7 / 12
第5話
しおりを挟むデフォルト王国の窮状を伝えられた直後、私は再びカスタム王国の国王であるメグアス様との謁見に臨むことになった。
しかし今回は商談の為ではなく正式に、王宮への召喚要請が届いたからである。
国王様が遅れて王座に座りその前の通路の脇には貴族、そして更に背後には騎士まで控えているのだ。
「面を上げよ」
「はい」
国王様が着座され、拝顔を許可される。
「御主も既に知っておるだろうが、此度の召集はデフォルト王国で起きたクーデターについてだ。端的に聞こう。我が国が介入すべきかどうか、御主はどう考える?」
他国への政治介入という国の行く末を決めかねないことは、一介の商人に対して聞く話ではない。
それだけこの国で信頼を築けていることと、デフォルト王国にも精通しているからだろう。
「私めなどが進言すべきことではないかと存じています。ですがカスタム王国の利益を考えますと、デフォルト王国の地は将来的に有益になるでしょう」
私がそう進言を行うと貴族たちがザワつく。
デフォルト王国出身であること、そして商人であることから、己の利益の為に言っているのではないかと思われているのだ。
そしてそのうちの一人が声を上げると釣られて他の貴族も声を上げる。
「国王様、このような者の話に耳を傾けるべきではありませぬ。商人など己の利益にしか見えぬ愚か者共です。デフォルト王国の火中の栗を拾うなど言語道断であります」
保守派の貴族は静観を申し出る。
「何をいう。今こそ領土拡大の好機。他国が侵略を進めるのを指を咥えて見ているなど、それこそ愚策であります」
一方の革新派は今こそ好機だと声を上げる。
言い合っていても結論はでないので、国王様が手をかざし議論を制す。
「──皆の意見は分かるが、まずはエクサ嬢の話を聞こうではないか。そのために呼んだのだからな。してエクサ嬢はなぜにデフォルト王国の地が我が国に有益なのか、皆に説明してくれんか?」
「はい、勿論であります……」
私は昨日にも国王様に進言した土地の豊かさを力説し、食料の安定的な供給に繋がることを述べる。
「食料のために兵を派遣するなど、払わねばならぬ犠牲が多すぎるのではないか?」
「ええ、私も挙兵し国民の血を流すことを望みません」
「……兵を派遣せねば土地を得るなど出来ぬであろう。それともなんだ、御主には他の考えがあるというのか?」
「ええ、勿論であります。私は商人です。血を流すことなく交渉で物事を解決すべきと考えます」
「ううむ……そんなことが本当に出来るのか?」
「今のデフォルト王家は民を蔑ろにし過ぎました。国民無くして国は成り立たないというのに。民意を見方につければ不可能ではないかと」
デフォルト王国には正しく民を導く者が必要だ。
そして他国からの脅威にも備えなければならない。
その役割をカスタム王国が上手く担うことを伝えられれば、多くの人からの同意を得られるはずだ。
「そうか……ならば御主がその責を果たすが良い。カスタム王国の特認大使の役目を与えよう。もちろん応じてくれるな?」
大使としてカスタム王国を代表して交渉に臨むなど畏れ多いのだけれども、ここで断ることなど私には出来ない。
「……分かりました」
こうして私は王命を受け、デフォルト王国を救うべく帰国することになった。
10
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】待ち望んでいた婚約破棄のおかげで、ついに報復することができます。
みかみかん
恋愛
メリッサの婚約者だったルーザ王子はどうしようもないクズであり、彼が婚約破棄を宣言したことにより、メリッサの復讐計画が始まった。
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる