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とある少女の二日間
第7話 別れ
しおりを挟む天狗君は天邪鬼の攻撃によってフェンスに叩きつけられ、ぐったりとしている。立ち上がる気配も無いので心配で駆け寄りたいのだが、天邪鬼がこちらに近付いてくる恐怖で動くことが出来ない。
これまでは天狗の背中越しに見ていたので天邪鬼に怖さを感じなかったが、いざ対面すると恐怖で体が動かなくなるのだ。
──怖い、怖い、怖い。助けて東雲さん。
目を閉じて、助けを祈る。すると聞き覚えのある涼やかな鈴の音と共に東雲さんが目の前に降り立つ。
「お待たせしました千絵さん」
どこからともなく、目の前に降り立った東雲さんは、腕の中にいた猫を解き放ち、天邪鬼を牽制する。
「東雲さん! 一体どこから!?」
「天狗の力を借りたのですよ。そんなことより怪我はないですか?」
「私は大丈夫です。でも私を守って天狗君が!」
東雲さんはちらりと私が指し示した方向を見る。
「彼なら大丈夫、鬼の生命力は強いですから。しかし一度、力の繋がりを切って帰す方がよいでしょう。千絵さん、心の中で帰るように念じてみて下さい」
「そうなのですか……分かりました」
──ありがとう天狗さん。帰ってゆっくり休んでね。
心の中で念じると天狗との繋がりが消えたのか、天狗は再び煙に包まれて姿が見えなくなる。
「ここまで良く頑張りました。後は私が鬼を倒しますからそこで休んでいなさい」
東雲さんに頭を撫でられ、ホッとして体の力が抜ける。
「あの……頑張ってください」
「ええ、直ぐに終わらせますよ」
そこからの戦いは良く分からなかった。目線を切っている間に、本当に直ぐに終わってしまったのだ。
だが例えしっかりと見ていても、しっかりと理解することは出来なかっただろう。それだけ東雲さんの戦いは恐怖を感じるほど圧倒的で異質だった。
「終わりましたよ、千絵さん」
戦いとは打って変わり優しい表情を見せる東雲さんだが、話しかけられた時に少しだけ体がビクッとする。
「東雲さん、あの天邪鬼はどうなったのですか?」
「霧散させました。これでもう千絵さんがあの鬼に狙われることはありません」
本当に強い鬼であれば封印なり別の手段を取る必要があるそうだが、あの天邪鬼はそこまでの相手では無かったそうだ。
「そうですか……そう言えば遼太と沙絵は大丈夫なのですか?」
天狗が消えたことで風の結界も無くなっているので、二人の元に駆け寄り様子を見ると、何事も無かったように眠っていた。
「大丈夫ですよ。心の隙間に鬼に入り込まれ強い負荷が掛かったので、自己防衛のために気を失ったのでしょう」
問題無いと聞かされてホッとする。
「なら天狗君は大丈夫なのですか? 私の為に戦って傷付いてしまって、死んじゃうなんてこと無いですよね?」
「ええ、大丈夫ですよ。本来の力を取り戻せばあれぐらいの怪我は直ぐに治りますよ」
「そうですか……良かった」
例え妖怪であろうと、私のせいで傷ついたのだ。そのまま回復出来なかったら申し訳ない。
「それでは千絵さん、これでお別れです」
「えっ……何でですか? これからもお手伝い出来ることがあれば手伝いますよ!」
東雲さんは私の為に色々としてくれたのだ。今後も私に出来るのか事があれば協力していきたい。
しかし東雲さんは首を横に振るう。
「千絵さんは優しい心の持ち主です。ですがその優しさはこの世界で生きていく上には仇となり、身を滅ぼすでしょう。それに千絵さんは直ぐに鬼を見えなくなりますから」
私が鬼を見えていたのは、私の心を食べた鬼だったからで繋がりが強かったからだ。それによって一時的に他の鬼も見えるようになっているだけらしいので、当然その鬼が倒されたのなら、いずれ私が鬼を見えなくなるのも当然だろう。
「それでも私にも出来ることが──」
「いえ、ありませんよ。強いて言うのであれば、今後は鬼を生み出さないように強い心を持って生きてください」
毅然とした態度で断られてしまえば、すがる余地も無く反論のしようがない。
「はい、分かりました。でも何かあれば手伝いますので声を掛けてください」
「……ええ、そうですね。では人を呼んで彼らを保健室に運んであげてください。私は部外者なので運べませんし」
「そうですね……分かりました。後でお礼に伺うので、またお店に行っていいですか?」
「ええ、また機会がありましたらお会いしましょう。千絵さんが困っていればまた力をお貸ししますよ」
「絶対、絶対ですからね!」
何故かここで別れると二度と会えない気がしたので念を押す。
東雲さんは私が保険の先生を呼んでいる間に姿を消していた。おそらく再び空を飛んで帰っていったのだろう。
それでも骨董品店に行けばまた再び会えると僅かながらに期待してお店に向かうも、そこは既にもぬけの殻でありお店は閉まっていた。
あれから私は、遼太への気持ちに整理がついて遼太と沙絵とも無事に仲直り出来た。起きてしまったことに悲しんでネガティブになるよりも、切り替えてポジティブな気持ちで心を埋めることで物事は良い方向に進み出すのだ。
今では鬼の姿を見ることは叶わないが、彼らに出逢ったことをこれからも私は忘れないだろう。
「千絵、一緒に帰らない?」
「うん、いいよ」
これから生きていれば辛いこともあるだろうが、それでもきっと良いこともたくさんある。
だからこそ私は強く生きていくことを心に誓ったのであった。
──終わり──
引き続き[番外編]を連載します。
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