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第6話 栄養ドリンク
しおりを挟むトーマスから指導を受けながら様々な薬を作るようになったシャルは作業の多さに大変な毎日ではあるのだが、充実した日々に張り切って取り組む。
これまでは自分が育てた薬草がどのような薬に使われるのか知らない物も多かったので、さまざまな薬草を実際に調合していくことでポーションだけでなく色々な薬に変わっていく過程が楽しいのだ。
トーマスも気力を取り戻したことで薬屋も再開し、シャルの日常はようやく充実したものになっていく。
義姉に気を使う必要も無くなり心安らぐ時も増えたのだ。
そしてシャルは冒険者に必須の身体を回復させるポーションそして魔力を補うエーテルはもちろん、一般の人が使う滋養強壮薬や避妊薬などをトーマスに教わりながら作る。
「薬は扱い方によっては毒にもなる。その事を絶対に忘れてはいけないよ、シャル」
「はい、トーマスさん」
シャルはこれまでにトーマスに気付かれないように薬草を使って色々と実験をしてきた。
自分で栽培している薬草で補填することでバレることはなかったが、知識なく薬草を扱うことは一歩間違えれば薬ではなく毒を作り出してしまう可能性が高い行為だ。
シャルはトーマスが薬を作っているのを盗み見て真似をしていたとは言っても、正しい知識無しに素人が勝手に触っては危ない薬草も多いことを知り、反省をしながらも薬草の奥深さにより深く嵌まっていく。
(うん、幾つか色々と使い方を間違えていたね……気を付けなきゃ……)
これまでのシャルに足らなかった薬作りの基礎的な知識をトーマスに叩き込まれ、自分が独学で身に付けてきたことの正しさと間違っていたことに気付くことが出来た。
しかし厳しいトーマスの指導と復習するために朝から晩まで多くの時間で調合室に籠りっぱなしのシャルの体力は既に限界を迎えていく。
(ちょっとぐらいアレに頼っても大丈夫だよね……)
シャルはトーマスが仕事のために部屋から出ていったあと、薬棚から見つけた古い種から育てた薬草と薬棚から幾つかの薬草を取り出し調合を始める。
特別な薬草とトーマスが滋養強壮薬に使用した薬草と扱い方によっては毒にもなると言っていた薬草を使い作り出すのは、シャルにとってはただ良く効く栄養ドリンクであるエリクサーもどきだ。
シャルは知識無しに作っていた時は分かっていなかったのだが、その毒の成分が傷付いた体の組織を分解しポーションの成分が再構築するのである。
そして飲みにくくなっていた原因が不純物にあることを知ったシャルは、何度も結晶化させたり濾す手間を掛け丁寧な処理を施すことでエグミを取り除いていく。
それによりポーションを混ぜて薄めなければとても飲むことの出来なかった不完全な代物が、透き通った青白く透明な完全なエリクサーとして完成した。
しかしそんなことに気付くことのないシャルは洗練され完全なるエリクサーとなったそれを、只の良く効くポーションの栄養ドリンク剤として飲む。
(うん、やっぱりこれを飲んだら疲れが吹っ飛ぶね)
条件付きではあるが状態異常や身体の部位欠損すらも治すことが出来るエリクサーを、疲労回復ただそれだけの為に使うという完全なる無駄遣いだ。
誤って出荷された[エリクサーもどき]ですら手にした冒険者が気付かず飲み、不味くて吐き出すも怪我が瞬く間に全快したことで噂になったぐらいである。
もしも完成したエリクサーが市場に流れようものなら歴史を動かす一大事なのだが、当然にシャルは気付くことが無く作製をする。
こうしてチートな栄養ドリンクを使いながら常人ではあり得ない程の努力でトーマスの教えの元で薬作りに励んだシャルは、瞬く間にトーマスが跡取りとして認める程に成長を遂げたのであった。
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