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6. 豊穣神、機嫌を直す
しおりを挟む「とにかく、デメリーズ様が憂いなく日々を幸せにお過ごしくださることが、このグランカラード連邦に暮らす民全員の幸せに繋がります。何かお困りのことがございましら、なんなりとお申し付けください」
「は、はい…」
「この世にご降臨なされたばかりでお疲れでしょう。今後のことについては、また明日お話いたしますので、まずはゆっくりとお休みください」
ラミロさんがメイドさんに目配せすると、またもや何も言っていないのにメイドさんがすすすっと動いて、ワゴンに乗った大量のお菓子が運ばれてきた。
フルーツ、ケーキ、チョコレートに焼き菓子まで、ホテルのビュッフェにも負けない豪華なデザートがあっという間にテーブルに並べられる。
「うわぁ…!」
「デメリーズ様のお好みがわからなかったので、一通り用意させました。お好きなものをー…」
「これ僕が食べていいんですか!?」
キラキラと輝く美味しそうなデザートを前に、ついテンションが上がってしまう。
僕の勢いに目を丸くしたラミロさんは、なぜか少し耳を赤くした。
「も、もちろんでございます」
「わー!最高!ありがとうございます!いただきまーす!」
紫色のクリームがのったケーキを食べてみると、イチゴのような甘酸っぱい味がした。
レモンに似ているのにバナナのように甘いフルーツや、見た目はチョコレートなのにチーズの味がするお菓子など、不思議だけどすごく美味しいものばかりだ。
「どれもすっごく美味しいです!幸せ~!」
緩みきった顔でそう言うと、ラミロさんや部屋にいたメイドさんたちがみんな一斉に顔を赤くした。
不思議に思って首をかしげると、ラミロさんは何かを誤魔化すように小さく咳払いをする。
「…お気に召したようで何よりです」
「本当にすっごく美味しいです!ラミロさんも一緒に食べませんか?」
「え?」
僕の言葉に、ラミロさんはぽかんとした顔で固まった。
「一人じゃこの量食べきれないし、誰かと食べたほうがもっと美味しいし!」
「いや、私は…」
「あ、甘いもの嫌いですか?」
「そういうわけではないですが……」
じっと見つめると、ラミロさんは赤くなった顔で小さく「ぐ」と呻いた。
それから一呼吸おいて「…わかりました」と呟くと、メイドさんから自分用のお皿を受け取った。
優雅な手つきでフォークを持つと、すっとケーキを一口サイズに掬い取る。
ただケーキをフォークで切っているだけなのに、所作がすごく綺麗だ。
長い金髪に白いローブを着ているラミロさんは、僕なんかよりもずっと見た目が神様っぽい。
ピンと背すじを伸ばして上品にケーキを食べているラミロさんの口元が、ほんの少しだけ緩やかな笑みを描いた。
「ふふっ、ラミロさんも甘いもの好きなんですね!」
「っ…!」
一緒なのが嬉しくてついそう口にすると、ラミロさんが目を丸くした。
「どうして…?」
「なんだか嬉しそうに見えたから!あれ、違いましたか?」
「…………いえ」
ラミロさんは驚いた顔をしているけれど、否定しないってことはやっぱり僕と同じ甘党らしい。
「僕、料理が得意なので、今度デザートを作ってお礼しますね!」
「お礼、ですか…?」
お礼をされる心当たりがないのか、ラミロさんは少し怪訝そうな顔をしている。
「さっき僕が泣いてる時、慰めてもらったから。ラミロさんがああしてくれなかったら、僕きっといつまでも泣いて、大雨を降らしてたと思います。だから何かお礼がしたくて」
「デメリーズ様がお泣きになられたのは私が原因です。お叱りを受けて当然のところをお礼だなんて、滅相もございません」
「あれはラミロさんが原因じゃないってさっきも言ったじゃないですか」
「ですが…」
「とにかく!いつかお礼をさせてください。僕に出来ることなんて、あんまりないかもしれないけど」
そう言ってにっこり笑うと、ラミロさんはしばらくして「…お心遣い痛み入ります」と小さく頷いてくれた。
ふと窓の外を見てみると、いつのまにか青空に大きな虹がかかっていた。
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