勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

文字の大きさ
上 下
67 / 80
第3章 龍人族

交渉

しおりを挟む

 アヴラム達はブリューナクに[龍人の里]への案内をしてもらえることになったのだが、治療を施す為にはイヴリースを連れ出さなければいけない。その為に一度、聖都市に戻るのだがブリューナクは街に入ることを嫌ったため後日に合流することにした。

 けれども聖騎士団の施設からイヴリースを連れ出すということは簡単ではない。傷付いたイヴリースが世間に見られる可能性があり間接的に勇者が敗れたことが露呈しかねないので、聖騎士団ないし教会から簡単に許可がおりるはずがないのだ。

 こればかりはアヴラム一人の力ではどうしようもないので、トロイメア商会の商会長ギルスに協力を依頼することにした。
 それは流石に親族からの要望であれば聞き入れられる可能性があると踏んだからだ。

 ギルスに連絡をいれると快く協力をしてくれる運びとなった。

■■■

 アヴラム達はとある作戦を実施し、聖都市にある宿場の部屋でギルスと合流する。

「ギルスさん、どうでしたか?」

「駄目だった……やはり門前払いだったよ。そして予想通り情報の出所を問い出されたよ」

「そうですか、ならじきに向こうから接触が有るでしょうね」

「ああそうだろうね。ここに来るまでに後を付いてくる奴らもいたから」

 ギルスがなぜそのようなことを行ったのかというと、アヴラムが聖騎士団の上層部に手っ取り早く取り合って貰う為だ。

 イヴリースを連れ出す為には、教会や聖騎士団の上層部の許可を貰わなければならない。しかしアヴラムはもうその立場の人達と直ぐに会うことが出来る立場にない。

 穏便でないやり方なら他にもやりようはあっただろうが、それこそ取り返しのつかないことになるかもしれない。なので向こうから会いたくなるように仕向けてみたのだ。

 情報漏洩を厳しく監視している教会や聖騎士団に正面から頼み込んでも取り合って貰えないことは分かっている。そして幾ら立場の低い者から取り合って貰おうとしても意味をなさない所か処罰の対象になりかねない。
 そこでギルスに直接上層部に取り合って貰い、一般に知り得ない情報を話すことで内通者を疑わせ、教会や聖騎士団の方から接触してくるのを待つという作戦だったが、どうやら上手くいったみたいだ。

 窓の外を見ると宿の前に見慣れた紋章の入った竜車が停まる。

「ならちょっと行ってくるからビートとユキノはギルスといっしょに待っていてくれ 」

 宿の亭主に迷惑を掛けないように自ら外に出て対応する。

「アヴラムさんですね。一緒に付いてきて貰えますか?」

「ええもちろんです」

 アヴラムはもっと強引に拘束されることも想定していたのだが、むしろ丁重に扱われ連行されていくのであった。

■■■

 アヴラムが連行された先は教会ではなく王城であった。
 聖騎士団の団長か神官や枢機卿の元に連行されると思っていたアヴラムは動揺する。しかし状況を整理する時間は与えられず、いきなり王の間に連れていかれたと思うと、そこで待ち構えていた王に謁見をすることになった。

 アヴラムは辺りを見渡すも、勇者一向どころか神官もいないので、王自らが配下の者を使って直接自分を呼び出したことになる。
 普通ではないことにアヴラムは訝しみ警戒しながらもひざまず

「久しいでないかアヴラムよ」

「お久しぶりです国王様」

「そんな堅苦しい挨拶は良い、今日お主をここに呼んだのはワシなのじゃ。頭を上げよ」

「はっ!」

「さてお主はなぜここに呼び出されたと思うかの?」

「はい、勇者の大規模遠征をトロイメア商会の商会長に話したことは申し訳ありませんでした。ですがお願いを聞き入れて貰うためには、こうして呼び出して貰うほかなかったのです」

「ああそうであったな。確かに御主の居場所を知れたのはその件だが、そんなことはどうでも良い。ワシもお主に話したい、いや頼みたいことがあってここに呼んだのだ。しかしまずは御主の話とやらから聞こうではないか」

「有難うございます。国王様のお耳にも入っているかと思いますが、先のネームドとの戦いで聖騎士団の一人が治療が難しい重症を負っております。ですが治療が出来るかもしれない場所を見つけましたので、その者を連れていかせて頂きたいのです」

「そうかそうか、確かにその話はワシの耳にも入っておる。民を守るための騎士団が魔物に敗れるとは嘆かわしいことじゃ。聖騎士団でも治せないものを治せる可能性を見つけるとはさすがじゃと言いたい所だが、その話を聞き入れるためにはワシの話も聞いて貰わねばな」

「勿論で御座います。どのような話なのでしょうか?」

「そうかそうかなら話すがの、御主を聖騎士団に戻してやろうと思うのだがどうだ?」

 想定外の申し出に戸惑うアヴラム。しかしどう考えても、教会側と話がついている訳では無さそうだ。

「お言葉ですが国王様、それは私の意思に関係なく難しいかと。私は聖騎士団の指令に背き退団した身ですので」

「そんなモノはワシの一声で何とでもなるわ。御主の同意さえ得られればどうにかしてみせよう」

 アヴラムはやんわりと断ろうとするも、国王はそんなことを察してくれない。仕方ないのでハッキリと断ることにする。

「すみません……国王様のお気持ちは嬉しいのですが、私の居場所はもう聖騎士団には無いので辞退させてください」

 はっきりと断られ国王は落胆の表情をみせる。

「しかしなぜまた私を聖騎士団に戻そうと思われたのですか? 聖騎士団にはいまなお優れた騎士がいると思うのですが」

「謙遜などするでない、お主がいなくなってはっきりとそれがよく分かったわ。それにお主も知っての通り大規模遠征の結果が芳しく無くてな……」

 つまり国王の話によると、今はひた隠しにしてしのいでいるが何れは大規模遠征の結果は公になってしまう。なので失敗に終わったことでがた落ちになる信用を取り戻す為には、目に見える結果を残す必要があり過去を忘れさせる必要があるということだ。そこで勇者に代わる旗印の元でネームドを討伐しようと考えているので力を貸して欲しいらしい。

「聖騎士団を離れた身とはいえ魔王を倒す志を捨てた訳ではありません。なので私もネームドを倒すことには大いに賛成です。ですが聖騎士団に所属せず協力するという形をとるのは駄目でしょうか? 報酬も名誉も私には要りませんので、代わりに先程の件を了承頂ければと」

「うーむそうか……残念だがまぁそれでも良いのかのう」

「可能であれば苦しむ友の為に、先に治療に向かわせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」

「むむむ……それを断れば協力をせぬと言うのだろう。仕方ないがそうは時間を掛けてくれるなよ」

「もちろんでございます」

 こうして条件付きではあるが予想外にすんなりと許可を貰えたアヴラムは王城を直ぐに後にする。長居することで神官に見つかると、今の話が覆されかねないからだ。

■■■

 ギルス達と合流したアヴラムは王城で王との会話を話した。

「良かった……と言っても君には負担を掛けてしまうようだな。本当にすまない」

「いえ元より魔物を倒すことは自分の仕事でもありましたから、ネームド討伐も延長線上の仕事ですよ。それより早くイヴを連れ出しましょう」

「ああそうだな」

 国王から許可を貰ったとはいえ、時間が掛かることで教会から横やりが入ってはややこしいことになってしまう。なので急いでイヴリースを施設から連れ出し、ブリューナクと合流することにした。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...