上 下
4 / 13

第4話 それとなく伝授する

しおりを挟む

 翌日になってもリゼラは真面目にポーション作りに勤しもうと調合室にやってくる。
 そして昨日と変わらぬ手順でポーション作りを始めるのだが、ここに用意されている素材は昨日までと異なっており、この日に用いる薬草と聖水はシャルが前日にとある仕込みを施したものだ。

「ちょっと、シャル!」
「はい、何でしょうか?」
「薬草がいつもより…………いえ何でもないわ」

 リゼラは何かに気付いたようだが、口に出すほどのことではないので言うのを止めて胸にしまう。
 実の所いつもより丹念にスリ潰さなければいけないようにシャルが生乾きの薬草を一部に混ぜているのだが、リゼラはただ手間が掛かっているという認識なだけで気付かない。
 しかし次の調合の段階では明らかに気付く手を加えられているので、シャルはリゼラに指摘される。

「これは何かしらシャル?」
「生の薬草を聖水に浸けているのです。そうすることで、効能が上がるからとトーマス様に指示をされたので入れておいたのです」
「そうなの……父さんの指示ならいいわ」

 リゼラは自分が聞いたことの無い手順に疑問に思いながらも、父親トーマスの指示であるならば間違いないのだろうと受け入れる。
 こうして材料の違いはあるものの、リゼラはシャルが丹念に選別した薬草を使ってポーションを作り上げていく。
 足りない技術は道具と材料で補ってしまおうという考えだ。
 そして作られたポーションは昨日に作り上げられたものよりも上質で、ハイポーションと呼べるだけの質には達していた。
 錬金術の魔法の熟練度が低いリゼラでは上手くいかないことも予想されたので、シャルは一先ず安堵する。

「……出来たけど、どうなのかしら?」
「素晴らしい出来ですよ、リゼラお姉さま」
「そうかしら? ……ちょっとお父様に確認してくるわ」

 薬草の質を確かめるためには二つの方法がある。
 一つは当然に実際に使ってみることで、もう一つは鑑定魔法を用いることだ。
 しかしリゼラとシャルは鑑定の能力を持っていないし、トーマスも鑑定魔法は持っていない。
 それでもシャルやトーマスは培ってきた経験でポーションに関してはその見た目で良し悪しが分かるようになっており、鑑定魔法を用いなくても判断できるようになっているのだ。

「本当にハイポーションみたいだわ……」
「流石ですねリゼラ姉さま。さぁ、早く残りの分も作っていきましょう!」
「え、ええ……まぁ、そうよね……」

 リゼラは突然に自分がハイポーションを作れたことに対して釈然としないようだが、作れたという事実は変わらないので受け入れて続きの作業を行う。
 そしてシャルが選りすぐった材料ではなく普通の材料で作り続ける中で最初はハイポーションになるのは稀だったのだが、錬金術魔法の熟練度が徐々に上がり最終的には五回に一度はハイポーションを作れるようになった。

(うん、とりあえずこれだけ出来れば伯爵さまも文句は言わないだろうね)

 アナスタシア伯爵が確認したのはハイポーションまでであり、実際に存在しなかったエリクサーを作ってみろとまでは言われないはずなのだ。

(それにしてもエリクサーって結局何だったのかな……)

 本物のエリクサーは作った本人すらもそれが[エリクサーもどき]であると気付いていない物であり、それはシャルが徹夜が続き変なテンションになったときに作った特製のポーションである。
 本当は他の人に飲ませる為のものではなかったのだが一度だけ間違って出荷用のポーションケースに入れてしまったことがあり、そして市場に流れてしまったことで聖女の噂が広まるきっかけとなった。
 しかし本人としては飲むと疲れが吹っ飛ぶ激マズのエナジードリンクとしてしか見ておらず、それが市場に流れてしまったことに気付いていないのだ。
 そしてエリクサーもどきのポーションを作るにしても普通のポーションより多くの素材を使う必要があり、その中にはトーマスの指示でシャルが育てている貴重な薬草と、シャルが調合室で見つけた古い種から育てた特別な薬草も使っている。
 だからこそシャルですら簡単には試しに作ることは出来ないし在庫が残っている訳ではないので、シャルがエリクサーもどきを作ったことがあることに誰も気付くことが出来ない。

 こうしてシャルはリゼラに、嫁に出しても恥ずかしくないだけのポーション作りの実力を身に付けさせたのだが、エリクサーという悩みごとは残されたまま日々は過ぎ去るのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!

蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。 しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。 だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。 国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。 一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。 ※カクヨムさまにも投稿しています

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

令嬢は恋愛に興味がない【完結済】

弓立歩
ファンタジー
公爵令嬢として生まれた、アルマナ・フィアーラル。わがまま三昧で、第2王子との婚約破棄もささやかれる中、頭を打ち倒れてしまう。そして前世の記憶が戻った彼女が取った行動とは!?

農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~

可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...