異世界転移したら豊穣の神でした ～イケメン王子たちが僕の夫の座を奪い合っています～

8. 紅の神官、夫候補になる

「ーーーでは、さっそく明日から王子を神殿に遣わすとしよう」


朗らかな笑顔でそう言った蒼州の王の声で、俺ははたと現実に引き戻された。


「我が蒼州からは第一王子のカシムを。年齢的にもちょうど良いですからな」


ハハハと陽気に笑う蒼州の王の表情には、どこか勝ち誇ったような雰囲気が見える。

蒼州の第一王子カシムは今年23歳になる。
20歳のデメリーズ様の相手としては、ちょうど良い年齢差といえるだろう。

その上、第一王子は役者顔負けの美男子であることでも有名だ。
何をやらせても器用にこなし、どんな男女も魅了するような色男であるという。

まさに神の夫になるべく育てられた理想的な王子だろう。



「我が翠州からは第二王子のセブランを」


言葉少なに、翠州の王が言う。

翠州の第一王子は今年30歳になる。
デメリーズ様のお相手としては年が離れすぎているため、第二王子を夫候補とするらしい。

第二王子セブランは今年18歳。
デメリーズ様より年下ではあるものの、夫候補としては問題ない年齢差だろう。

そして最後に紅州の王、我が父でもあるバビロ・コルディエが口を開いた。



「我が紅州からは、第二王子ラミロを遣わそう」

「は…？」



予想もしていなかった言葉に、つい口から声が漏れた。

驚いたのは私だけではなかったようで、連邦議会の円卓を囲んでいた神官が慌てて声を上げた。

「お、お待ちください。ラミロ様は神官として既に神に仕える身。王子と言えど夫候補になるのは…」
「一度神官になった者が夫候補になれないという決まりはない」
「ですがー…！」
「誰を夫候補として遣わすかは、各州の王が決めることだ。神殿に口を出す権利はない」

神官の苦言にこれ以上付き合う気もないのか、父はその後口を開かなかった。
立場上その場で父を問い詰めることもできず、俺はただその様子を茫然としたまま見つめていた。


確かに俺は紅州の第二王子として生まれたものの、現在29歳。
デメリーズ様の夫候補になるには年が離れすぎている。

弟である第三王子のレイズは22歳で、幼い頃よりデメリーズ神の夫候補となるため育てられてきた。

早々に夫候補になる道から外れ神官として身を立ててきた俺を、今更推す父の意図がまるで理解できない。



「では各州の夫候補は、明日の昼食前にデメリーズ神へご挨拶をしていただくことといたしましょう」



紅州の王である父の決定に異を唱えるものは他におらず、神官長の言葉で連邦議会はお開きとなった。