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第2章 エルフの秘宝
マルクの町
しおりを挟むエルフが捉えられているかもしれないということなので、アヴラムとビートそしてトロイメア商会の商人であるフォッシルを加えた3人は、聖都市から北東に進んでいった場所にあるマルクの町まではるばるやって来た。
小さな町なので領主の館が一番大きく直ぐに分かるのだが、いきなり訪ねても門前払いになる可能性が高いということで、まずはトロイメア商会の持つルートを頼る為にフォッシルに付いていく。
■■■
町に入って少しした場所でフォッシルが事前に連絡を入れていた人と落ち合う。
「この方がトロイメア商会の商人がこの人なのですか?」
初老の男性だが帽子を深く被っておりローブを纏っているので殆ど顔が隠れている。商人という印象は受けず、むしろ魔導師と言ったほうが正しいだろう。
「モブレインと申します。以後お見知りおきを」
「ええ、よろしくお願いします」
見た目に反して社交的だったので安心する。
「それではご案内させていただきますが、アヴラム様とビート様をどのように紹介すればよろしいでしょうか?」
「そうですね、交渉が有利になるならどのような形でもいいですよ。自分が考えるより専門家に任せます」
「それは有難いですね。分かりました、では約束は事前に取り付けておりますので付いてきてください」
段取りよくすでに町の領主と会食の準備を整えてくれているそうだ。
そんなことをあっさりと出来るというのは、それだけ商会がこの町に溶け込んでおり信頼されているのだろう。そしてだからこそ今回の話が舞い込んできたのだろうが。
■■■
領主の館に到着すると恰幅の良い男性に出迎えられる。
「おー、遠路はるばるよく来てくださいましたな。私はこの町の領主をしておりますモルゴスと申します。そちらが噂のお方ですか?」
「噂ですか?」
アヴラムには心当たりがないので尋ねる。
「ええお噂はそちらのモブレインさんからかねがね聞いておりますよ。その若さで聖騎士団に所属されていたとかで聖騎士団と深い繋がりを持っておられ、トロイメア商会の商会長とも懇意にされているとか」
「えっと……まあそうですね」
後にモブレインに説明してもらったが、モルゴスは地方の領主でありお金儲けの為にエルフを利用するぐらいの人物だ。さらには中央に太い繋がりを持ちさらなるお金儲けを企んでいるようなので、興味が持って貰えるように事前に説明をしていたそうだ。
流石に聖騎士団でどのような立場だったのかは萎縮しないように伝えていないようで、また完全に間違ったことを伝えているわけではないので否定はしなかった。しかし事前に伝えてしまっているのに紹介方法を聞いてきたのは何だったのだろうか。
「他の方のお食事も用意をしておりますので、どうぞこちらへ、いらしてください」
トロイメア商会の要人の一人として思われているのは不本意だが、モブレインの仲介もあって無事に怪しまれることなく屋敷の中に案内されたので話に乗っかることにした。
そしてまずは親睦を深めるために一緒に食事をすることになった。
■■■
領主のモルゴスとの食事会は何事もなく進んでいき、お互いの警戒心が溶けてきた所で本題を切り出す。
「噂で聞いたのですがこの町で最近、寿命を伸ばすアイテムが出回っているとか」
「……アヴラムさんはそういったものにも興味がおありで?」
「冒険者という職業柄、命が幾つあっても足りないですからね。そのアイテムの素晴らしい所は死の淵をさ迷う者でも呼び戻すとか」
「はっは! 流石にそれは言い過ぎでしょう。確かにそんなものがあれば冒険者にとっては垂涎の代物でしょうな」
「トロイメア商会で取り扱うのではないかという噂があるのですが、いかんせんお金のない私のような所にはなかなか回ってこないのですよ」
「それはそれは、トロイメア商会で取り扱い始めたその時は私もおこぼれを頂きたいものですな」
「ええ是非ともご懇意にしていただければ」
その後も話は続いたが、この場でモルゴスがボロを出すことは無かった。
しかし確実にアヴラム達が良い取引相手になると確信したような目をしていたので、この後で何か接触があるはずだ。
■■■
その日の夜は領主の進めもあって、領主の館で宿泊することになったのだが、このまま引きこもっていても接触してきて貰えないので、ビートと二人で夜の町を出歩くことにした。
聖都市はもちろんフェブラと比べても小さな町なのでお店は多く無いのだが、それでもこの町にいる冒険者達で活気に溢れている。
このような普通の町の背後で領主が悪事を働きお金を稼いでいるとは思いたくない。
だが想いとは裏腹に人通りの多い場所から少し離れ路地裏に向かうと領主の館を出たところから付いてきていた男が直ぐに近づいてきた。
「おい兄ちゃん、この辺で見かけない顔だな?」
暗闇の背後から話しかけられたので、人拐いの記憶が蘇ったビートが一瞬殺気立てるので、頭を撫でて押さえる。
「観光ですよ。フェブラの街から来たのですがここも良い町ですね」
どういう意図をもって近づいてきているのかまだ定かではないので話に乗る。
「田舎だよこんな町……。まぁこんな話は置いといて、面白い話があるんだが興味はあるか?」
どう考えても怪しさしかないのだが、この話に付き合わなければ何も始まらないし目的を果たせないので乗っかる。
「面白い話ですか? それは気になりますね。因みにどんな話ですか?」
「それはここでは話せないな。興味があるなら場所を変えるから付いてきな」
警戒はされているが敵対している雰囲気は無く、いきなり襲われることは無いだろうが、ここから先は何が起こるかも分からないので気を引き締めてこの男に付いていくことにした。
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