アネモネの咲く頃に。

シグマ

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とある少女の二日間

第5話 言い争い

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 家に帰った私は普段以上に暖かみを感じる我が家に安心し、不思議とぐっすりと眠ることが出来た。
 翌日に携帯電話スマホを確認すると、届いた通知に遼太、そして沙絵の名前が表示されている。心配する文面と共に二人の顔が浮かび、色々と伝えたい言葉を返信したいと思うが、それは直接口に出して話したい。

 朝練で汗を流し遅刻ぎりぎりに教室に向かうと、教室にはいつもと違う表情をした遼太と沙絵が待っていた。昨日に部活を休み、連絡をくれたのに返信すらしなかったので、二人としても思うところがあるのだろう。しかしチャイムが鳴ったので、昼休憩に屋上で話をしようとだけ告げて席に付く。

 昼休憩になり屋上に向かうと、既に遼太と沙絵が待っていた。側に駆け寄るのだけれども、私よりちょっと背の高い遼太がいつもより遠くにいる気がする。

「昨日はごめんね、直ぐに寝ちゃって携帯電話スマホ見てなくて返信出来なかった」
「いいよ、体調が悪かったんだろ? 千絵が部活を休むなんてビックリしたよ」
「ホントだよ、体調が悪いなら家まで送ったのに言ってよね!」

 何気無い会話の中でも自然と近くなってる二人の距離に、私の中の黒い感情が芽を出し始める。

──ああ、本当に沙絵と付き合ってるんだね。

 祝福したい気持ちはあるのだが、整理しきれない感情が心のなかで渦巻き、簡単に吹っ切れない自分が嫌になる。それでも東雲さんに言われたように、その感情を楽しい記憶で塗りつぶすことで心は穏やかになる。
 しかし、私が落ち着いてきたにも関わらず、二人の様子が変わってしまう。

「ちょっと聞いてる千絵? 私と遼太は付き合ってるんだから、これからは気軽に遼太に話しかけないでね」
「えっ……なんで?」

 沙絵はそれまでの雰囲気と変わり、いきなり攻撃的な態度になった。そして見せつけるように、遼太と手を繋ぐ。

「そんなの当然でしょ? 自分の彼氏が、他の女と仲良くしてる所なんて見たくないし」
「まぁ、そういうことだ千絵。俺も沙絵を悲しませたくないし、これまでと同じようにはいかないよ」
「いいよね、千絵?」

 戸惑う私に、念押しをしてくる沙絵。

「なんでそんな……別にこれまで通りでも良くない?」
「はぁー、これでも譲歩してんのに、分かんないの? 私、知ってるんだからね、あんたが遼太のこと好きだってこと」
「えっ……」
「幾ら仲が良くても、今、遼太は私と付き合ってるんだから、そんな人を遼太に近付けたくないの」

 沙絵からの突然の暴露によって、私は逃げ出したくなる。何もそれを遼太の前で言わなくても良いではないか。
 再び私の中の黒い感情が蠢きだす感覚に囚われる。そして今すぐにでもここから逃げ出してしまいたい。

「……分かったよ」

 振り絞るように言葉を音に出して言うと、遼太と沙絵の回りに纏わりついた黒い靄が揺らぐのが見えた。

 そこで私はハッと気づく。鬼は人の心に巣食い、負の感情を作り出すことがあると。つまり私の負の感情を求めた鬼が遼太と沙絵を操り、私の悪い感情を引き出そうとしているのだ。

 そのことに気付いた私は必死に自分の心を鎮めようとすると、餌を食べれなくなったことで慌てたのか、二人に纏わりつく黒い靄が膨張し私を目掛けて飛び出してきた。
 避ける間もない速さで飛び出して来たので目をつぶることしが出来なかったが、幾ら待っても何故か衝撃が来ない。
 おそるおそる目を開いてみると、私のポケットから飛び出た御守りが盾になってくれていた。これは結界なのだろうか、御守りの回りに薄い膜が形成され、二人から伸びる黒い靄を防いでいる。

「って、見ている場合じゃない!」

 御守りがいつまで守ってくれるか分からないので急いで式神を呼び出すことにする。東雲さんに渡された紙を口に加えて息を吹き掛けると、白い煙に包まれる。

 そしてそこに現れたのは……小さな子供であった。
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