悪役令嬢と呼ばれたので、悪役らしく国を乗っ取ってみた。

シグマ

文字の大きさ
上 下
1 / 8

1―1

しおりを挟む

 ストゥルタスは勇気を振り絞ってレイナに宣告する。

「レ、レイナ! 私は貴女との婚約を破棄する!!」

 衆目を集める講堂の中で、公爵令嬢であるレイナは婚約者のストゥルタスに告げられた。しかし取り乱すことは無く、レイナはそれを冷静に聞き止める。
 ここは将来に国を背負って立つ貴族の子供達が通う学園であり、当然ながらに知識力を高める場所だ。さらに国の結束を高める意味合いもあって貴族の社交場も兼ねており、メルロー王国の第一王子であるストゥルタス・メルローまでも通っているのだ。

「君の言動は目に余るものがある。これ以上、一緒にいるのは耐えられないんだ」

 ストゥルタスは王子としての教養も品格も足りていないので、心配した国王が品行に厳格な公爵家を頼りレイナと婚約を結ぶに至っている。
 レイナは国王からの要請もあり良き王に導くべく厳しく接してきたのだが、ストゥルタスはそんな国王の思いやりを受け入れられていないのだ。
 当のレイナはストゥルタスのことを普段から頼りない男で愚か者だとすら思っていた。しかし、まさかどこぞの馬の骨とも分からぬ者との恋やら愛などに現を抜かし、王子としての責務さえ放棄するとは考えてもいなかった。

「……それは貴方自身の考えかしら? それともそちらの方の入れ知恵かしら?」

 ストゥルタスの隣には本来であればここにいるはずの無い者──異世界からの来訪者サクラが勝ち誇った顔で立っているのだ。
 レイナが睨むように一瞥するとサクラは怯えるようにストゥルタスの背後に身を隠すので、ストゥルタスは庇うように反論する。

「わ、私の決断だ。サクラに対するお前の身に余る言動は、我が王家に加えるに相応しくないと気付いたのだ」

「相応しくない? まさか貴方からそのような言葉が聞けるとは思いませんでしてよ。それにフェリペ王が何と言うでしょうね」

 ストゥルタスがレイナと婚約を結ぶに至ったのは国王、つまり父親がストゥルタスの将来を案じたからである。
 甘やかされて育ったストゥルタスは正しい礼節を身に付けられずにいた。そこで王家に相応しい風格を身に付けさせるべく、公爵家であるアルメリア家の令嬢に白羽の矢が立ったのだ。
 当然ながらに親通しで決めた婚姻でそこには愛などない。なので惜しい気持ちは微塵もないが、そんな自分本意な婚約破棄が許される筈がないので、改めてストゥルタスを戒める。

「父上など関係ない。私が王になれば、全ては解決することだ。サクラとであれば、不可能などない!」

「そう……わかったわ。それならば貴方の望む通り、婚約破棄致しましょう。学園にも姿を現さないことに致しますわ」

 ストゥルタスとの婚約破棄によって、レイナにとって学園には敵しかいなくなるだろう。次期国王と婚約破棄した者と仲良くするということは、行く行くの立場を危うくすることに繋がる可能性が高いのだ。
 更に学園に残ればサクラの毒牙にかかった者たちによって、針のむしろにされてしまうだろう。

 こうしてレイナは自分の意思で学園から去っていくのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲームのヒロインに転生したけどゲームが始まらないんですけど

七地潮
恋愛
薄ら思い出したのだけど、どうやら乙女ゲームのヒロインに転生した様だ。 あるあるなピンクの髪、男爵家の庶子、光魔法に目覚めて、学園生活へ。 そこで出会う攻略対象にチヤホヤされたい!と思うのに、ゲームが始まってくれないんですけど? 毎回視点が変わります。 一話の長さもそれぞれです。 なろうにも掲載していて、最終話だけ別バージョンとなります。 最終話以外は全く同じ話です。

平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子

深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……? タイトルそのままのお話。 (4/1おまけSS追加しました) ※小説家になろうにも掲載してます。 ※表紙素材お借りしてます。

聖女とは国中から蔑ろにされるものと思っていましたが、どうやら違ったようです。婚約破棄になって、国を出て初めて知りました

珠宮さくら
恋愛
婚約者だけでなく、国中の人々から蔑ろにされ続けたアストリットは、婚約破棄することになって国から出ることにした。 隣国に行くことにしたアストリットは、それまでとは真逆の扱われ方をされ、驚くことになるとは夢にも思っていなかった。 ※全3話。

婚約破棄された悪役令嬢は聖女の力を解放して自由に生きます!

白雪みなと
恋愛
王子に婚約破棄され、没落してしまった元公爵令嬢のリタ・ホーリィ。 その瞬間、自分が乙女ゲームの世界にいて、なおかつ悪役令嬢であることを思い出すリタ。 でも、リタにはゲームにはないはずの聖女の能力を宿しており――?

悪役令嬢がキレる時

リオール
恋愛
この世に悪がはびこるとき ざまぁしてみせましょ 悪役令嬢の名にかけて! ======== ※主人公(ヒロイン)は口が悪いです。 あらかじめご承知おき下さい 突発で書きました。 4話完結です。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

処理中です...