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番外編
隊長の逆鱗 side ランディ
しおりを挟む「……ジョエル?」
いつものように隊長室に入ってきたギルクラウド隊長は、マントを脱ごうとしていたその手をぴたりと止めて、その場に固まった。
見開かれたその瞳は、胸元をはだけさせた婚約者殿と、その首筋に手を伸ばしていた俺に釘付けとなっている。
まるで時間が止まったかのような静寂は永遠に思えたが、実際には3秒にも満たないものだったのだろう。
最初に口を開いたのは、婚約者殿だった。
「久しぶり、セレスティン。突然会いに来てしまってごめん」
少し眉を下げて微笑んだ婚約者殿のその声で、驚きに染まっていたギルクラウド隊長の瞳に力が戻った。
そして次の瞬間には喉に強い衝撃が走り、肺から押し出される息で俺は「かはっ」と呻くことになった。
「セレスティン!」
婚約者殿が慌てて立ち上がる。
討伐でも見たことがないほどの怒りに蒼い瞳を燃やすギルクラウド隊長が、俺の襟首を片手で掴んでその場に吊り上げていた。
「答えろ、ランディ・エーガー。貴様…俺の婚約者に何をしようとしていた?」
「ぐっ……!」
「ちょっ…!セレスティン!?誤解だよ!」
ーーー殺される。
本気でそう思うほどの殺気を向けられて、背筋が凍る。
俺の首元を締め上げる隊長の手を掴んで、婚約者殿が声を荒げた。
「僕の胸元に紅茶が零れてしまったから、火傷していないか確認してくれただけだ!」
「火傷…?…っ大丈夫なのか!?」
その言葉を聞いて、バッと俺から手を離したギルクラウド隊長は、焦ったように婚約者殿の胸元に視線を向けた。
解放されて咳き込む俺を気にも留めず、すでにはだけている婚約者殿のシャツを広げて隅々まで確認している。
慌てた様子の隊長をきょとんと見つめていた婚約者殿は、その様子を見て眉を下げながら微笑んだ。
「ふっ、大丈夫だよ。冷めていたから火傷もしていないし、さっき魔法で服も乾かしたところ」
「……っそうか…」
安堵の溜息をついた隊長は、次の瞬間にぴしりと体を硬直させた。
どうしたのかとその様子をじっと見つめていると、黒髪が揺れる頬から耳までがじんわりと赤く染まっていく。
その視線は、隊長によって更にはだけてしまった婚約者殿の白い胸元に釘付けになっている。
「す、すまない」
ギルクラウド隊長は慌てて婚約者殿の肌を隠すと、赤く染まった頬を片手で隠すように覆って顔を背けた。
その様子を見て小さく微笑んだ婚約者殿は、はっとしたように慌てて俺に向かって手を差し伸べた。
「セレスティンが誤解してしまったようで悪かったね。大丈夫かい?」
「は、はい…」
差し出された白く長い指に右手を伸ばすと、手が触れる前に横から伸びてきた力強い腕によってぐわりと引き上げられた。
まだ顔の赤みが治まっていないギルクラウド隊長によって強制的に立たされた俺は、その蒼い瞳にぎろりと睨まれて硬直する。
「…お前がジョエルに襲い掛かったわけではないことは理解した。悪かったな」
「い、いえ!元はと言えば、自分が婚約者殿に紅茶を零してしまったのが原因ですから…!」
蒼い眼光が一層圧を増した気がして、俺はびくりと体を硬直させる。
氷のようなその視線を和らげるように、優し気な声で婚約者殿が微笑んだ。
「それは気にしなくていいよ。セレスティンが不在の間、丁寧にもてなしてくれてありがとう」
婚約者殿がそう言ったことで、隊長はとりあえず俺から視線を外した。
立ったままだった婚約者殿をソファに座らせると、自分もその横に腰を下ろした。
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