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第4話 それとなく伝授する
しおりを挟む翌日になってもリゼラは真面目にポーション作りに勤しもうと調合室にやってくる。
そして昨日と変わらぬ手順でポーション作りを始めるのだが、ここに用意されている素材は昨日までと異なっており、この日に用いる薬草と聖水はシャルが前日にとある仕込みを施したものだ。
「ちょっと、シャル!」
「はい、何でしょうか?」
「薬草がいつもより…………いえ何でもないわ」
リゼラは何かに気付いたようだが、口に出すほどのことではないので言うのを止めて胸にしまう。
実の所いつもより丹念にスリ潰さなければいけないようにシャルが生乾きの薬草を一部に混ぜているのだが、リゼラはただ手間が掛かっているという認識なだけで気付かない。
しかし次の調合の段階では明らかに気付く手を加えられているので、シャルはリゼラに指摘される。
「これは何かしらシャル?」
「生の薬草を聖水に浸けているのです。そうすることで、効能が上がるからとトーマス様に指示をされたので入れておいたのです」
「そうなの……父さんの指示ならいいわ」
リゼラは自分が聞いたことの無い手順に疑問に思いながらも、父親の指示であるならば間違いないのだろうと受け入れる。
こうして材料の違いはあるものの、リゼラはシャルが丹念に選別した薬草を使ってポーションを作り上げていく。
足りない技術は道具と材料で補ってしまおうという考えだ。
そして作られたポーションは昨日に作り上げられたものよりも上質で、ハイポーションと呼べるだけの質には達していた。
錬金術の魔法の熟練度が低いリゼラでは上手くいかないことも予想されたので、シャルは一先ず安堵する。
「……出来たけど、どうなのかしら?」
「素晴らしい出来ですよ、リゼラお姉さま」
「そうかしら? ……ちょっとお父様に確認してくるわ」
薬草の質を確かめるためには二つの方法がある。
一つは当然に実際に使ってみることで、もう一つは鑑定魔法を用いることだ。
しかしリゼラとシャルは鑑定の能力を持っていないし、トーマスも鑑定魔法は持っていない。
それでもシャルやトーマスは培ってきた経験でポーションに関してはその見た目で良し悪しが分かるようになっており、鑑定魔法を用いなくても判断できるようになっているのだ。
「本当にハイポーションみたいだわ……」
「流石ですねリゼラ姉さま。さぁ、早く残りの分も作っていきましょう!」
「え、ええ……まぁ、そうよね……」
リゼラは突然に自分がハイポーションを作れたことに対して釈然としないようだが、作れたという事実は変わらないので受け入れて続きの作業を行う。
そしてシャルが選りすぐった材料ではなく普通の材料で作り続ける中で最初はハイポーションになるのは稀だったのだが、錬金術魔法の熟練度が徐々に上がり最終的には五回に一度はハイポーションを作れるようになった。
(うん、とりあえずこれだけ出来れば伯爵さまも文句は言わないだろうね)
アナスタシア伯爵が確認したのはハイポーションまでであり、実際に存在しなかったエリクサーを作ってみろとまでは言われないはずなのだ。
(それにしてもエリクサーって結局何だったのかな……)
本物のエリクサーは作った本人すらもそれが[エリクサーもどき]であると気付いていない物であり、それはシャルが徹夜が続き変なテンションになったときに作った特製のポーションである。
本当は他の人に飲ませる為のものではなかったのだが一度だけ間違って出荷用のポーションケースに入れてしまったことがあり、そして市場に流れてしまったことで聖女の噂が広まるきっかけとなった。
しかし本人としては飲むと疲れが吹っ飛ぶ激マズのエナジードリンクとしてしか見ておらず、それが市場に流れてしまったことに気付いていないのだ。
そしてエリクサーもどきのポーションを作るにしても普通のポーションより多くの素材を使う必要があり、その中にはトーマスの指示でシャルが育てている貴重な薬草と、シャルが調合室で見つけた古い種から育てた特別な薬草も使っている。
だからこそシャルですら簡単には試しに作ることは出来ないし在庫が残っている訳ではないので、シャルがエリクサーもどきを作ったことがあることに誰も気付くことが出来ない。
こうしてシャルはリゼラに、嫁に出しても恥ずかしくないだけのポーション作りの実力を身に付けさせたのだが、エリクサーという悩みごとは残されたまま日々は過ぎ去るのであった。
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