65 / 80
第3章 龍人族
ヒュドラと龍人
しおりを挟むアヴラム達は龍人がいると思われる[帰らずの森]の中心に向かう。しかしその近くにこれまでに戦ってきた魔物とは明らかに強さの異なる何かがいる。
アヴラムはビートとユキノに最大限注意して進むように伝え、慎重に歩みを進めていく。
これまでは経験を積ませる為にビートとユキノが前で戦いながら進んでいたが、不測の事態に備えアヴラムが先頭に立ち進んで行く。
そうして進んだ先に森が開けると[帰らずの森]の中心地とされる巨大な岩の傍らに見える。しかしそこにいたのは龍人ではなくAランクの魔物であるヒュドラであった。
■■■
「おいおい嘘だろ……なんでこんなところにヒュドラがいるんだよ」
聖騎士団にいた頃にこの場所にヒュドラがいるなど聞いたことがない。このランクの魔物の目撃情報があれば真っ先に聖騎士団に届けられるはずなので、つい最近この場所に居着いたのだろう。
「どうするタタカうのか?」
「いや流石にヒュドラと戦うには人が足らない」
以前戦ったAランクに匹敵するかもしれない巨大なショウグンガザミとは異なり、ヒュドラは紛れもないAランクの魔物だ。暴走状態になればSランクに匹敵し、ネームドにも劣らない実力をみせる。
複数の実力者で固めたパーティーが連携して戦いに臨まなければいけない相手でありアヴラムとて倒せる保証は出来ない。
もし戦うのならば全てを失う覚悟が必要だ。
「周りに龍人らしき気配も見当たらないから一度もど……」
――突如鳴り響く爆発音。
攻撃が届く前に気付いたアヴラムはビートとユキノを抱えてその場を離脱した。
突然の攻撃を受けて元いた場所は爆発で抉れている。
ヒュドラのいる方向から攻撃が放たれたのだが、ヒュドラの攻撃ではない。
「誰だ!」
ヒュドラも先程の攻撃で目が覚めてしまったので構わず叫ぶ。するとヒュドラの陰から人影が現れる。
「誰だとはこちらのセリフだ。お前達は誰だ? このヒュドラの命を狙ってきたのか?」
姿を見せたその者は見た目は普通の人だが、こんな場所に冒険者が一人でいてヒュドラと共にいるなど考えられない。となると答えは一つ。
「そうかあなたがブリューナクさんですね? 私はアヴラムです。ハヤトさんに教えてもらい貴方に会いにきました」
「ハヤトだと……そうかあいつの差し金か。だが一体ここに何をしに来たんだ!」
知り合いの名前が出て警戒は少し薄れたようだが、まだ信用はされない。
「落ち着いて下さい、私達はあなたにそしてヒュドラに危害を加えるつもりはありません。ブリューナクさんにお願いがあって来たのです」
「俺にお願いだと……確かに寝ているこいつに攻撃をしてこなかったし信じても良いのか?」
自問のような問いにこれまで何が起こったのか理解するのに必死で動けていなかったビートとユキノが必死に頷く。
「そうか……だがたとえハヤトの知り合いとてそれで俺が力無き者を認めることはない。お願いをしたいのならお前の力を示してみせろ!」
話を聞いてくれる雰囲気ではなく、ブリューナクは既に臨戦態勢である。
「どうやら素直に話を聞いてもらえないみたいですね。分かりました全力であなたを納得させて見せますよ。ビートとユキノは少し離れていてくれ」
ヒュドラはどうやら傍観しているだけのようなので、ブリューナクと一騎討ちをすることになった。
■■■
ブリューナクは剣を持たず弓と魔法で攻撃を仕掛けてくる。それをアヴラムは交わし、時おり剣撃で反撃する。
「どうしたそんなものか!」
「あなたこそ息が上がっていますが、もうへばっているのではないですか?」
「はん上等だ!」
随分と長い間、二人は戦い続けている。もはや当初の目的を忘れて戦いを楽しんでいるかのようである。
二人にとって勝つための戦いではなく、アヴラムは認めてもらうため、ブリューナクは見極める為の戦いなのだ。
お互いがお互いに相手の実力を確かめ合いながらも決着の機会を伺っているのだが、ブリューナクが痺れを切らして仕掛ける。
「なかなかやるなお前」
「そりゃあどうも。あなたもお強いですね」
「はん、上には上がいるさ。お前の実力は十分に分かった」
「ならそろそろ話を聞いてもらえますか?」
「そうだな……この一撃を防ぎきったらな!」
ブリューナクがそう告げ、距離をとったと同時に辺りに冷気が漂い始める。
「氷牢」
ブリューナクが放った魔法は固有魔法であり、アヴラムも初めて見る魔法なので対処が遅れる。
その名の通り氷で出来た牢が瞬時にアヴラムの周りに形成された。
「この牢を破ればお前の言うことを聞いてやろう。だが破れなければお前は潰されるぞ」
ブリューナクの言葉の通り氷の牢は徐々に狭まってくる。
とりあえず剣を振るって壊せないか試すも、まるで金属同士が接触したかのような高い音を響かせ表面が削れただけに終わる。
「そんな物理攻撃で俺の氷牢を壊せると思うなよ!」
「そうか……」
物理攻撃が駄目なのであれば魔法であれば可能性があるということだろう。
だがアヴラムはこの牢を壊せるだけの魔法を覚えていないし、使うことができない。
本来であれば万事休すな状況だが、解決策が一つだけある。
「まさかこんな場所で役に立つとはな。感謝するぜハンス!」
「鳴神!」
ショウグンガザミとの戦いで使わずに残っていた、雷のような電撃を生み出せる魔道具で氷牢の一番弱い部分的を攻撃する。そして駄目押しで脆くなった部分へ的確に剣擊を加える。
甲高い音と共に氷牢が砕け散り、アヴラムは無事に脱出した。
「そんなものを持っているとはな……」
「使えるものは何でも使うさ。まさか卑怯とは言わないだろ?」
「ああもちろんだとも。話を聞こうじゃないか。だがその前に……おいそいつらを離してやれ」
敵意が感じられなかったので気付くのが送れたが、アヴラムが氷牢に捉えられている間にビートとユキノがヒュドラに押さえられていた。
ヒュドラはブリューナクの指示に素直に従い、二人を解放すると再び眠りについた。
解放された二人は殺されるかもしれないという緊張感から解き放たれ半泣き状態でアヴラムの後ろにまわりしがみつく。
「すまんすまん、こいつも悪気があったわけではないんだ。俺が戦っているから横やりを入れられないように気を使ってくれたんだよ。だがお詫びに飲み物でも出すから付いてきてくれ」
そう言うとどうやら[帰らずの森]の中心にある巨大な岩の内部に居住スペースを確保しているらしく、ブリューナクは岩の割れ目から中に入っていった。
こうして何とか認められたアヴラムは、ようやくブリューナクに本題を伝えられるのであった。
1
お気に入りに追加
2,429
あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ギフト争奪戦に乗り遅れたら、ラストワン賞で最強スキルを手に入れた
みももも
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたイツキは異空間でギフトの争奪戦に巻き込まれてしまう。
争奪戦に積極的に参加できなかったイツキは最後に残された余り物の最弱ギフトを選ぶことになってしまうが、イツキがギフトを手にしたその瞬間、イツキ一人が残された異空間に謎のファンファーレが鳴り響く。
イツキが手にしたのは誰にも選ばれることのなかった最弱ギフト。
そしてそれと、もう一つ……。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる