勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

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第2章 エルフの秘宝

[…]

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 アヴラムは周辺から近づいてくるショウグンガザミを倒したのだが、ハンスとビートの近くに今まで感じ取る事が出来なかった反応があるので急いで二人の元に戻る。

 アヴラムが二人の元にたどり着くと、ちょうど最初に見かけたショウグンガザミを倒しきった所だった。

「おー、アヴラムか! どこに逃げてたんだよ、こっちはお前さんがいなくても倒しきったぜ! 」

「そんなことはいいからそこから離れろ!!」

 アヴラムが叫ぶとビートはスキル[脱兎]があるので素早く飛び退けるが、ハンスは訳がわからず動かなかった。

 なので地中から這い出てくるショウグンガザミの一撃を諸にくらってしまう。

「「ハンス!」」

 急いで駆け寄ろうとするが、ハンスに止められる。

「来るな! 俺は大丈夫だから。それよりこいつはなんだ、さっきのよりかなりデカイぞ!?」

 怪我はしたが動けないほどの致命傷では無いようなので安心する。

 地中から出てきたショウグンガザミの体躯は、これまで倒してきたものの比では無いほどの巨体だった。

 アヴラムもこのサイズのショウグンガザミを見たことはなかったが、これまでの知識から答えをだす。

「多分こいつは母親なのかもしれない。しかも繁殖期の。 だからオスに近くを警戒させながら地中深くで身を隠していたんだろう」

「おいおい、マジかよ……。こんなデカイやつ見たことないぞ! どう戦えばいいんだよ!?」

「このまま放置すると魔物が大量発生しかねないし一応は倒せるかやってみるが、その間にハンスとビートは離脱してくれないか?」

「なっ、俺も…………いや分かった。行くぞビート」

「ワかった」

一度は自分も戦おうかと考えたみたいだが、足手まといになると思い直し指示に従って離脱してくれるみたいだ。

「おいアヴラム、これを使え!」

 そう言われて渡されたのは魔道具[鳴神]だった。

「いいのか?」

「当たり前だろ! こいつを野放しにしたらショウグンガザミが大発生しちまう。そうなったらかなりの被害が出るから、倒せるならそんなもの安いもんだ!」

「……有り難う、最善を尽くしてみるよ」

「無茶だけはするなよ!」

 そう言い残し、二人はこの場から離脱した。

■■■

「さてどうするかね……」

 ショウグンガザミは本来はDランクの魔物なのだが、目の前にいる奴はただデカイだけでなくBランク級の強さはあるだろう。
 さらに特徴的な殻を活かした防御と、鋏の攻撃はAランクにも匹敵するかもしれないので、さすがのアヴラムでも手こずる相手だ。
 聖剣であれば話は別なのだろうが、Aランク級の甲殻類相手に剣だけで戦うのは相性が悪い。
 相手もこちらを警戒しているからか攻撃を仕掛けてこないが、こちらもなかなか打つ手が思い付かないが、このままでは埒が明かないのでとりあえず攻撃が通じるか試してみようと歩を進めると、空から何かが間に割って入ってきた。

「やめろ!」

 人の言葉を話し人の形をしているが、フードを目深に被っていて顔はよく分からない。
 真人族なのか亜人なのか、はたまたそれ以外なのか。
 雰囲気も人のようで人のそれとは違う何かであるとしか分からず、魔物の見方をしているからと言って魔物であるとも言い切れない。
 得たいの知れない[何か]としか分からないので警戒を最大限高めながらも、アヴラムはその[何か]に問いかける。

「お前は一体なんなんだ!」

「俺は[…]だ」

 知らない言葉で喋られたようで上手く聞き取ることが出来なかった。
 しかし聞き返すことは雰囲気的に出来ない。
 正確には[…]の強さは計りかねるが、醸し出す雰囲気は迂闊に手を出すとヤバいと物語っている。

「お前はなぜこいつを殺そうとする?」

 お互いに膠着状態になっていたが[…]が質問してくる。

「それはこのまま放置すると、甚大な被害が及ぶ可能性があるからだ」

「それは人の、冒険者の都合だろう? この魔物はまだ何も危害を加えていないのに倒される謂れはない!」

「それはこちらも同じだ、ただ黙ってイタズラに魔物の脅威を増やして、犠牲を出す謂れはない!」

すると小さくアヴラムに聞こえない声で[…]は呟く。

「……やっぱり嫌いだ人間」

「なんだって?」

「ここは引いてくれないか? お互いにここで戦うメリットはないだろう?」

 倒せる敵を目の前にしてそれを取り逃がす結果が何をもたらすか分からないので断りたいのだが、[…]の得たいのしれない雰囲気に引かざるを得ないと、本能的に引くことを了承してしまう。

「……分かった」

 アヴラムは最大限警戒を続けながらも剣を下げる。
 すると警戒の範囲外の空から巨大な何かが降りてきた。

「なっ! 古龍だと!?」

『ほう、ワシの存在を知っておるのか人間』

 念話で直接頭の中に古龍の声が響く。
 古龍は龍の中でも格の高い龍で、伝説級の生物だ。
 討伐ランクは軽くSに達するだろうが、今では倒した実績が残っていないのでランクが設定すらされていないほどの伝説級の存在だ。
 大聖剣を携えた勇者一向の、それも魔王を討伐に挑むメンバーですら苦戦は免れないと言われる。

「なぜ、古龍がこんな所に」

 慌てて剣を向けるのだが、聖剣すら持たない今のアヴラムでは恐らく太刀打ちが出来ない。
 しかしそれでも、ここで何もせずに逃げ足すことは出来ない。

『フォフォフォ、我に剣を向けるか人間。本当なら相手をしてやりたい所じゃがのう、縄張り以外での戦闘は魔王様に禁止されとるからしかたがない』

 どうやら戦う意志が無いということなので一安心するのだが、少しでも情報を得るために質問をする。

「魔王様ということは、貴方は[ネームド]なのですか?」

『左様、ワシは[ミオール・ガルナ]じゃ。ワシを倒したくば魔王城まで来るんじゃな』

「なぜ貴方のような高位な存在が魔王に従っているのですか?」

 [竜]の上位種である[龍]は本来、人にも魔王にも靡かず、孤高の存在であるはずだ。
 さらに上位種と呼ばれる古龍が魔王に従っているのだ、何か理由があって全ての[龍]が魔王の軍門に下っているのであれば魔王討伐は遥かに難易度が上がるだろう。

『それはのう……』

「おいガル爺、長話はそれぐらいにして帰るぞ!」

 痺れをきらした[…]に話を遮られる。

『フォフォフォ、そういうことじゃて。ここらで失礼するぞ』

 引き留めて戦う意思を持たれると、逃げることすら叶わなくなる可能性があるので出来ない。
 そして古龍ガルナとの話に気を取られていたので、気付くとショウグンガザミは地中奥深くに潜ったのか気配を感じ取れなくなっていた。
 アヴラムが攻撃を仕掛けてくる様子も無いので、[…]はそれを確認してから古龍の背に乗り、飛び去っていった。

■■■

 一先ずの危機は去ったので、アヴラムは腰をつく。

「古龍が[ネームド]……そして[…]とは何者なんだ」

 疑問は尽きないが今のアヴラムではまだどうすることも出来ないので、とりあえずは報告するためにギルドに帰ることにした。

 この日を境に[…]は表舞台に出てくるようになるのだが、アヴラムが戦うことになるのはまだ先の話である。
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