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とある祓い屋の二日間
第4話 私の仕事
しおりを挟む「それでどうするんですか東雲さん。こい……この人をそのまま帰すと、いつ襲われるか分かりませんよ?」
言ったことをしっかりと守る蓮は素直で良いが、確かにこのまま千絵さんを帰すと身の危険に晒される可能性が高い。
「そうですね……それでは千絵さん、この護符を渡しますので、身の危険を感じたら使って下さい」
護身用に護符を渡す。既に私と半契約状態にある物であり、力の弱い弱い千絵さんでも使うことが出来る代物だ。
そしてこの式神は千絵さんが襲われたとして私がたどり着くまで時間を稼ぐことが出来るものだ。
「この護符って、先ほど見せてくれた式神を呼び出せるものですか?」
「そう、これを使えば式神を呼び出せるます。なので鬼が現れたら使って下さい。しかし千絵さんに力の使い方や契約方法を教える時間はありませんから、既に私の力が込められている仮契約の状態の物ですがね」
「そうなんですね。でも一体どうやって使えばいいのですか?」
「使い方は簡単で、口に加えて息を吹き掛けるのです。正確には唾液を吹き掛ける為なのですがね」
「唾液……」
「本当は血が最も力を得やすいのですが、それは嫌でしょう?」
式神として鬼と契約する場合は、自らの霊力を鬼に対価として払わなければならない。その際に鬼との繋がりを持つ必要があるのだが、それに必要なのは遺伝子情報である。その為には血液を用いるのが一番なのだが自傷行為が必要となり躊躇なく行うことは難しい。そこで繋がりが弱くなるが簡単に契約する方法として唾液を用いた契約があるのだ。
そして千絵さんだけの力では呼び出すことが出来ないので、渡した護符にはあらかじめ自分の霊力を通わせてある。半契約状態のために霊力を通わせ続けなくてはならないので常に霊力を消耗してしまうが、今回は仕方がないだろう。
「そうですね……痛いのは嫌ですから、口に加えて息をかける方向でお願いします!」
「うん、その方が私も良いと思うよ。それでは外まで案内するから付いてきてね」
千絵さんを見送るために外に移動する。その際にお店の中を通るのだが、千絵さんは連れてこられた場所が分かっていなかったようで、ここが街の古びた骨董品店であることを知り驚いた様子だ。
「す、素敵なお店ですね」
「ハハハ、御世辞は要らないよ。仕事柄色々な物を扱うから建前上、開いているだけだからね」
「そうですよね。なんで潰れないのか前から不思議だったんですが、ようやく分かりました。祓い屋が本業だったのですね」
女子高生にお世辞を言わせてしまうほど、このお店の経営状態は酷い状況ではないのだが、一般の人に向けての商売は行っていないのでそれもやむを得ないのかもしれない。
だが私に変わって蓮が説明してくれるみたいだ。
「結構酷いなお前、これでも売上は結構あるんだぞ?」
蓮は人差し指を立てて、威張っている。しかし事実その売上に蓮が大きな貢献をしているので、威張って当然でもあるが。
「えっと百万ぐらい?」
「ちげぇよ! 一億だ一億。月に少なくてもそれぐらいはここにある物を売って稼いでるんだよ。逆に祓い屋だけでは安定して食べるには困るぐらいだ。それにここにある商品はお前が買えないような物も結構有るんだからな!」
確かにここにある物は一見しただけでは価値の分からぬものばかりだ。何も知らない女子高生が見たらそれこそガラクタと思っても仕方がない。
「蓮、人をからかうものではないよ。でも千絵さん、この蓮が色々と開発してくれるから売上が上がっているのは確かだけどね」
「へぇー、こんなに小さいのに凄いんですね」
「ええ、彼は本当に凄いですよ。今では術式とプログラミングが似ているとか言い出して、色々と開発してくれているみたいですが私にはさっぱり分かりません」
久しく直接に誉めていなかったからか、珍しく蓮が感情を隠しきれず嬉しそうにしている。そしてお金管理に厳しい蓮が珍しくタダで御守りまで渡すとは思わなかった。
「帰りはこの式神に送らせるが、いつ君を狙って鬼が現れるか分からないから、くれぐれも人の少ない場所は歩かないように帰りなさい」
「はい、今日は本当にありがとうございました。宜しくね黒猫ちゃん」
千絵さんは式神の猫に挨拶をするが、当然のように無視をされている。
「ちょっと、待って! それでは、失礼します!!」
「ええ、さようなら」
千絵さんは帰っていったが、今からが私の仕事の時間だ。鬼の活動が最も活発になるのは夜である。千絵さんを襲った鬼が全てではないのだ。
「さて行きますよ、蓮」
「はい」
こうして今日もまた私は、鬼を祓いに向かうのであった。
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