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第5話
しおりを挟むデフォルト王国の窮状を伝えられた直後、私は再びカスタム王国の国王であるメグアス様との謁見に臨むことになった。
しかし今回は商談の為ではなく正式に、王宮への召喚要請が届いたからである。
国王様が遅れて王座に座りその前の通路の脇には貴族、そして更に背後には騎士まで控えているのだ。
「面を上げよ」
「はい」
国王様が着座され、拝顔を許可される。
「御主も既に知っておるだろうが、此度の召集はデフォルト王国で起きたクーデターについてだ。端的に聞こう。我が国が介入すべきかどうか、御主はどう考える?」
他国への政治介入という国の行く末を決めかねないことは、一介の商人に対して聞く話ではない。
それだけこの国で信頼を築けていることと、デフォルト王国にも精通しているからだろう。
「私めなどが進言すべきことではないかと存じています。ですがカスタム王国の利益を考えますと、デフォルト王国の地は将来的に有益になるでしょう」
私がそう進言を行うと貴族たちがザワつく。
デフォルト王国出身であること、そして商人であることから、己の利益の為に言っているのではないかと思われているのだ。
そしてそのうちの一人が声を上げると釣られて他の貴族も声を上げる。
「国王様、このような者の話に耳を傾けるべきではありませぬ。商人など己の利益にしか見えぬ愚か者共です。デフォルト王国の火中の栗を拾うなど言語道断であります」
保守派の貴族は静観を申し出る。
「何をいう。今こそ領土拡大の好機。他国が侵略を進めるのを指を咥えて見ているなど、それこそ愚策であります」
一方の革新派は今こそ好機だと声を上げる。
言い合っていても結論はでないので、国王様が手をかざし議論を制す。
「──皆の意見は分かるが、まずはエクサ嬢の話を聞こうではないか。そのために呼んだのだからな。してエクサ嬢はなぜにデフォルト王国の地が我が国に有益なのか、皆に説明してくれんか?」
「はい、勿論であります……」
私は昨日にも国王様に進言した土地の豊かさを力説し、食料の安定的な供給に繋がることを述べる。
「食料のために兵を派遣するなど、払わねばならぬ犠牲が多すぎるのではないか?」
「ええ、私も挙兵し国民の血を流すことを望みません」
「……兵を派遣せねば土地を得るなど出来ぬであろう。それともなんだ、御主には他の考えがあるというのか?」
「ええ、勿論であります。私は商人です。血を流すことなく交渉で物事を解決すべきと考えます」
「ううむ……そんなことが本当に出来るのか?」
「今のデフォルト王家は民を蔑ろにし過ぎました。国民無くして国は成り立たないというのに。民意を見方につければ不可能ではないかと」
デフォルト王国には正しく民を導く者が必要だ。
そして他国からの脅威にも備えなければならない。
その役割をカスタム王国が上手く担うことを伝えられれば、多くの人からの同意を得られるはずだ。
「そうか……ならば御主がその責を果たすが良い。カスタム王国の特認大使の役目を与えよう。もちろん応じてくれるな?」
大使としてカスタム王国を代表して交渉に臨むなど畏れ多いのだけれども、ここで断ることなど私には出来ない。
「……分かりました」
こうして私は王命を受け、デフォルト王国を救うべく帰国することになった。
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