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第2章 エルフの秘宝
レジーナとの話
しおりを挟むユキノの案内で大婆様と面会することになったのだが、エルフの信頼を勝ち得るために試練を受けることになった。
エルフの試練を受けるのは良いのだが、どのようなものなのかは知っておきたいのでレジーナに話を聞いていく。
「試練とはどういうものなのですか?」
「本来はエルフが大人として認めるに値するかを確かめる試練だよ。試練の内容は詳しくは話せないが、心技体の全てにおいて試されることになる」
「心技体ですか、それはまた厄介な。因みに挑む方法は一人でですか?」
「いや必ずしも一人で挑む必要はないよ。仲間で手助けしあうことが出来るのも実力の内だからね。君たちは3人で挑めばいい」
「3人とは?」
「ユキノも行く。私たちの運命はアヴラムと共にある。だからあなたを選んだ私は全てを見届ける必要がある」
「そうなんだ……ってまさかこれからもずっと付いてくるつもりなのか?」
「アヴラムが試練を乗り越えたら当然そうするつもり。駄目なの?」
「いや駄目ではないというか……どうなんですかレジーナ様?」
エルフの事情は知らないが、さすがに大人でもない子供を連れて旅をするということを勝手に決めることは出来ない。
「うん、それは悪くはないんじゃないかな。ユキノがこの試練を乗り越えたらエルフとしてはもう立派な大人だ。ユキノが望めば誰も止めることは出来ないよ。それともアヴラム君は嫌なのかい?」
問題が何も無く、ユキノが望むのであれば断るつもりはないのだが、ユキノがジト目でこちらを見てくるので雰囲気的にも断りづらくなっている。
「いや付いてくるのが本当に良いことなのかは分からないですけど、それをユキノが望むのであれば構いませんよ。でもユキノの御両親にも聞かないと駄目なのではないですか?」
「いや、ユキノの保護者は私だよ。彼女の御両親はね……」
「そうだったんですか。言いづらいことを聞いてしまってすみません」
「いやいいんだよ、もう随分と昔の話だよ。ユキノの血筋のことはもう聞いたかい?」
「ええ、祖父が人間だったと。もしかしてそれでエルフから迫害を受けたりしたとかですか?」
人間を受け入れないエルフの村に人間が生活することになったら、十分にありえる。
「まぁ確かにユキノも祖父は苦労していたみたいだけどね。ユキノの御両親は人間との融和を図ろうとしてね……」
ユキノの両親は人の文化を取り入れたり人の村に住もうとしたりしていたみたいだが、エルフと人間の融和も図る心半ばで魔物に殺されてしまったそうだ。
「そうだったんですね……」
「だからユキノの保護者は私だからね、気兼ね無く貰ってくれればいいよ。ユキノは気が利く子だよ」
「ちょっと何でいきなりそういう話になってるんですか」
「ふふ冗談だよ。冒険者の仲間で結ばれるなんてよくある話だから先手をうっておこうかなとね。でも君がエルフの試練を乗り越えれたら本当に貰ってくれても構わないんだけどね」
後ろにいるユキノとビートは何の話をしているのか分かっていないようだが、いきなり何を言い出すんだこのおばさんは。
「まぁ冗談はさておいて、君は何を望んでこの里に来たんだい? ユキノを送り届ける為だけに来たわけではないのだろ?」
「大婆様には嘘は通用しないから正直に話した方がいい」
後ろでユキノがアドバイスしてくれる。
「そうですね、確かに俺達には目的があります。[エルフの涙]というアイテムはご存知でしょうか?」
「そうなのね、よりによって[エルフの涙]ですか……いやむしろ丁度良かったのかもしれませんね」
「それはどういう……それに[エルフの涙]は一体どういうものなのですか?」
「エルフの試練を受ける場所、そこを更に抜けた場所にあるのがエルフの神殿ですが、[エルフの涙]はそこにあるのです。そしてエルフの涙というのは……」
ということでレジーナが[エルフの涙]について、そしてエルフの歴史について語ってくれた。
■■■□□□
レジーナによると[エルフの涙]はエルフの中でも格の高いハイエルフと呼ばれる存在になったエルフの命の結晶とも呼ぶべきものなのだそうだ。
ハイエルフとしての命を全うし、エルフの神に昇華されることで結晶が残されるのだそうで神殿にエルフの涙は納められているそうだ。
亜人には人間になく魔物にあるような魔核(石)が体にある。だからこそ固有の魔法やスキルといったものを使えるのだが、それが人からの差別の理由にもなっていた。
隠された過去だが、大昔には魔物から得られる魔石よりも質が高いこともあり亜人狩りも行われた過去もあったほどだそうだ。
そんな中で更にエルフが人間から狙われるようになるきっかけとなったのが[エルフの涙]だ。
どこから知られたのかは分からないが[エルフの涙]と呼ばれるアイテムの存在とそれがエルフの魔核であるという情報が流れ、生命の神秘とも呼べる効果によって人間はこぞってエルフを狩るようになった。
普通のエルフを殺しても[エルフの涙]と呼ばれる結晶が得られることはないのだが、そんなことはお構い無しにエルフを刈っては魔核を取られ続けた。
だがただの魔核では[エルフの涙]と同じ効果を得られることはないので徐々に騒ぎは沈静化したのだが、一度受けた心の傷は直ぐには回復できない。この事件を切っ掛けにエルフは人間との交流を止めて人知れない場所に里を築き上げたそうだ。
■■■□□□
「こんな重要な話を人間である俺に話しても良かったんですか? それにエルフと人の交流が無くなる原因となるモノを自分が手に入れても大丈夫なのですか?」
[エルフの涙]を置いてある場所の情報なんて、人間に広まってしまったら再び大変なことになりかねない。それに話を聞いた後では気軽に欲しいとは言えない。
「問題ないさ、我々エルフもそろそろ変わらなくてはいけないんだ。それに君はユキノが選んだ男だからというのもあるけど、教えたのは君に見せられる誠意かな。それに精霊がそんなにイタ……遊んで楽しそうなのは初めて見たからね」
「なんか最後に変なこといいかけませんでした!? ちょっと俺は何をされてるんですか!」
「ふふっ、それは君も見ることが出来るようになったときのお楽しみにとっておきな」
「いや気になりますよ、ちょっとユキノ何となく分からないの?」
「……」
「不安になるから何か言ってよ……」
■■■
この日はレジーナとユキノの積もる話もあるということで、色々と話ながら夜が更けていった。
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