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1話 大根 一本カット税込価格10円
しおりを挟む「 あれれ? どこ、ここ?? 」
金曜日の今日は学校の帰り道。私は急ぎ足で近所にある行き着けの激安スーパーマーケットで、特売品コーナーの静岡県産 大根一本カット税込価格10円を目当てに来たのだけれど、おかしな事にそのスーパーマーケット自体が見当たらない。
私の手には、しっかりとチラシが握られている。
クラスメイトに数枚貰ったチラシの内、一枚にあった激安スーパーマーケット『まごころ』で、弟達の休日分の食材を手に入れる為だ。
大丈夫だ、私の目的と意識はしっかりしている。そうだ、おかしいと気付いたのはこの路地に入る前に曲がった道だが、それは馴染みの曲がり角だから間違えるはずは無かった。
セーラー服で只ひとり、この広がる草原で呆然とする私がいた。
「 いつの間にスーパーの周りに、こんな自然を意識したテーマパークを併設したんだろ?(え 」
貧乏生活故に環境の変化への適応能力は早い私だ。早速、大自然に順応した私はこの窮地を逆手に取る。キノコ類などの食べられる野草採取だ。木々の根元へ歩みだす。そして、知っているキノコを口に放り込んだ。
「 っんま! 」
あまりの旨さに、口へ運ぶ手が止まらない。そりゃそうだ、車の排気ガスで汚損されたりしていない、自然が育んだ本来の旨味だ。ある程度の食い気が満たされると、弟達の顔が浮かんできた。
「 はっ!こんな事をしてる場合じゃなかった! 早く大根を買いに行かないと、常連主婦のおばちゃん達に買い尽くされてしまう!! 」
私はこの大自然の環境に順応する以前の目的を思い出した。すぐ、自分のポケットの財布に10円硬貨、3枚がある事を再度確認した。大根を三本は持って帰りたいのだ。おでんのつゆの素で柔らかく煮込んで、今日の晩ご飯のおかずにするのだ。
時計が無いから、正確な時間は分からないけど、私の腹時計では、そろそろ、下のチビ達がお腹すかせて下校してくるはずだ。早く家に帰って、大根の面取りしたり、味がしみるよう、一度煮たりして素材の下準備をしておきたい。それと葉の部分は刻んで冷凍しておくのだ。ごま油と塩で炒めてご飯にまぶして、おにぎりにするんだ。弟達はそのおにぎりが大好物なんだ。そんな弟達の食べている時の笑顔が思い浮かび上がる。私は後ろ髪を引かれる思いで、キノコ狩場から離れた。
「 ここ何処よ! お家に帰してよ!!! 」
私は嘘みたいに続く広い草原をただ、ひたすら黙々と歩き始める。しかし、歩けど歩けど広い草原の景色は全く変わらない。
私はこの現状に持って行き場のない気持ちから、なんだか笑いが込み上げてきた。しかし、喉の渇きで笑い声は渇いていた。
「 ははは…ほんと、ここ何処なんだろ? 」
ふと目の前でうごめく何かの塊が視界に入った。
「 ぎゅっ、ぐぅえぇえ~ 」
「 うおっ! 変な鳴き声だ…なんだ? スライム? スライムだよね? 」
いや違う、某RPGで登場するスライムとは全くの別物。腐葉土色だし、可愛いくないし、ゴツく鋭い牙さえ生えているし。ガシン、ガシンと歯を噛み締める音を無駄に響かせ、威嚇してくる。
目のようなモノと目が合ってしまった。かかって来いの合図を送られたと勘違いしたように反応したスライムは容赦なく乙女の尻に噛み付いた。
「 いってぇえ! 」
スライムのようなモンスターはスッポンのように私の尻に噛み付いて離れない。
「 痛い、バカ! 痛いって!歯型が残るって! 」
私はこれでもかと尻を左右に振りまくる。だが、空気の読めないスライムは私を解放する気は、全くもって無いらしい。更に別の大きなスライムが追いかけてきた。
