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第2章 エルフの秘宝
エルフの涙
しおりを挟むエルフの試練を突破し、真にエルフを救うに値すると認められたならば[エルフの涙]を譲ることをエルフの長と約束していたそうだ。なのでアヴラム達は保管されている場所に移動することになった。
■■■
どこに移動するのかと思ったが今いる場所の地下が洞窟になっているらしく、そこに歴代のハイエルフの魔核が石棺に納められているとのことだ。そして地上にある石碑はそのハイエルフの名を記してあるそうだ。
なぜ歴代のハイエルフが特別に納められているのかというと、[エルフの涙]ほどの効果は得られないがハイエルフの魔核は普通のエルフより格段と効力が得られるので、要らぬ争いを避ける為の処置である。
中央にある神木の根本にある虛の中から地下に行ける道があり、石でつくられた階段を下っていく。
地下なのだが木の根の隙間からなのか光が取り込まれており、不思議と視界は保たれている。
地下の空間は想像以上に広くハイエルフが納められた棺を幾つもの通りすぎて一つの棺の前にやって来た。
「この棺の中にあるのですか?」
「ああ……」
「ユキノ?」
ユキノが前に進み棺に手を当てる。
「お婆様……」
この棺の中のハイエルフ、そして魔王配下の魔物と戦うために命を賭したのはユキノの祖母だったみたいだ。
「知らなかった、お婆様がハイエルフだったなんて」
「里でも極秘事項となったので隠さざるを得なかったのだ」
「この事を知っているエルフは私を含めごく僅かなのだ。そしてユキノにはエルフの試練を乗り越えるその時まで秘密にすると決められていたのだ。すまない」
「ううん、謝らないで欲しい。知っていたらここに来たくなるから隠し通せなかったと思う」
「でもユキノはいいのか? その形見でもあるのに本当に貰ってしまって」
「うん。きっとお婆様もここで眠っているより本望だと思う」
ユキノの許可も得てサフィエンティアが棺を開ける。そして納められている[エルフの涙]を取り出した。
「それが本物の[エルフの涙]なのですね」
魔石は路傍の石のようにゴツゴツとしているが、[エルフの涙]は丸く滑らかで射し込む光を取り込み見る者の心を奪うような煌めきを放っている。
思えばマルクの町で只の涙を本物だとされていたが、やはり全くの別物である。
「……しかし感慨深いものだな、人と決別する理由となったモノを人に託す日が来るなど思いもしなかった」『もっと早くこの日が来ていれば……』
サフィエンティアは物憂げに手元の[エルフの涙]を見つめ呟くも、最後の言葉はアヴラムとユキノは聞き取ることが出来なかった。
「……いや何でもない、ほら受け取りたまえ」
サフィエンティアから[エルフの涙]が手渡される。
触れた瞬間はひんやりとしているのだが、内に秘めた熱量を確かに感じることが出来る。
「これは凄いですね。それでもこのような貴重なものをいただくのですからやはりエルフの長にきちんとお礼に行った方がいいのでしょうか?」
「何を言っている? 既に会ったことがあるだろう?」
『えっ?』と思い振り返ってユキノを見ると誰がエルフの里の長なのか教えてくれた。
冷静に考えればそうなのだが、エルフの中でもかなり立場が上のサフィエンティアがわざわざ容態を確認しに行くような人なのだから気づか無い方が悪いのかも知れない。それでも教えてくれても良さそうなものなのだが。
■■■
里の居住区に戻りエルフの長に報告しに行く。
先にビートの様子を確認するもぐっすりと眠っており、しばらく安静にしておけば問題ないだろうということだ。
「レジーナ様がエルフの里の長だったのですね?」
「あら? ようやく気付いたのですね。確かに家の中から出ないので威厳を感じないのかもしれないですけどね」
少し茶化されるように拗ねられる。
「そんなことないです! ……気付けなくてスミマセン。それより外に出ないのはやはりお体の具合が良くないのですか?」
「最近は大分良くなったけど、病気がちだった。年甲斐なく薄着を着るからだから放っておいていい」
「ちょっとひどいなユキノ。これでも里の男の子達からは好評なのよ?」
