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第1章 魔道具(1)
#7 魔道具を作ってみる
しおりを挟む初めての魔道具作りは小さな魔石に一文字を刻み、魔力で灯る照明を作ることになった。
様々な場所で光源として使えるので需要は高いので安いが数が出る。薄利多売なのだが僅かばかりに利益がでる。
文字の意味はまだ分からないし、見たことの無い文字なので記号にしか見えないがひたすら刻んでいく。
しばらくすると初めはコツが掴めずに上手く刻むことが出来なかったのが、錬金スキルのレベルが上がっていったのかスムーズに刻むことができるようになった。
■■■
しばらく作業を続けていると、突如ラーカス商会に爆発音が響き渡る。
「げふっげふっげふっ」
ハヤトが文字を刻んだ魔石が爆発したのだ。
騒ぎをを聞き付けたアダムスが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「これが大丈夫に見えますか……」
「ああ爆発しちゃったんですね。たまにヒビが入った魔石があるので気を付けてください」
「へぇーそうなんですね……って遅いわ!」
爆発してから忠告されても気を付けられないではないか。
「すみません。でもうちの商会でまともに魔道具を作れる人がいないですから指導もまともに出来ないのでね」
それを聞いたこの部屋の作業員が反発する。
「なんだとこの野郎!」「作ってるだろうが!」「給料あげろ!」「ケチ!」
「文句は売れる商品を作ってからにしてもらいたい。今年度のこの部署の赤字額をお教えしましょうか?」
アダムスの一言で先ほどまでブーブーと文句を言っていたのが嘘のように静かになる。
「そんなに赤字が酷いんですか?」
「ええ真面目に普通のモノだけを作ってくれればいいんですが、変なものまで作ったり無茶なことをするから……」
赤字額を耳打ちされる。
「そんなに……ってこの商会が傾いたのってこの人達のせいなんでは!?」
「おいおい酷いこというじゃねぇか! これでもちゃんと利益も出してるんだからな」
話しかけてきたのはいかにもヤンチャそうな銀の短髪をしたお兄さんだった。
「彼はエルラーでこの部門の長なのですが、利益も出すけど赤字も出すまさしく問題児ですよ」
「けっ! この商会の一番の売れ筋商品を作ってるんだからそれぐらいは多目にみろよな!」
「へぇーちなみに何を作ってるんですか?」
「俺は鍜冶師だからな、剣などの武器を作ってるぞ」
このご時世なので武器はいくらあっても足りないぐらいだろう。それなのに赤字とは一体何をやっているのだろうか。
「ちなみに失敗とはなにをやってるんですか?」
「失敗ではない!……と言いたいが、まぁ完成していないからな。これだ!」
見せてくれたのは穴の空いた剣だ。そしてそこに魔石が埋め込まれている。
「まさか魔法を使える剣、魔剣ですか!?」
「そう! いいアイデアだろ?」
「これの何が失敗なのですか? 見たところちゃんとしてるんですけど」
素人目ながらも剣として一級品に見えるし、それに魔石が加わっているのだからかなりの威力を発揮出来そうなので、何が駄目なのかが分からない。
「まぁ、それはな……」
エルラーが口ごもるのでアダムスが説明してくれる。
「魔力を込めると爆発するんだよ。さっきのハヤトさんのようにな」
魔力を込めると自爆する剣なのだそうだ。確かにそんなものは売れはしないし、試作の為にも魔石を使ってるので経費を湯水のように消費しそうだ。
「原因は分かっているのですか?」
「魔石の質と剣の相性だと思うけど、いろいろと魔石を使おうにもこのケチが金を出さないんだ」
「それは一度でも成功してからにしてください」
「でも完成したらものすごい力を発揮しそうですし売れそうですよね?」
「おお、ハヤトも興味を持ってくれるか!?」
エルラーが嬉しそうに聞いてくる。呼び捨てにされるが別に気にしない。むしろまだ何も貢献できない自分に敬称をつけてくれる他の商会の人たちに、必要無いと言いたいくらいだ。
「ええ是非とも完成させたいですね。やっぱり……」
ハヤトが乗り気になった所でアダムスが水を差す。
「その金喰い虫に出すお金はないですからね。研究費用は自分達で稼いでくださいよ」
「おいおい固いことを言うなよ」
「無理です。それより商会としてはもっと真面目に生産をしてくれていたほうが助かるんですが……それか給料をカットして研究費にしますか?」
「よし! お前ら働くぞ!」
給料を減らされると聞いて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「まったく、真面目に働いてくれればいいんですけどね」
「ほんと大変そうですね」
「ハヤトさんも生産職として働くなら早めに結果を出してくださいよ。うちには穀潰しを養う余裕なんてないんですから」
他人事のように聞いていたが、自分も戦えない勇者で早めに結果を出さなければいけない立場だということを忘れていたので釘を指される。
「はい」
ということでこの日は、魔石のひび割れに気をつけながらひたすら小さな魔石に文字を刻み続け、わずかながらもしっかりと商会の売上に貢献した。
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