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番外編
憧れの先輩の、憧れ side ランディ
しおりを挟む「………ギルクラウド隊長の前に…学徒軍の隊長を、務められていたのですか?」
「そうだよ。とは言っても形ばかりの隊長だったから、3年生になる時にはセレスティンに引き継いでしまったんだけどね」
恥ずかしそうに笑うその顔は、とても嘘を言っているとは思えない。
ーー…この人が、あのギルクラウド隊長が憧れる、前隊長。
……頭が混乱してきた。
我儘な婚約者と、ギルクラウド隊長が慕う前隊長が同じ人?
どういうことだろう。
確かに婚約者から手紙が届くたび、隊長は苛立っているように見えた。
でも実際に話してみると、目の前にいるこの男は、平凡ながらも謙虚で優しい人間に思える。
……隊長が婚約者のことを嫌っていると思っていたのは、俺の勘違いだったのか?
ぐるぐると様々な思考が頭を回り、俺は無言のままその場に立ち尽くす。
「…エーガー君?顔色が悪いけど、大丈夫かい?」
婚約者にそう声をかけられて、慌てて意識を取り戻す。
「だ、大丈夫です。えっと…あ、お茶、もう一杯飲まれますか?」
「…うん。では、いただくよ」
必死に平静を保とうとそう言った俺を、婚約者は気遣わし気に見上げる。
差し出されたカップにポットから紅茶を注ごうとしたものの、動揺で震えていたその指からカップが傾いて倒れた。
パシャン
まるでスローモーションみたいに、茜色の紅茶が婚約者のシャツに染みを広げていく。
「も…申し訳ありません…!!」
半分パニックになりながら、俺は慌ててポットとカップを机に戻す。
紅茶を被った瞬間驚いた顔をしたものの、婚約者はすぐに笑顔を作った。
「大丈夫だよ。そんなに熱くなかったから火傷もないし、このくらいすぐ乾く」
「ですが…!」
「本当に気にしなくていい。…ほら」
婚約者はおもむろに、紅茶の染みがついたシャツのボタンに指をかけた。
優美な動作で一つずつ外されるたび、少しずつ布に隠されていた美しい鎖骨が露わになる。
「え……」
ドクン、と心臓が大きく鼓動を打つ。
白い首筋と、同じように滑らかな肌が胸元から現れた。
香り立つような色気に、ボタンを外す細い指先から目が離せなくなってしまう。
「ほら、火傷もないだろう?」
ハシバミ色の瞳が柔らかに微笑む。
陶器のような白い胸板に、零した紅茶の雫が張り付いていた。
ーーーその雫を、舐めとりたい。
思わずそんなことを考えて、ゴクリと喉が鳴った。
固まったままの俺を見て、また小さく笑った婚約者は、ふいに小さく息を吸い込んだ。
ふーっと、煙草を燻らせるように吐き出された息が柔らかくその胸元へ辿る。
小さく白い綿毛のような煙が現れては消え、ふと気づけばシャツの染みはなくなっていた。
ーーー…なんて繊細な魔法だろう。
声を出すことも出来ずに見入っていた俺に、婚約者は柔らかく微笑む。
「洗浄系の魔法は得意なんだ。こういう時に便利でね」
ギルクラウド隊長のような輝かしい美貌に比べれば、特徴のない平凡な男だと、そう思った。
…なのに、なんでだろう。
芳しい春の花園のように、人を惹きつけ迷わせる魅惑がある。
まるで吸い寄せられるように、無意識にその白い首筋に手を伸ばしていた。
頭の片隅でいけないと思うのに、その動きを止めることができない。
「エーガー君…?」
その白い喉から零れた自分の名前にさえ、心臓が音を立てる。
伸ばした指先が首筋に触れようとしたその時、カチャリと隊長室のドアが開いた。
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