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第2章 エルフの秘宝
交渉する
しおりを挟む路地裏で話しかけられた男に付いていくと、町の外れにある酒場に案内された。
入口には屈強な獣人が立っており、普通の人は入ることが出来ない雰囲気だ。
ビートはその獣人と話がしたいとのことなので、アヴラムだけ酒場の中に入る。
酒場の中にいる人たちは皆、関係者なのだろう。アヴラムが入ると直ぐに談笑が止み、こちらを伺ってくる。
「俺の客だから気にせず飲んでくれ! さぁ君には見せたいものがあるから奥の部屋に来てくれ」
男が店のなかにいる人たちに声を掛け、酒場の奥にある個室に案内された。
■■■
個室といっても実に簡素でランプが心許なげに灯っている。
「それで見せたいものとは何ですか?]
「不老不死の薬があると言ったらどうする?」
「不老不死ですか? それはまたすごい話ですね」
内心では予想通りなので早く話を進めたいが、なるべく違和感の無いように話を進める。
「ここだけの話なんだがな、俺はとあるルートからSランクのレジェンダリーアイテムを入手出来てな、それが何と寿命を伸ばせるアイテムなんだよ」
「それは凄いですね、そのアイテムの名前は何なのですか?」
「聞いて驚け、エルフの涙だ!」
男が液体の入った小瓶を見せてくる。
「それは凄いですね! それがエルフの涙ですか……。でもエルフなんて何処にいるかも分からないのに、どうやって入手を?」
「それは流石に言えないな。それでどうする買うか? 一つ金貨10枚で売ってやるぞ」
「そうですね、因みに幾つ買えるのですか?」
「今は一つしかないが、時間さえくれれば用意することが出来ると思うぞ。幾つ欲しいんだ?」
「そうですね、これだけ珍しいものであれば幾つあっても足りないぐらいですね」
そう言って金貨が一杯入った袋をチラつかせる。事前にフォッシルから預かったお金で、交渉の際、実際にお金を見せた方が買う気があると思ってもらえるそうだ。
「……分かった、それならまた明日の夜にここに来てくれ。流石にそれだけの量を用意するとなると俺個人では判断がつかねぇ。出来るだけ準備してもらえるよう手配はするがそればっかりは都合がつかないかもしれないからな」
「そうですか……分かりました。ではまた日を改めてということで」
アヴラムは後日またここに来るという約束をして酒場を出た。
ビートも話を終えていたので、合流して酒場を離れる。
■■■
「追ってきてはいないな?」
「うん。ケハイはないからダイジョウブだとオモう」
「ならここからは別行動だ。俺は張り込みを行うからビートは先にフォッシルとモブレインに合流してくれ」
「……ワかった」
ビートの隠匿スキルのランクは低いので、一緒に行動すると勘付かれる可能性が高まる。
エルフの涙を取りに男が動くまで、どれくらい掛かるか分からないがここからは慎重に動かなければいけない。
ビートは領主の館に戻り、アヴラムは闇夜に紛れた。
■■■
「ここは……」
男を追跡した結果、たどり着いた先は領主の館だった。男は館の裏側から領地に入り、辺りを警戒し見渡したと思ったら隠し扉をくぐり中に消えていった。
自身の領地で匿うとは実に大胆だが、どうやら領主が関わっているどころか領主が完全な黒幕の可能性が出てきた。
「これはもう少し領主にかまを掛けてみなければいけないな」
出来ることなら隠密に事を進めたいし、先ほど男が入っていった先にエルフが捉えられているとは限らないので、黒幕と思われる領主にもっと取り入り自ら案内してもらわなければ失敗に終わる可能性がある。
なので一度、他の3人に合流して今後の方針について話し合い、その日は更けていった。
■■■
一夜が明けて、領主も交えて再び一緒に朝食を食べることになった。
「昨夜は良く寝られましたかな?」
「ええ素晴らしい部屋を用意していただいたお陰で快適な夜を過ごせました」
実際にはアヴラムは警戒しながらだったので殆ど寝ていないが、慣れているので問題はない。
「それで今日のご予定はどうなさるのですかな? 町を視察されますかな?」
「いえそれはまたの機会にしましょう。それよりここだけの話なのですが、今後トロイメア商会では例のアイテムを本格的に取り扱いたいと考えています」
「ほう、それはそれは入手の目処がたったのですな」
昨夜に大量に買いたいと報告を受けているであろう領主はホクホク顔をしているが、アヴラムの言葉で徐々に真剣な眼差しに変わる。
「ある程度は目処が立ちそうなのですが、如何せん本当に準備していただけるのか分からないので心配しているのですよ」
「と言いますと?」
「本当に信頼して取引できる相手かどうかが分からないのですよ。実際にこの目で確かめることが出来るのであれば納得も出来るのでしょうが」
「……つまり実際にエルフを見てみたいとおっしゃられているのですな?」
モブレインとフォッシルがフォローしてくれる。
「ええ、それさえ出来ればすぐにでも商会の本部から予算を貰えるでしょうな」
「今回の話は我々の商会にとっても大きな取引にしたいと考えていますからね。だからこそ何か確信を得られなければ話を進められないのです」
「……」
「冒険者ギルドのみならず、聖騎士団での需要も計り知れないでしょうから、そうなると中央に太いパイプも出来るでしょう」
「……分かりました。ここで話すのは何ですから場所を変えましょう」
(食い付いた!)
頑なに無関係を装っていたのだが、どうやら目先の利益への欲望に負けて案内してくれるようだ。
穏便にことが進むことに越したことはないが、いるであろうエルフを領主から解放するためには戦いになることは避けられないだろうから、気を引き締めて領主の案内に付いていくのであった。
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