「もう直ぐななひゃ」
「ちょっ分かったから止めようかこの話。それより本当に[エルフの涙]を手に入れたのですね」
ユキノがレジーナに口を押さえられていて不満そうにしているが、どうすることも出来ないので話を続ける。
「はい。無事にエルフの試練を突破しサフィエンティア様からも色々とお話を聞きました」
「そうそれは良かった。それにユキノも無事に試練を乗り越えることが出来たのね」
「おめでとう」
口を押さえるのを止めて、今度は後ろから優しくハグをしている。
「……ありがとう、これで私も大人。ここまで育ててくれて本当にありがとう」
エルフの試練を乗り越え大人になるということは、これから色々と自立をしていかなければいけない節目でもある。
エルフとしては年の若いユキノも例外無くそうであり、ましてやアヴラムについて里の外に出るとなればそれは必然でもある。
話したい事は尽きないようで、この日は遅くまで語り合いながら過ぎていった。
■■■
翌日の早朝に起きて外に出ると、ビートが目を覚まして剣の素振りをしていた。
「良かった。目を覚ましたんだな」
「うん、でもシレンをトッパすることがデキナかった。オレはヨワい。このままではダメなんだ」
「そんなことはない! と言いたい所だけど、やっぱりまだまだ鍛えなければいけないのは事実だな。だけどやっぱり一番は抱えている心の問題を解決しなければいけないな」
「ココロのモンダイ?」
「そうか試練の内容を知らなかったんだな。実は……」
ということで試練が何を試したのか、そしてビートが抱えている人拐いへの憎しみを乗り越えなければいけないという話をした。
「そうだったんだな……。でもタシかにココロのもやもやは、ずっとノコってる」
「フェブラの街に戻ったら訓練するのもそうだが、ビートを拐った人拐いの組織を調べてみよう」
「イいのか?」
「ああ個人的にもずっと何とかしたいと思っている事だし、ビートが過去に向き合って乗り越えなければ先に進めないからな」
「……ありがとう」
街に戻ってからやることも決まった所でとりあえず家の中に入り、皆で食事をとることにした。
■■■
ビートが目覚めているのを見てユキノもレジーナも安心してくれた。
そして今後の予定を話すと、ビートが己の過去を乗り越えられたならばもう一度試練を受けると良いと言ってくれた。
エルフの成人の儀式なので別に必要ない事かとも思ったが、試練を突破することでエルフの加護が得られるので受けられるのであれば受けておきたい。
「そういえば忘れていたのですが、妖精を見ることが出来るようになるにはどうすれば良いんですか?」
「それは精霊の事を深く知り、そして精霊を信じることね。そしてここにいるような名前の無い妖精ではなく名前を持つ妖精に出逢えたなら貴方にも[精霊眼]を身に付けることが出来るわ」
「その名前を持つ妖精にはどうすれば会えるのですか? 」
「運が良ければどこかで出逢えるでしょうし、霊峰ジーフに精霊の楽園があるそうなので、そこに行けば会えるでしょう」
「ジーフですか……」
霊峰ジーフは聖騎士団が修行をする剣山としても有名で教会の管理下にあるので、今行っても入ることは難しいだろう。
「あなたならきっと直ぐに出逢えるわ」
「だといいのですが。……それでは一度報告もしないといけないのでフェブラの街に帰ろうと思うのですが、サフィエンティア様にも出来れば最後にお礼を行っておきたいのですがどこに行けば会えますか?」
「彼は昨夜、しばらくエルフの里を留守にすると出ていったと使いの者から聞いたから会えないでしょう」
「そうなのですか……。いや分かりました、またエルフの里に戻ってきた時に改めてお礼を言います」
「そうしてくれると助かるわ」
この後にサフィエンティアはエルフの里には帰ってくることは無かった。
そして試練の森にある神木が破壊されるのだが、今のアヴラム達には知る由の無い話である。
■■■
こうして無事に[エルフの涙]を手に入れたアヴラム達は、フェブラの街への帰路につくのであった。
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