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第1章 冒険者生活を始める。

獣人と人拐い?

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 無事に疑いが晴れたので、さっそくギルドに戻ってルインさんに報告しに帰ろう。

 そう思ってトロイメア商会を出たところで、いきなり土下座をされた。

「母を助けてくださイ」

(誰だろう? 別に俺の知り合いではないし、見たところ獣人なのでビートの知り合いか?)

 そう思って隣を見るも首を降ってるので違うようだ。

 というよりこんな所で土下座をされると通りすがりの人たちが何事かと見てくるので、目立ちたくないアヴラムにとっては非常に困る。

「おい、頭を上げてくれ。こんな所で土下座されても困る。とりあえず話を聞くから」

「本当ですカ!?」

 顔をあげると涙で顔がぐじゃぐじゃだった。

「ああ、本当だからとりあえず土下座ををやめてくれ!」

 端からみると子供を泣かせながら土下座させているとかどうみても悪いやつだ。


 これは変な噂が立つかもしれない……

■■■

 とりあえずトロイメア商会の前を離れて、歩きながら話を聞いたところ、このいきなり土下座をかましてきた子供は猫の獣人で名前はリコンというらしい。

 そしてどうやら、リコンの母親が人拐いに襲われているから助けてほしいとのことだ。

 リコンは何とか追っ手を撒いて、助けを呼びに来たが誰も助けてくれなくて、必死にお願いし続けていたところ、出会ったのがアヴラムということらしい。

「なら早く向かうぞ! もし奴隷契約を結ばれたらどうしようもできなくなるから案内してくれ!」

 ビートをギルドに預けてからにしようかとも思ったが、もし今襲われて捕まりそうになっているのなら1秒を争う状況だ。

 人拐いはあの手この手で、狙った相手を嵌めて人を捕まえる。

 そしてグレーゾーンに生きているから関連性する法律にも詳しい。

 奴隷の契約を結ばれてから手をだせば、悪いのは助け出したこっちになってしまうことも、熟知しているのだ。

 アヴラムはこれで何度も聖騎士団の時に煮え湯を飲まされた。

 リコンが『こっちです!』とアヴラムの手を引っ張っていき、その後ろをビートがついてくる。

 ビートはまだアヴラムとあんまり口を聞かないが、リコンの置かれている状況には自分を重ねる所があるのだろう。
 リコンを励ましてるし俺にも『ハヤく!』と言ってくる。

とりあえず、今はとにかく急ごう。

■■■

 焦っていたからという言い訳をしておくが、なぜ街中に人拐いがいるのか? とか、こんなことをなぜ商会から出てきた人に頼んだのかとか疑問に思わなかったのは失敗だったと思う。

 リコンによって連れてこられた場所が人通りが少ない路地裏なのだが、たしかこの辺りは盗賊とかが出るという話だったはずで、街の人は普通ここに近付かない。

 リコンも良く良くみれば、焦っているというよりは緊張しているように見える。

(これはどうやら嵌められたのは俺の方なのかもしれない……)

■■■


 どうやら嫌な予感は正しかったみたいだ。

 行き止まりに到着したのでどういうことか聞こうとすると、俺の脇をすり抜けて、するすると元来た方向に戻る。

 なので後ろを振り向くと、盗賊団らしき男達がそこにいて、リコンはその後ろがわに立っている。

 はぁーやっぱりか……

「リコン! これはどういうことなんだ?」

「騙されたあなたたちが悪いんですヨ!」

「ひゃっはっは! そういうことだ兄ちゃん!大人しく金目のモノを寄越しな!モノによっては命は助けてやる」

 まぁ、そういうことだよな……

「大人しく俺たちを逃がすという選択肢はないのか?」

「ぶっはっ! お前この状況みてわかんねぇのか? こっちは20人以上いるんだぞ? それにここは俺達の庭だ、大人しく聞いときな!」

 どうやら盗賊達はアヴラムのことは知らないらしい。

 どの相手を襲うとか事前に決めていた訳ではなくて、商会から出てくる人(=金持ち)ということで、適当に声をかけて、付いてきた奴を襲うというのが、こいつらの手口なのだろう。

 でもたしかトロイメア商会って武闘派だったよな? なのにそこを狙うってこいつらアホか?

