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第4話
しおりを挟む武器というのは様々な種類があるといえども、その本質は人を殺める為のものだ。
武器を専門に取り扱う商人は、死の商人と呼ばれることもあるほどである。
しかしながら武器というのは人を守るためのものであり、最も大きな取引相手は国なのだ。
「……これは断ることは出来ませんね」
私たちが武器の取り扱い始めたということがカスタム王家にまで聞き及ぶに至ったのだ。
これまでにも幾つかの取引を行ってきたので、武器だからといって納品を断ることは難しい。
しかし国の根幹に関わる武器を納めるということは、王家とより深く関わることになる。
「エクサ様、手紙が届きました」
「……遂にですか」
私の元に手渡されたその手紙には、他にはない封蝋が施されている。
そこに描かれているのはカスタム王家の紋章であるのだ。
「──明日、王宮に向かいます。準備は進めておいて下さい」
「畏まりました」
指定された日時に遅れることなく私は王宮へと向かう。
これまで通り臣下の者と取引の話をするだけだと思いきや、取引内容が纏まり部屋を出ようと席を立った所で呼び止められる。
「──要件はまだ終わりではありません。私に付いてきて頂けますかな?」
そして案内された先でまっていたのはカスタム王国の国王であるメグアス様であった。
私は直ぐ様に腰を落とし頭を下げる。
「よいよい、そう畏まらなくとも。ソナタを呼んだのはワシなのだからな」
「いえ、そういうわけには……」
「なら、そのままで良いから話を聞くが良い。ソナタはデフォルト王国の現状を知っておるかな?」
「話には聞いております……前国王の死去以降は苦しい状況になっていると」
集めた情報では愚王の政策が民を苦しめているそうで、国を維持するためにと酷い重税を課し国民は疲弊しきっているらしい。
「うむ。さすがこの国でも随一の商人なだけあるな。だが苦しいのは経済だけではない、その存亡すらも怪しいものだ」
「それは……他国から狙われているということですか?」
国力の落ちたデフォルト王国にはもはや自衛するだけの余力も残されていない。
デフォルト王国の豊かな土地を狙っている他国が、お互いに牽制し探りをいれている段階だ。
「それも知っておるのか……その通りである。既に幾つかの国がデフォルト王国へ戦争を仕掛けんと準備を進めておる。その余波によって影響しないとも限らんから、我が国も兵を増強しておるところなのだ」
「それでこれだけの武器を……」
平時の国において武器を大量に買う理由を探っていたが、そこまで話が深刻になっているなんて……。
「ああ、その通りである。しかしまだ迷っているからこそ、デフォルト王国の出身である御主を呼び寄せたのだ」
「迷うとは一体何をでしょうか?」
「商人としてあの国に価値があると思うか?」
「それは…………ええ、勿論です。デフォルト王国は工業が発展していませんが、豊かな土地から取れる農産物があります。食料の大半を輸入に頼るカスタム王国においては、重要な土地になるでしょう」
国王の質問はカスタム王国がデフォルト王国を手に入れたならば得があるかどうかということだ。
つまり他国の争いを指を咥えて待つのではなく、先んじて制したとしてどうなるかということだろう。
「ふむ…………わかった。今日はもう下がって良いぞ」
「はい」
しかし謁見から数日後、私の元には思いもよらぬ一つの情報がもたらされる。
「──デフォルト王国でクーデターが起こりました」
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