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番外編
憧れの先輩 side ランディ
しおりを挟むそれから無事に学徒軍に入隊した俺が、ギルクラウド隊長への憧れを尊敬へと変えていくのは、あっという間だった。
口数はとても少なく、笑顔なんて見たこともない。
隊員に声をかけるのは、連絡事項と命令としっ責のみ。
それでもその圧倒的な強さに、誰もが隊長を信頼していた。
ギルクラウド隊長に近づきたくて、俺は必死に鍛錬に励むようになった。
空虚だった心が満たされていくようだった。
そして入隊から2ヶ月が経とうとした頃、他でもない隊長から副隊長に任命された。
「ランディ・エーガー、お前を学徒軍の副隊長に任命する」
「はい!精一杯務めさせていただきます!」
あの時の高揚を、俺はきっと一生忘れないだろう。
目指すべき人から認められた、嬉しさと誇らしさを。
副隊長に任命されてからは、補佐としてギルクラウド隊長と話す機会も各段に増した。
世間話、とまではいかなくても、仕事や学徒軍に関することであれば普通に話ができるようになった。
「ギルクラウド隊長は1年生の終わりには隊長に任命されたと伺いましたが、本当ですか?」
「ああ」
ある日、隊長室で書類をまとめながら俺は何気なくそう聞いた。
俺自身、1年生でありながら副隊長に任命されたことを皆に大抜擢だと羨まれたくらいだ。
1年生でありながら隊長になるなんて、やっぱりギルクラウド隊長はすごい。
「流石ですね。上級生であっても、ギルクラウド隊長にかなう隊員などいなかったでしょう」
「そんなことはない。当時の隊長は俺より強かった」
「そ…そんな方が?」
書類から目を上げないまま、隊長はさらりとそう言った。
正直言って信じられない。それほどギルクラウド隊長の強さは規格外なのだ。
そんな隊長よりも強い人が同世代にいたなんて…一体どんな人だったのだろう。
「魔力は俺の方が強かったが、制御方法と魔獣の知識に長けていた。討伐で危うく命を落としかけたところを、前隊長に救ってもらったこともある」
「ギルクラウド隊長が、命を…」
今は一切の隙も見せない隊長が討伐で命を落としかけただなんて、余計に信じられない。
目を見開いたままの俺に一瞥も向けないまま、ギルクラウド隊長は話し続けた。
「まるで踊っているかのような軽やかさで次々と魔獣を倒して……皆、あの人が戦う姿に見惚れていた。とても強いのに誰よりも謙虚で、分け隔てなく皆に優しい人だった。前隊長に比べれば…俺はまだ、隊長として未熟と言わざるを得ない」
寡黙なギルクラウド隊長が、こんなに喋っているのを初めて見る。
その横顔は、どこか陶酔しているように見えた。
厳格なあのギルクラウド隊長がここまで誰かを褒めるだなんて…前隊長は、それほどにすごい人だったのだろう。
憧れの人が、憧れる人。
一体どんな人なんだろう。
「……自分も、お会いしてみたかったです」
「だめだ」
ぽつりと呟いた言葉は、光の速さで撃ち落とされた。
予想していなかった返答に顔を上げると、隊長はハッとした顔で視線を逸らした。
「あ、いや……前隊長は卒業後に領地に戻り、今は王都にいない」
「そうですか」
隊長は何かを誤魔化すように咳払いすると、この話は終わりだとでも言いたげに、書類をまとめて席を立った。
いつも表情を変えない隊長が、焦ったような顔なんて初めて見た気がする。
この時感じた違和感を、もっと気にしていればよかったのかもしれないけど。
鈍感な俺は「俺にとってのギルクラウド隊長のように、前隊長のことを慕っていらっしゃるんだなぁ」なんて、見当違いのことを考えていたのだった。
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