アネモネの咲く頃に。

シグマ

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とある少女の二日間

第6話 心に巣食う鬼

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 私が呼び出したのはあの黒い猫ではなく、和装姿の少年だった。

「えっと……君は誰?」
「何だガキ、このワシを誰だと思って……お主は随分と背が高いな」
「イヤイヤイヤ、君が低いだけだからね!」
「何を言って…………ってなんだこれわ!!」

 ふんぞり返って威張っている小さな少年は、自らの体躯を見つめてようやく状況が飲み込めたようだ。

「それで君は誰なの?」
「ワシはな──天狗だ!」

 話をしている最中に鬼が襲ってくるも、天狗を名乗った少年が扇を振るい吹き飛ばす。
 そしてようやくあらわになった鬼は小さな体躯の鬼だった。

「あれは天邪鬼あまのじゃくだな」
「強いの?」
「ハッ! ワシより格下の小物だ」
「なら早く倒してよ」
「それは……無理だ」
「えっ、なんで!?」
「なんでって、お主がこんな中途半端で呼び寄せるからだろうが!!」
「ご、ごめん!」
「ふん。だがワシの力を感知した東雲の奴が直ぐに来るだろう。それまでは守ってやる」
「ホント! 宜しくね!」
「…………」
「どうかしたの?」
「いや、お主はワシが怖くないのか?」

 怖いと聞かれてもどう見てもこの天狗は小さな少年で、どう見ても強がってるだけにしかみえないから逆に微笑ましいぐらいだ。

「うん、怖くないよ」
「そうか……まぁ、良い。だが絶対にワシの側から離れるなよ!」
「わ、分かった! でもまずはあの二人を避難させないと」

 遼太と沙絵は気を失っているので、自分達で避難させないと、戦いに巻き込まれてしまうかもしれない。

「あんな奴ら、放っておけば良いではないか。お主を裏切ったのであろう?」
「えっ!?」
「東雲の力が込められ、半覚醒状態だったのでな。全て聞いておったのだ」
「聞いていたって……ずっと全部?」
「ああ」
「こ、この変態!」
「誰が変態だ!」
「ずっとって、私がお風呂に入ったりトイレの時もでしょ……この変態!」
「ああ、もう良い。あの二人は放っておけば良いのだな!」

 天狗は後ろを振り返り拗ねてしまったので、裾を掴み謝る。

「ごめん、ごめん。謝るからあの二人も守って下さい」
「ふん!」

 天狗は扇を振るう。すると遼太と沙絵の二人は吹き飛ばされ壁際に追いやられる。

「ちょっ、何やってんの!?」
「うるさい。どうせ狙われてるのはあいつらではなくお前だ。なら巻き込まれないように端にやった方が良いだろう」
「そうだけど……」
「はん、それならこれをオマケしてやろう」

 天狗がもう一度、扇を振るうと二人の前に風が渦巻いて留まる。

「風の結界だ。これでワシの戦いの余波は防げよう」
「ありがとう! 天狗君!」

 抱きつき感謝を述べると、天狗は顔を真っ赤にする。

「ええい、離せ小わっぱ! 直ぐに攻撃が来るぞ!!」

 忘れていた訳ではなく、これまでこちらの様子を伺うように見ていた天邪鬼がこちらに駆け出してくる。
 天狗が扇を振るい吹き飛ばそうとするも、天邪鬼は今度は気に留めずに突き進む。

「阿呆、当たり前じゃろうが! 最初は不意討ちだっただけで、今の弱い力では簡単にはいかん」

 駆け寄ってきた天邪鬼が振るった手を天狗は閉じた扇で受け止める。だがやはり力が弱いからか押されてしまう。

「ちょっと、大丈夫なの天狗君!」
「うるさい! 黙っておれ!!」

 天狗は強がるも、やはり力の差は歴然だ。少しずつ傷付き、ボロボロになっていく。

「もういいよ……私のせいで君が傷付く必要は無いよ」

 人では無くても、目の前で少年が傷つくのを見るのは辛い。

「……大丈夫だ。その気持ちがワシを強くするのだから」
「分かった」

 私は天狗に言われたまま顔の前で手を握り、必死に応援する。すると本当に祈りが届いたのか、少し勢いを取り戻す。
 だがやはり力の差は覆せないので、天狗は吹き飛ばされる。

「天狗君!」

 天狗はフェンスに叩きつけられてぐったりとしてしまい、私と鬼の間に遮るものは何もない。正しく絶体絶命の状況に陥るも、私は動くことが出来ず助けが到着するのを祈るしか出来ないのであった。
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