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7. 紅の神官、神に出逢う
しおりを挟む連邦議会の席には、3州の王族と、中央神殿の高位神官たちが集まっていた。
このグランカラード連邦国は、紅州、蒼州、翠州の3州と神殿によって成り立っている。
各州はそれぞれ自治権を持っているものの、連邦国としての重要事項はこの連邦議会によって決定される。
新たなデメリーズ神が降臨されてからまだ4時間ほどしか経っていないが、昼頃に中央神殿付近で突然の嵐が発生したことで、デメリーズ神が降臨されたという話は瞬く間に国中に広がっているようだ。
「待っていたぞ、ラミロ」
一番奥に座る中央神殿の神官長が俺に声を掛けると、円卓に坐する王族たちが一斉にこちらへ視線を向けた。
「して、デメリーズ神のご様子は」
「お菓子をお召し上がりになり少し落ち着いたのか、今はベッドでお休みになっておられます」
「そうか」
神官長が少しほっとした様子で長い顎髭を撫でた。
「ご降臨は来年だったはずだが、本当にデメリーズ神で間違いないのか?」
鋭い視線を向けてくるのは翠州の王、ゼフィアス・カラエフだ。
50歳を超えた今も筋骨隆々で、厳格で不愛想なところはいかにも翠州の人間らしい。
「黒髪に黒と金の瞳をお持ちの大層美しい容姿をされており、デメリーズ神の特徴そのものでした。感情の揺れで天候を左右する点からしても、1年早くご降臨されたと考えて間違いないと存じます」
「ふむ…」
「名はジウ・スズキ様。ニホンという神世から来られた20歳の男性です」
数時間前にデメリーズ様を初めて目にした時の衝撃が、ふと脳裏をよぎる。
神殿の警備兵に呼ばれて降臨の間に急いで駆けつけた俺は、ブラリスの花畑の中に立つ1人の青年を見つけた。
この大陸の人間は皆、金色や銀色など淡い髪色をしている。
満開に咲き誇る黄色のブラリスの中で、一際目立つその艶やかな黒髪は神秘的に浮かび上がって見えた。
少し離れた場所で足を止めると、我々の気配に気が付いた青年がこちらを振り返る。
さらりと靡く黒髪の間から、黒真珠のように輝く黒の瞳と、咲き誇るブラリスがそのまま映ったかのように鮮やかな金色の瞳がのぞく。
この国の人間とは明らかに違う、清廉な顔立ちだ。
透き通るような白い肌に、淡く色づいた薄い唇。
女性のように華奢でありながら、どこか角ばった骨格は男性のもので、男とも女ともとれる神秘的な佇まい。
ーーーー…美しい。
きっと誰が見ても、美しい以外の言葉が出てこないだろう。
神々しいほどの美貌に目を奪われて、ぼーっと立っていることしか出来ない。
デメリーズ神がとても美しい容姿をお持ちだということは、神官である俺はもちろん、国民全員が知っている。
どの伝承にも美しい神であると記されているし、実際に拝謁したことがある前デメリーズ神もご高齢でありながらとても美しい方だった。
だからある程度は理解しているつもりだったのに、想像を遥かに超える衝撃だ。
美しさとは、度を越えると人を圧倒する力になる。
目を奪われて不躾にデメリーズ神を見つめていると、その涼やかな視線が俺と重なった。
何か言うべきだと頭ではわかっているのに、口が動かない。
固まったままの俺をしばらく見つめていたデメリーズ神が、ふと口を開いた。
『うわぁ…すごくカッコいい』
まるで子供のような、あどけない呟きに、一瞬思考が止まる。
そしてその意味と、その言葉が俺に発せられたことを視線で理解した瞬間、心臓がばくりと跳ねた。
ぶわりと顔に熱が灯る。
肺から空気が押し戻されるような胸の締め付けに、思わず心臓のあたりを右手で掴んだ。
その後は、とにかく冷静を装うのに必死だった。
神官として、グランカラード連邦国の国民として、デメリーズ神に失礼があってはならない。
デメリーズ神を神殿に案内し、基本的な事項をお伝えした。
少しお話してみると、今回のデメリーズ神はとても幼いように感じた。
こちらの言ったことをそのまま信じてしまうほど素直で、喜怒哀楽がすぐに顔に出る。
大泣きされた時はかなり肝が冷えたものの、子供をあやすように抱きしめると落ち着いた。
その後はケロリとしてご機嫌にお菓子を召し上がる。
20歳の大人というよりも、10歳の子供と言われたほうがしっくりくるほどだ。
そんなお方がこれから巻き込まれることになる未来を思うと、胸が痛んだ。
神罰を恐れデメリーズ様が不幸になるようなことは皆避けるだろうが、純粋なあの方が到底見抜けないような様々な思惑が交錯することになる。
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