異世界に召喚されたけど商人になりました。

シグマ

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第0章 異世界召喚

#0 プロローグ

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 ここはとある魔王幹部の根城、いわゆるダンジョンと呼ばれる場所。

 そこに全身を鎧で包み、盾を武装した男が1人。

 彼の事を知らないモブ冒険者は馬鹿にする。

『あれじゃあ動けねぇだろ、馬鹿じゃないのか』
『なんでタンクのくせに一人でダンジョンにいるんだよ』
『あれではまともに戦えないでしょ』
『仲間に捨てられたんじゃないのか?』
『盾だけでどうやって戦うんだよ』

 だがそのどれもが的を射ていない。

 相手をするつもりもないので、道行くモブ冒険者の声を無視して彼は進む。

 しばらくすると前方から魔物が姿を表し、それを見たモブ冒険者は一目散に逃げ出す。

『おいおいあれはサーペントタイガーだ! やばい逃げろ!』
『なんでこんな低層からこんな魔物が出てくるんだよ』

 それもそのはず、サーペントタイガーはB級の魔物でそこら辺にいる低級の魔物とはレベルが違う。

 簡単に見た目を説明するとサーペントタイガーは尻尾が蛇の虎だ。
 動きは大きな体躯からは想像できないほど俊敏で、背後を取ろうとしても蛇の目からは逃げられない。鋭い爪そして牙に気を取られて蛇に噛まれると、猛毒で数分も持たずに命を落とすことになる。

 一介の冒険者が気がるに相手をできる魔物では無いのだ。

 サーペントタイガーを見たモブ冒険者は一目散に後退するも、彼はまったく怯える様子なく微動だにしない。

『おいあいつ鎧が重すぎて逃げられないんじゃないか?』
『もしかしてまだ気づいていないとか?』
『あいつ、殺されるぞ!』
『イカれてる』

 またしてもモブ冒険者にヤジというより悲鳴に似た声を掛けられる。だがやはりそのどれもが的を射ていない。

「よし今回はこいつでいいか」

 サーペントタイガーをターゲットに決めた彼はおもむろに盾を構える。

 それを見たモブ冒険者は忠告する。

『おい、そんなもの構えても回り込まれるぞ!』

 鈍重な鎧では構え直して攻撃を防ぐことが出来ないという意味だろう。だが彼にはそんなつもりはない。

『なっ! 走った!?』

 一見すると鈍重な鎧で動くことすら儘ならないのではと思われたのに反して、彼は駆け出したのだ。

『そして……転けた!?』

「おっと、失敗失敗。さて……そんな怖い顔しても僕は殺せませんよ?」

 サーペントタイガーもまさかの光景に呆気に取られてどうしてよいのか迷いながらも威嚇しているのだが、そんなことはお構い無しに彼は立ち上がると、今度は転けることなくサーペントタイガーに体当たりする。

 素早い動きを見て驚いていたモブ冒険者だが、流石にただの体当たりでは防御力も高いサーペントタイガーには意味がないだろうと声をあげるのだが。

『そんな攻撃じゃあ傷なん……て!?』

 ただの体当たりのハズなのだが彼の体当たりの一撃でサーペントタイガーは吹き飛ばされ、動くことが出来なくなった。

「うーん、まぁまぁだな。帰って改良しなければ」

『そんな馬鹿な……彼は一体』

 この様子を見ていたモブ冒険者は声を掛けたいが、得たいの知れないその人物に気後れして近づく事すらできない。

 しかし背後から近づいてくる人達が彼に声を掛ける。

「あれ? こんな所で何をやってるんですか?」

「いや何、ちょっと新しく作った鎧を試してみてたんだよ」

「鎧って……こいつサーペントタイガーじゃないですか。他に武器が無い所を見るとまさか体当たりで倒したんですか?」

「まぁ鎧と盾が守るだけのモノだとつまらないからな。武器に出来ないかなと思って」

「また変なこと考えてますね。そんなことより……」

 彼を取り囲んで談笑は続くが、それを見てもモブ冒険者は近づくことが出来ない。

『おいあの人達って……』

『間違いねぇよ、あの人達の知り合いになんて声を掛けてしまったんだよ俺』

『何者なんだよあの人は……』

『おい、あの人の着てる鎧の紋章を見てみろよ!』

『なっ、あれはラーカス商会の!!』

 そう彼の着ている鎧、そして身に付けている装備は冒険者にとって垂涎の逸品であり他に比類することなき性能を有しているラーカス商会の商品だ。それもその試作品である。

 そして彼の素性に気づいてもやはり近づくことは出来ないのは、彼を取り囲むその冒険者達はこの国では知らない人のいないSランク冒険者を要するパーティーメンバー達だからだ。

 そしてそんな人達と懇意にし、慕われている彼は何を隠そう世界に名を轟かすラーカス商会の中心人物だ。

 ラーカス商会は日用品から武器まで何でも取り揃え、その顧客は一般の人はもちろんのこと王族やSランク冒険者にまで及ぶ。

 数年前までは廃業寸前にまで追い込まれていたラーカス商会であったが、彼が所属して以降は飛ぶ鳥を落とす、破竹の勢いで成長し名実ともに地位を確立した。

 だが彼の存在は一部の人にしか知られておらず、表舞台に出ることも滅多にない。
 彼の存在を知っている人は商会の古参メンバーと、一流の冒険者のみなのだ。

■■■

 これからはじまる話は、彼がなぜ武器を作りどのようにしてラーカス商会で成り上がったのかの物語である。
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