 まぁ、狙ってはいけない人物(商会の実力者)とかは調べていたのかも知れないが。

■■■

「分かった、金を渡せばいいんだな?」

 まだビートがどれだけ動けるか知らないので、守りきれない可能性がある以上、穏便に済むのならお金ぐらい惜しくない。

「ようやく自分の立場を理解したみたいだな!そうだな、見たところ他にめぼしいモノを持っていないみたいだからな。だが、ついでにその獣人も置いてけ!」

 何を勘違いしているのだろうか?こっちが大人しくしていれば、俺が本当にこの場を切り抜けられないから素直に従うと思っているのだろう。

 この状況でこれだけ落ち着いている奴を相手にして、何かあるとも思わないとはバカなやつらだ。

 そういう言葉は後ろのリコンのように、逃げられるのであれば直ぐにでも走って逃げだしたそうにじりじりと後退している奴に言うんだな。

「安心しろビート。俺がなんとかしてやるから信じろ!」

 ビートにだけ聞こえるように声をかける。

「おい!何を話してるんだ?さっさとこっちに引き渡しやがれ!」

 ビートが『わかった』と答えたので、小脇に抱える。

 えっ? と驚いた顔をするビートだが、仕方ないだろう、俺の傍が一番安全なんだから、こうするのが手っ取り早い。


 そうして、左の脇にビートを抱え、右手にお金が入った袋を持って盗賊に近づいていく。

■■■

「おい!あんまり近づいてくるんじゃねぇ。そこにお金を置いて下がりな!いやまてよ……違うな、その獣人に金を持たせてこっちにこさせろ!」

「わかった、わかった。だから落ち着け」

 アヴラムはビートに『これを持っていてくれるか? 直ぐに終わるから』と伝える。

 とりあえず索敵スキルである[気配察知]を使って、周辺にどれだけ盗賊が潜んでいるのか確認するが、ここにいるひと以上のそれらしき人が見当たらない。

 俺達を囲っている奴らがほとんどみたいだ。

 あとは恐らくだが、ここに来るまでの道のりで道端に座っていた人がいたが、そいつらも逃げ道を塞ぐ仲間だろうな。

 なんとも杜撰な犯行なことだ……

■■■

 暫くして意識を保ってこの場にいるのはアヴラムとビート、そしてリコンの3人だけになった。

 意図的にリコンを残したというよりは、逃げ回るのが、想像以上に上手かった。

 恐らく、生き残る為に必死に身に付けたスキルなのだろう。

「おいリコン、説明してくれるよな?」

「お、お前、なんなんダ? 商人じゃなかったのカ?」

(あーやっぱり俺のこと商人と勘違いしてたな)

 トロイメア商会ならそこそこ腕の立つ人もいるから助けてくれるだろうが、20人で囲めば余裕で倒せるという算段だったんだな。

「いやまぁ商業ギルドに仮だけど所属してるから商人といえば商人だが、あれだなお前らは運が悪かったんだ。」

「こんなに強い商人がいるなんテ……」

「それでお前はどうする? 最後まで戦ってみるか?」

「見逃してくれるのカ?」

「それはお前の話しだいだな」

 獣人が盗賊で働く理由なんて、限られる。

 あとは今後、リコンがどうなりたいかだ。

■■■

 とりあえずこの盗賊団のこと、他に仲間がいるのかを確認し、あとはなぜ盗賊に入ったのか聞くが、やはりおおかた予想通りだった。

 スラムで生き残る為に始めた盗みの仕事だったが、この伸びている盗賊団に目をつけられたみたいで、他のスラムの仲間達に手を出されたくなければ、その能力を盗賊家業に使えと脅されたみたいだ。

 でもこの盗賊団はアヴラムが聞いたことがないということは、まだ結成して日が浅いのだろう。

 まぁそうでなければ裏の社会でのほうが、ある意味で顔が知れ渡っているから、見た瞬間に正体に気付かれたはずだしな。

 でもそれならまだ救いがある。

 あとはリコンが本当に盗賊家業から足を洗う意志があるのかどうか、それだけだ。

■■■


「なぁリコン。お前が望むのであれば俺はチャンスを与えたい」

「チャンス? 俺を見逃してくれるのカ?」

「確かにそれも出来なくはないが、捕まっても、リコンの状況なら、そんなに酷いことにはならないと思う。それなら過去を清算し新しい一歩を踏み出さないか?」

「どういうことダ?」

「ギルドには今回の一件を俺がちゃんと話す。そしてリコンはこれまでの罪を改めろ。そうした上で、リコンは冒険者になればいい」

 まだ、奴隷の身分に落ちていないリコンならとれる選択肢は広がる。

 また状況と獣人の立場上、生きるために必要だったという点を考慮して貰えれば、盗賊の逮捕に貢献したということで不問になる可能が高い。

 それにリコンの能力なら、武器の使い方さえ覚えれば、今から直ぐに冒険者としてもやっていけるだろう。

 また、あの身のこなしと危険回避能力があれば使い道は色々とあるからパーティーメンバーに欲しい人もいるはずだ。

「でも、俺にはお金がなイ」

 とリコンが心配する。

 あれ? 商業ギルドだとそんなに高くなかったが、もしかして冒険者ギルドは違うのかなと思い聞いてみるとアヴラムが保証金として払った額と同じ金貨10枚だそうだ。

 そういえばビートの登録の時に要求されなかったから、お金を払っていないかった。なので本登録の時は金貨10枚なのかもしれない。

 確かに金貨10枚なら、生活に窮して盗みを働かなければ生きていけない人が簡単に払える額ではない。

 まぁそれぐらい肩代わりしても問題ないが、持ち逃げされるかもしれないしな。リコンが本当に更正するんだという決心を、どうやって確認しようかと思っていると。

 ビートが確認してくれるみたいで

「おマエはホントウにハンセイして、これからマジメにイきるとチカえるか?」

「貧困から抜け出せるなら、冒険者にでも何でもなル。俺はこの尻尾に誓って、この約束を守ル」

 ビートが、確認の眼差しを向け、リコンもそれに答えるように目線を逸らさない。

「……ワかった。アヴラム、リコンはダイジョウブ。シンじていい」

(なんだ、この獣人にのみ伝わる感じは……)

 尻尾に誓うのが、獣人にとっての最大級の誓いで、破れば切り落とさなければいけないとかなんとかなのであるのだろうか?

 まぁビートがこうやってリコンを信じると言っているのだから、アヴラムもそれで良いと思うのだが、ちょっとした疎外感を感じてしまう。

「……分かった。なら、これから冒険者ギルドに報告しに行こう」

■■■

 最初はあれだけ、来るのを警戒していた冒険者ギルドだが、商人のそれもこの国で2番目に大きい商会の会長が知らなかったのなら、こんな場末と言っては怒られるが、一冒険ギルドの人達が知っている訳がない。

 なので、もう冒険者ギルドに顔を出しても問題ないという確証が得れたようなものだ。

 と、入り口前で自分は間違っていないと言い聞かせていたら、入り口の前で急に止まったので、どうしたの? という感じに後ろからビートとリコンが覗いてくる。

(はぁー分かったよ、行けばいいんだろ行けば)

 こうして二人に背中を押されて、ようやく冒険者ギルドの扉を開いた。
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