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第3章 龍人族
ヒュドラと龍人
しおりを挟むアヴラム達は龍人がいると思われる[帰らずの森]の中心に向かう。しかしその近くにこれまでに戦ってきた魔物とは明らかに強さの異なる何かがいる。
アヴラムはビートとユキノに最大限注意して進むように伝え、慎重に歩みを進めていく。
これまでは経験を積ませる為にビートとユキノが前で戦いながら進んでいたが、不測の事態に備えアヴラムが先頭に立ち進んで行く。
そうして進んだ先に森が開けると[帰らずの森]の中心地とされる巨大な岩の傍らに見える。しかしそこにいたのは龍人ではなくAランクの魔物であるヒュドラであった。
■■■
「おいおい嘘だろ……なんでこんなところにヒュドラがいるんだよ」
聖騎士団にいた頃にこの場所にヒュドラがいるなど聞いたことがない。このランクの魔物の目撃情報があれば真っ先に聖騎士団に届けられるはずなので、つい最近この場所に居着いたのだろう。
「どうするタタカうのか?」
「いや流石にヒュドラと戦うには人が足らない」
以前戦ったAランクに匹敵するかもしれない巨大なショウグンガザミとは異なり、ヒュドラは紛れもないAランクの魔物だ。暴走状態になればSランクに匹敵し、ネームドにも劣らない実力をみせる。
複数の実力者で固めたパーティーが連携して戦いに臨まなければいけない相手でありアヴラムとて倒せる保証は出来ない。
もし戦うのならば全てを失う覚悟が必要だ。
「周りに龍人らしき気配も見当たらないから一度もど……」
――突如鳴り響く爆発音。
攻撃が届く前に気付いたアヴラムはビートとユキノを抱えてその場を離脱した。
突然の攻撃を受けて元いた場所は爆発で抉れている。
ヒュドラのいる方向から攻撃が放たれたのだが、ヒュドラの攻撃ではない。
「誰だ!」
ヒュドラも先程の攻撃で目が覚めてしまったので構わず叫ぶ。するとヒュドラの陰から人影が現れる。
「誰だとはこちらのセリフだ。お前達は誰だ? このヒュドラの命を狙ってきたのか?」
姿を見せたその者は見た目は普通の人だが、こんな場所に冒険者が一人でいてヒュドラと共にいるなど考えられない。となると答えは一つ。
「そうかあなたがブリューナクさんですね? 私はアヴラムです。ハヤトさんに教えてもらい貴方に会いにきました」
「ハヤトだと……そうかあいつの差し金か。だが一体ここに何をしに来たんだ!」
知り合いの名前が出て警戒は少し薄れたようだが、まだ信用はされない。
「落ち着いて下さい、私達はあなたにそしてヒュドラに危害を加えるつもりはありません。ブリューナクさんにお願いがあって来たのです」
「俺にお願いだと……確かに寝ているこいつに攻撃をしてこなかったし信じても良いのか?」
自問のような問いにこれまで何が起こったのか理解するのに必死で動けていなかったビートとユキノが必死に頷く。
「そうか……だがたとえハヤトの知り合いとてそれで俺が力無き者を認めることはない。お願いをしたいのならお前の力を示してみせろ!」
話を聞いてくれる雰囲気ではなく、ブリューナクは既に臨戦態勢である。
「どうやら素直に話を聞いてもらえないみたいですね。分かりました全力であなたを納得させて見せますよ。ビートとユキノは少し離れていてくれ」
ヒュドラはどうやら傍観しているだけのようなので、ブリューナクと一騎討ちをすることになった。
■■■
ブリューナクは剣を持たず弓と魔法で攻撃を仕掛けてくる。それをアヴラムは交わし、時おり剣撃で反撃する。
「どうしたそんなものか!」
「あなたこそ息が上がっていますが、もうへばっているのではないですか?」
「はん上等だ!」
随分と長い間、二人は戦い続けている。もはや当初の目的を忘れて戦いを楽しんでいるかのようである。
二人にとって勝つための戦いではなく、アヴラムは認めてもらうため、ブリューナクは見極める為の戦いなのだ。
お互いがお互いに相手の実力を確かめ合いながらも決着の機会を伺っているのだが、ブリューナクが痺れを切らして仕掛ける。
「なかなかやるなお前」
「そりゃあどうも。あなたもお強いですね」
「はん、上には上がいるさ。お前の実力は十分に分かった」
「ならそろそろ話を聞いてもらえますか?」
「そうだな……この一撃を防ぎきったらな!」
ブリューナクがそう告げ、距離をとったと同時に辺りに冷気が漂い始める。
「氷牢」
ブリューナクが放った魔法は固有魔法であり、アヴラムも初めて見る魔法なので対処が遅れる。
その名の通り氷で出来た牢が瞬時にアヴラムの周りに形成された。
「この牢を破ればお前の言うことを聞いてやろう。だが破れなければお前は潰されるぞ」
ブリューナクの言葉の通り氷の牢は徐々に狭まってくる。
とりあえず剣を振るって壊せないか試すも、まるで金属同士が接触したかのような高い音を響かせ表面が削れただけに終わる。
「そんな物理攻撃で俺の氷牢を壊せると思うなよ!」
「そうか……」
物理攻撃が駄目なのであれば魔法であれば可能性があるということだろう。
だがアヴラムはこの牢を壊せるだけの魔法を覚えていないし、使うことができない。
本来であれば万事休すな状況だが、解決策が一つだけある。
「まさかこんな場所で役に立つとはな。感謝するぜハンス!」
「鳴神!」
ショウグンガザミとの戦いで使わずに残っていた、雷のような電撃を生み出せる魔道具で氷牢の一番弱い部分的を攻撃する。そして駄目押しで脆くなった部分へ的確に剣擊を加える。
甲高い音と共に氷牢が砕け散り、アヴラムは無事に脱出した。
「そんなものを持っているとはな……」
「使えるものは何でも使うさ。まさか卑怯とは言わないだろ?」
「ああもちろんだとも。話を聞こうじゃないか。だがその前に……おいそいつらを離してやれ」
敵意が感じられなかったので気付くのが送れたが、アヴラムが氷牢に捉えられている間にビートとユキノがヒュドラに押さえられていた。
ヒュドラはブリューナクの指示に素直に従い、二人を解放すると再び眠りについた。
解放された二人は殺されるかもしれないという緊張感から解き放たれ半泣き状態でアヴラムの後ろにまわりしがみつく。
「すまんすまん、こいつも悪気があったわけではないんだ。俺が戦っているから横やりを入れられないように気を使ってくれたんだよ。だがお詫びに飲み物でも出すから付いてきてくれ」
そう言うとどうやら[帰らずの森]の中心にある巨大な岩の内部に居住スペースを確保しているらしく、ブリューナクは岩の割れ目から中に入っていった。
こうして何とか認められたアヴラムは、ようやくブリューナクに本題を伝えられるのであった。
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