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しおりを挟むストゥルタスは勇気を振り絞ってレイナに宣告する。
「レ、レイナ! 私は貴女との婚約を破棄する!!」
衆目を集める講堂の中で、公爵令嬢であるレイナは婚約者のストゥルタスに告げられた。しかし取り乱すことは無く、レイナはそれを冷静に聞き止める。
ここは将来に国を背負って立つ貴族の子供達が通う学園であり、当然ながらに知識力を高める場所だ。さらに国の結束を高める意味合いもあって貴族の社交場も兼ねており、メルロー王国の第一王子であるストゥルタス・メルローまでも通っているのだ。
「君の言動は目に余るものがある。これ以上、一緒にいるのは耐えられないんだ」
ストゥルタスは王子としての教養も品格も足りていないので、心配した国王が品行に厳格な公爵家を頼りレイナと婚約を結ぶに至っている。
レイナは国王からの要請もあり良き王に導くべく厳しく接してきたのだが、ストゥルタスはそんな国王の思いやりを受け入れられていないのだ。
当のレイナはストゥルタスのことを普段から頼りない男で愚か者だとすら思っていた。しかし、まさかどこぞの馬の骨とも分からぬ者との恋やら愛などに現を抜かし、王子としての責務さえ放棄するとは考えてもいなかった。
「……それは貴方自身の考えかしら? それともそちらの方の入れ知恵かしら?」
ストゥルタスの隣には本来であればここにいるはずの無い者──異世界からの来訪者が勝ち誇った顔で立っているのだ。
レイナが睨むように一瞥するとサクラは怯えるようにストゥルタスの背後に身を隠すので、ストゥルタスは庇うように反論する。
「わ、私の決断だ。サクラに対するお前の身に余る言動は、我が王家に加えるに相応しくないと気付いたのだ」
「相応しくない? まさか貴方からそのような言葉が聞けるとは思いませんでしてよ。それにフェリペ王が何と言うでしょうね」
ストゥルタスがレイナと婚約を結ぶに至ったのは国王、つまり父親がストゥルタスの将来を案じたからである。
甘やかされて育ったストゥルタスは正しい礼節を身に付けられずにいた。そこで王家に相応しい風格を身に付けさせるべく、公爵家であるアルメリア家の令嬢に白羽の矢が立ったのだ。
当然ながらに親通しで決めた婚姻でそこには愛などない。なので惜しい気持ちは微塵もないが、そんな自分本意な婚約破棄が許される筈がないので、改めてストゥルタスを戒める。
「父上など関係ない。私が王になれば、全ては解決することだ。サクラとであれば、不可能などない!」
「そう……わかったわ。それならば貴方の望む通り、婚約破棄致しましょう。学園にも姿を現さないことに致しますわ」
ストゥルタスとの婚約破棄によって、レイナにとって学園には敵しかいなくなるだろう。次期国王と婚約破棄した者と仲良くするということは、行く行くの立場を危うくすることに繋がる可能性が高いのだ。
更に学園に残ればサクラの毒牙にかかった者たちによって、針のむしろにされてしまうだろう。
こうしてレイナは自分の意思で学園から去っていくのであった。
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