モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織

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番外編

あれから1年が経ちました

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僕がカールロイン魔法学園を卒業してからもうすぐ1年。
伯爵として領地を統治するために覚えなければいけない仕事は山ほどあり、休みも碌にとれないほど忙しい毎日を送っていた。

「なんだかもう懐かしいな…」

アンダーソン領から王都にやってきた僕は、1年ぶりにカールロイン魔法学園の門をくぐった。
たった1年のはずなのに、目まぐるしい日々を送っていたせいか、学生だった頃がひどく昔のことのように感じる。

日も暮れかけた学園は人もまばらだ。
見慣れた景色のそこかしこに、セレスティンとの思い出が浮かんで思わず頬が緩んだ。



婚約者であるセレスティンとは、ここ4か月会えていない。
月に一度は僕が王都に顔を出す予定だったのだが、思いの外領地での仕事が忙しく、結局この1年で会えたのはたったの3回だけになってしまった。

手紙でやり取りはしているものの、やはり寂しさが募る。
それはセレスティンも同じだったようで、彼は何度も学園を休んでまでアンダーソン領に来ようとしてくれていた。
さすがにそれはいけないと、心を鬼にして必死に止めたのだけれど。

そんなもどかしい日々も、もうすぐ終わる。
領地で学ばなければいけないことは全て終わらせたし、セレスティンもあと少しで学園を卒業する。
本当は卒業式に合わせて王都に戻る予定だったのだけど、早く彼に会いたくて、無理やり仕事を片付け2週間ほど早く王都に戻ってきてしまった。

「セレスティン、驚くかな…」

僕がすでに王都に来ていることを、彼は知らない。
手紙で先に伝えようかとも思ったけれど、手紙を書いている時間すら惜しいほど早く会いたくて、馬を飛ばして来てしまったのだ。

空は藍色に染まり始め、既に夜が近づいている。この時間なら、セレスティンは学徒軍の執務をしている頃だろうか。
夜も近いからか、学徒軍の隊長室に向かう道中知っている顔に会うこともなく、僕は懐かしい校舎を歩き、かつては自分が使っていた見慣れた部屋のドアをノックした。

ーーーコンコン。

しばらく待ってみたものの、扉の向こうから返事はない。

まだ討伐から帰っていないのか、それとももう寮に戻ってしまったのか。
セレスティンの居場所を考えて逡巡していると、背中から声をかけられた。


「隊長室に何か御用ですか」

その声に振り向くと、僕の後ろには深い緑色の髪をしたイケメンが立っていた。
エメラルドのように輝く瞳は少し生意気そうに吊り上がり、短く切り揃えられた深緑の髪は夏の森を連想させる。
精悍な顔立ちでありつつも、どこかサッカー少年のようなあどけなさを残したその容貌に、僕は目を見開いた。


ーーーその外見に、見覚えがありすぎたから。


「……あの?」

思わず固まってしまった僕に、彼は怪訝そうな視線を向けた。
僕は慌てて笑顔を作る。

「 あ、すみません。セレスティンに会いに来たんですが、不在のようですね」
「ギルクラウド隊長は討伐の後始末で森にいらっしゃいます。……失礼ですが、隊長とはどういうご関係で?」

じとり、と訝しげな視線が僕に向けられた。

「……彼の婚約者の、ジョエル・アンダーソンです」

若干の居心地の悪さを感じつつそう言った瞬間、エメラルドの瞳が少し見開いた。
そして数拍の後、その瞳の奥に敵意の炎が灯ったように見えた。

「……婚約者様とは存じ上げず、失礼をいたしました。私はランディ・エーガー、学徒軍の副隊長を務めています」

先ほど頭に浮かんだ通りの名前に、「知ってます」とつい言いたくなるのを堪える。


”ランディ・エーガー”

彼もまたセレスティンと同じ、『薔薇の蕾に口づけを』に出てくる攻略対象の一人なのだから。


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感想 13

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