勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

文字の大きさ
上 下
48 / 80
第2章 エルフの秘宝

ユキノの話

しおりを挟む

 エルフを保護していることをギルドとしても認めてくれる採決が下されたが、ユキノに聞けていないことも多いので再度話し合いをすることにした。
 ユキノのお腹の虫が鳴ったので、食事をとってから落ち着いたところで話をする。

■■■

「それでユキノ、勇者を既に見つけたとは一体どういうことなのかな?」

「精霊が言ってるの、アヴラムと一緒にいるべきだって。それがエルフを助ける最善なんだって」

「精霊? でも俺は勇者ではないよ」

 あのクズと同じ勇者と言われると少し微妙な心持ちになる。

「人にとっての勇者は知らない。でもアヴラムは精霊に愛されてるみたいだし、私にとって勇者はアヴラムなの。ここでアヴラムに助けられたのも偶然とは思えない」

 勇者と言われてユウトの事だと思っていたのだが、そうではないようだ。確かにあの勇者にユキノを引き渡すのは気が引けるので、それはそれで良いのだが。

「うーん、まぁ俺が勇者かどうかは置いといて精霊って何なのかな?」

 魔法を使うために大精霊の力を借りるということは知っているが、ユキノの話す精霊はそれとはどうも違うみたいなので確認をする。

「精霊は私たちの周りのいろいろな場所にいて常に見守ってくれているの。そして大精霊との架け渡しもしてくれる」

「ユキノはその精霊を見たり話したりすることが出来るの?」

「私はまだ姿をはっきりとは見れないし話せない。でも大事なことは感じ取れる。アヴラムの周りにいる精霊は楽しそうでこんなに嬉しそうなのを今まで見たこと無かった」

 ユキノには光の珠のように見えているらしいので、アヴラムは周りを見るがもちろん見ることも話を聞くことも出来ない。

「あれ? でもさっき精霊が俺が勇者とか言ってたって話してなかった?」

「……それは比喩。直接聞けてはないけど精霊がこんなに好んでいるアヴラムが、探していた精霊が導きし者に間違いない」

 ユキノの間違いでエルフの里に行った後にやっぱり違ったと追い返されたらどうするんだと思うが、[エルフの涙]の手掛かりを得るためにエルフの里には行きたいのでこれ以上は深く聞かないで話を変える。

「……まだということは、訓練すれば精霊を見ることが出来るの?」

「私はまだ方法を知らないし、里の大人達でも多くは見ることが出来ないから分からない。でもエルフにしか見えないとも聞いたこと無いから大婆様に聞いてみればいい」

 聖騎士団にいた時でさえ精霊が見える人などいなかった。もし見えることが出来るようになるのであれば[ゴブリンの生角]どころの話では無いだろう。

「そういえば里に行くって話だけど、危機って何があるの?」

「詳しくは大婆様も話してくれなかったから分からない。でもこれまでに無かった動きが魔物にあるみたい」

 魔物の動きが関係しているのであれば、もしかするとこの前に遭遇した[…]と関係があるのかもしれない。

「それは確かに気になるな。……でも本当に俺がエルフの里に行っても大丈夫なんだよね?」

 いくらユキノが良いと行っても人と交流を絶っているエルフの村に行くのは本当に大丈夫なのか流石に心配になる。やっぱり勇者でないから駄目だと追い出されたらトラウマものだ。

「大丈夫、何があっても精霊に愛されてる人を蔑ろにすることはない。アヴラムと……あとはビートも大丈夫」

「ということはフォッシルさんとかモブレインさんは駄目なのか?」

「うん。特にあの人は精霊が絶対駄目だって言ってるの」

 そう言ってユキノはフォッシルの方を指差す。

「精霊に嫌われるって何をしたんですか?」

「心当たりは……ありますね」

 フォッシルは苦笑いしている。

(あまり深く追及しない方がよさそうだな……)

■■■

 ユキノがエルフの里に連れていってくれるみたいなのだが、今後の予定についてフォッシルにも確認する。

「ならエルフの里には俺とビートだけが行けばいいんだな」

「そうなるのでしょうな。我々が付いていっても追い返されるのが関の山でしょう。[エルフの涙]を入手出来ていないのにこれ以上、力になれずに申し訳ない」

「いえここまでこれたことも、ユキノを助けられたのもフォッシルさんのお陰なのですから謝らないで下さい」

「そう言って頂けると有り難い。私はここまでの報告をするために一度、商会の本部に戻りますが、お二人のご武運を願っていますよ」

「別にエルフと戦いに行くわけでは無いのですが……」

「ほっほ、そうでしたな。ですがこれまで人を受け入れていなかったエルフの里に行くわけですから一筋縄ではいかないでしょうから、くれぐれも気を付けてください」

「そうですね、有難うございます。かならず良い報告が出来るように頑張ってきます」

 こうしてユキノを助けるための長い1日が終えたのだった。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...