「 薫ちゃん!ねぇ、薫ちゃんっ、アタシを投げるのよ!」
何処からか可愛い声がする。痛みでトリップしたようだ。激痛ゆえ、脳が現実逃避したんだと思う。私はその幻聴に便乗した。
「 え? 誰? アナタは誰なの? 」
「 スカートのポッケットの中よ! 」
「 え? ポケット? 」
ポケットにはたしか、お気に入りのウサギのような耳の長い人形、ウサゴンと執事を模した縫いぐるみのペアをキーホルダーにして、家の鍵に付けていた。それを肌身離さず入れていた。
私が弟達に玩具を作ってあげようと、試作で作ったわりに意外と可愛く出来てしまった、大切な縫いぐるみだ。どうやら幻聴ではなく、そのウサギ耳の人形の方が喋っているようだ。
「 怖い怖い怖い 」
「 いいから、アタシを投げなさぁい! 」
訳の分からない私は言われるまま、迫り来る不細工なスライム目掛けて、ウサゴンを力一杯投げ付けた。
それはいったん、スライムに当たると跳ね返って地味に地面に落ちた。
ハタッと重みのないその人形が地表に接触すると、モクモクと煙が上がってくる。スライムのようなものは、この煙に警戒してか動きを止めた。煙が周囲を埋め尽くす。
ほんの数十秒程で煙が徐々に晴れてくると、うっすらとスライムの影と、また別のデカい人影が見える。私は思った。
「 また、何か得体の知れないのが増えてるし… 」
スライムの前に立ちはだかる巨人のそれは、先程の可愛い妖精のような話し方とは全く違う、かなりドスの効いた野太い声で叫び始めた。
「 おどれー、何処のどいつじゃ~! アタシの薫ちゃんにちょっかい出すんは、おん前らかぁあ!!!」
私は特徴ある部分に気付いた。頭にはウサギの様な長い耳、ふわふわで真ん丸の尻尾…、それは、私がウサゴンを作った時の見覚えのあるパーツだ。考えたくは無いが、多分、あの可愛いウサゴンの成れの果てだ。
「 私が作った、あの可愛いウサゴンは何処へ行った… 」
長耳マッチョはこちらに振り返ると、セリフを決めていたのか、すらっと言い放つ。
「 アタシ、ウサゴン!ヨロシクね♪ 」
まるで、私、○カちゃん、よろしくね♪的なフランクな感じで話しかけてきたが、全裸だ。
股間には作ってもいないし、見覚えの無いものもブラ下がっていた。
「 近寄るな!!! 」
私は思わず、もう一つの執事を模した人形をあの可愛さが微塵も感じられなくなってしまった、ウサゴンだったモノへ投げてつけていた。
ウサゴンの逞ましく引き締まった胸筋に当たると、再びモクモクと煙が立ち上がる。煙の中で薄っすら人型の影が見えた。私は思った。
「 なんて日だ… 」と。
煙が晴れると、そこには長耳とふわふわで真ん丸の尻尾がついた、私好みのイケメン執事がいた。私は思わず高揚する。
「 イケメン! 」
「 薫ちゃん!言っておくけど、その子、執事しか出来ないから、ホント使えないわよ 」
さっそく、長耳マッチョはブサイクなスライムを素手で殴り潰しながら、こちらに笑顔で話し掛けてきた。
何を言ってんのか分からない。執事が出来れば充分じゃないのかと。両腕を腐葉土色に染め上げていく、何かの専門プレイ中にしか見えない、あの長耳マッチョの発言に、私の心には『 イケメン 』以上のワードは響かなかった。
「 うおりゃーーー! 」
側では、もう、スライムか何だか分からない状態のモノを野太い声で叫びながら、殴り潰し続ける長耳マッチョから離れ、ウサ耳イケメン執事が、私の尻に噛み付いたままのブサイクなスライムをライターで炙って、取り除いてくれていた。私は思った。
「 イケメンって素晴らしい! 」と。
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