待つ恐るべき結末とは……
真夏の海を赤く染め抜くデッドエンド・ミステリー。
「あんたの命の線は斬った。ここが終点や」
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる