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2. ポンコツ、跪かれる
しおりを挟む「………え?」
見たことがない黄色の花のお花畑が、視界一面に広がっている。
菜の花くらいの高さがある花の壁のその向こうには、遠いけれど城のように立派な建物が見えた。
目をパチパチとしながら自分のいる場所を見上げると、僕は大きな柱に囲まれた東屋のような場所に座り込んでいるようだった。
白くすべすべした高級そうな石で作られた床はひんやりとして気持ちがいい。
よく見ると床にはアニメでみた魔法陣のような模様が描かれていて、僕はその中央に座っていた。
雨で濡れていたはずの体も何故か乾いていて、土砂降りだった天気もからりとした穏やかな晴れ模様に変わっている。
都会のど真ん中にいたはずなのに、チュンチュンピチチ…と平和な鳥の囀りしか聞こえてこない。
「ここどこ…?」
状況が飲み込めずただただそこに座り込んでいると、カサリと後ろで音が聞こえた。
反射的に振り返ると、白くて長いマントを着た男が驚いた顔で僕を見つめている。
「デっ…デメリーズ様…!?」
「え」
僕を見て零れんばかりに目を見開いた男は、急に地面に土下座をした。
ズシャアっと音がしそうなほどの勢いに驚いて、僕は反射的に後ずさる。
「えっ?ちょっ…!?」
「ご降臨あそばされているとは存ぜず、大変ご無礼いたしました!すぐに神官を呼んで参りますので、しばしお待ちを!」
土下座したまま大声でそう言い放つと、さっと立ち上がってすぐに走り去っていった。
「………なんなの、ここ」
1人残された僕は、再び訪れた静寂の中でゆっくりと立ち上がった。
東屋から恐る恐る足を踏み出してみると、肌に当たる日差しが柔らかく暖かい。
その心地よさに目を細めると、風に運ばれてくるいい香りに誘われて黄色の花畑の中へと進んでいった。
「うわぁ…!」
満開の花のいい香りが全身を包み込む。
腰の高さまである黄色の花に顔を近づけると、瑞々しく甘い香りが鼻をくすぐった。
「……ふふっ、天国みたいだ」
さっきまでびしょ濡れになって泣いていたくせに、すぐ機嫌が治るのは僕のいいところだと思う。
呑気にお花畑をお散歩していると、ふと後ろに人の気配がした。
振り返ると、少し離れたところに白いローブを着た長身の男が1人立っている。
その後ろにさっき土下座して走り去っていったマントの男もいた。
そしてその更に後ろには、ぞろぞろと似たようなマントを着た人たちが慌てた様子でこちらに向かってきている。
…………も、もしかして僕、不法侵入者になっているんだろうか。
冷や汗をかきながらふと一番前にいる長身のローブの人に目を向けると、僕の目線はその人に釘付けになった。
背中まで伸びた長いストレートの金髪に、ルビーのように煌めく赤い瞳。
キリッとしたクールな目元が涼やかで、男らしいのにとても綺麗だ。
色彩も相まって、作り物のような美しさを感じる。
「うわぁ…すごくかっこいい」
「!?」
見たこともないレベルのイケメンを前に、つい口から素直な感想が零れた。
あ。と気が付いて口を押さえたけれどすでに遅く、クールイケメンの目が見開かれ、みるみる頬が染まるように赤くなった。
予想外の反応に、僕はパチパチと瞬きを繰り返す。
「んんっ…し、失礼いたしました」
クールイケメンは、口元を隠して小さく咳払いすると優雅な動きでその場に跪いた。
「デメリーズ様。ご降臨あそばしましたこと、心よりお慶び申し上げます」
「え?」
クールイケメンがそう言うと、それに続くように後ろに並ぶ人たちも跪いた。
大勢に突然頭を下げられる意味不明な状況に、僕はただあわあわと両手を彷徨わせる。
「詳しいことは神殿にてご説明差し上げます。さあ、どうぞこちらへ」
「は、はい…?」
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