婚約破棄された商家の娘は国外へ逃げ出し、そして──。

シグマ

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閑話

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「一体どうなっておるのだ!!」

 国王であるゼプトは憤りに満ちて声を張り上げる。
 ゼプトが前国王であるデシマスの後を継いで国王に即位して以降、国は衰退の一途を辿っているのだ。
 さらに国庫は底を尽きかけてしまい、これまでのような豪勢な暮らしは出来なくなっている。

「申し訳ありません、殿下。しかしながら、これ以上は税を増やす訳にもいきませんので……」
「私はそんな話が聞きたいのではないわ!」

 ゼプトは手にしたグラスを投げつけて追い払う。

「まったく、無能どもめ……おい、そこのお前、手紙はまだ届かぬのか?」
「はい……ミリオン家からの返信はありません」
「なぜに返信が無い。この私が直々に送ったのだぞ?」
「わ、私には何とも……」

 臣下は口ごもるもあの日の事を知る者たちの本心は皆同じだ。あれだけ盛大に婚約を破棄しておきながら、戻ってくるように頼んだ所で聞き遂げられる筈がないと。
 しかしミリオン家がデフォルト王国から去った影響は計り知れないものだったのも事実だ。
 何かの奇跡が起こり物事が好転するように祈るばかりだが、愚王がそう簡単に悪政を変えられる筈がない。

「この私を愚弄するとは……このままでは許さんぞ……」

 ゼプトは一方的にエクサに対する怨みを募らせていく。
 既に国内に残されていたミリオン家の資産は没収済みであるが、それで収まるものではない。
 そんなゼプトに貴族が進言する。

「国が、国王様が苦しんでおられるのです。それならば民はそれを支えるのが当然の務めでありましょう」
「うむ、その通りだなセバス。では具体的にどうすればよい?」
「商人は己の私腹を肥やす卑しいものどもです。彼らが不当に溜め込んだお金を差し押さえるのは、当然でありましょう」
「うむ。では直ぐにそのように計らえ」
「はっ」

 ゼプトは貴族の甘言に唆されるがままに国を運営し、国民は更なる負担を求められることになる。
 そしてその負担は遂に限界を迎え、結束した民は暴徒と化したのであった。
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