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推しへの愛が止まりません
しおりを挟むセレスティンの涙で熱く濡れた服が夜風で冷えてきたころ、少し落ち着いたセレスティンが恥ずかしそうに顔を上げた。
「…す、すまない…服を…」
「いいよ。今日はもう帰ろうと思っていたんだ、気にしないで」
大した濡れ方でもないから、しばらくすればパーティにだって戻れるだろうけど。
今日はもう、セレスティンと離れていたくなかった。
「セレスティンは?ノアをおいてきてしまって良かったのかい?」
「…元々、エドウィン王子に頼まれて今回だけと引き受けたんだ。きっと今頃、殿下と一緒にいるさ」
それを聞いて、僕は殿下に謀はかられたことを悟った。
僕を煽るために、セレスティンが自分からノアを誘ったと嘘をついたのだろう。
「ガーライル嬢とは正式に婚約を解消するらしい。最後の思い出にと頼まれて、今回だけパートナーを務めると言っていた」
「…なんだ、そうだったのか」
てっきり王子はエリザベスを選んだのかと思っていたけれど、違ったらしい。
ノアがセレスティンルートに入ったわけではないと知って、ほっと胸を撫でおろした。
「僕としばらく会わない内に、セレスティンがノアのことを好きになってしまったのかと思ったよ」
「…そんなわけないだろう」
むっとしたように唇を尖らせるセレスティンが可愛くて、思わずチュッと軽いキスを落とした。
途端にセレスティンの顔が真っ赤に染まると、見開いた瞳がせわしなく彷徨った。
「なっ…っ…!?な、なに…っ!」
「ごめん。愛しくて、つい」
「~~っ…!!」
真っ赤な顔で眉間に皺を寄せたセレスティンは、わなわなと震えた後、表情を隠すかのように僕の肩に顔を埋めた。
そんな仕草すら可愛くて、僕の頬の横で震える黒髪を優しく撫でる。
しばらくすると、耳元でぼそりと拗ねたような声が聞こえた。
「………フォレスト嬢とも…こういうこと、したのか」
「…キスのこと?してないよ、セレスティンが初めて」
「~~っ…なら、どうして……こんなに慣れてるんだ」
恥ずかしいのか、拗ねているのか。
怒ったようにそう言うと、僕の体にぎゅっと抱きついた。
僕がキスに慣れている…ように感じたのだろうか。
確かに前世で25歳まで生きていたから、その時の恋人とキスをした記憶はあるけれど…ジョエル・アンダーソンとしては正真正銘のファーストキスだ。
それに前世の時の恋人との記憶なんて、セレスティンとのキスであっという間に吹っ飛んでしまった。
こんなに好きな相手とキスしたのは初めてで、まったく別物のように感じてしまう。
「慣れてないよ。…ほら、すごくドキドキしてる。セレスティンに触れたくて、自分が抑えきれないくらい」
セレスティンの手をとって自分の左胸に当てる。
鼓動がよくわかるよう、ジャケットの下の、シャツ1枚隔てて素肌が感じられる場所に滑り込ませた。
「…っ…!」
手のひらだけでなく、体ごと硬直させたセレスティンは、戸惑うように目を泳がせた。
耳まで赤く染まっているのが、月明かりの下でもわかる。
「…こういうのは、嫌?セレスティンが待ってほしいなら、いくらでも待つよ」
想いが通じて浮かれている僕は、セレスティンに触れたくてたまらないけれど。
真面目な彼は、もう少し時間をかけて心の準備をしたいのかもしれない。
彼を困らせたくなくてそう尋ねると、目元を赤く染めた彼がぐっと唇を噛んだ。
ごくりと唾を飲み込んで、伏せられていた視線がまっすぐに僕を見つめる。
「…嫌だ。俺も、待てない。…ジョエルが欲しい」
戸惑いと、恥ずかしさと、隠し切れない欲情が滲むその瞳に、僕は微笑んだ。
「…嬉しい。僕も、セレスティンが欲しい」
どちらともなく、唇を寄せ合った。
息をする間もないほど深まっていく口づけに、体中の熱が高まっていく。
「は…っぁ…ん……」
僕の舌に甘えるように縋りつくセレスティンは、蕩けたように甘い声を漏らした。
その声をもっと聞きたくて、どんどん煽られていく。
上顎も、舌先も、歯列も、彼の全てを暴いてしまいたくて、僕はキスに夢中になった。
「んん……っ…ふ…ぁ…ジョ、エル…っ…!」
ーーーどれくらい口づけていただろう。
くたりと、体の力が抜けてしまったセレスティンが、僕にもたれかかってきた。
包み込むようにその体を抱きしめて、赤く染まった耳元で囁く。
「…可愛いね、セレス」
「っ…!」
愛称で呼ばれたセレスティンの体が、小さく震えた。
その反応の全てが愛おしくて微笑むと、遠くから人の話し声が聞こえてきた。
だんだんと近づいてくるその声は、僕らのいる噴水の方へ向かってくるようだった。
「…少し場所を変えようか」
こんな蕩けた顔をしたセレスティンを、他人に見せるわけにはいかない。
僕がそう声をかけると、彼は真っ赤な顔をしたまま、こくんと頷いた。
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