23 / 37
推しに告白しました
しおりを挟む会場中を歩いてセレスティンを探したものの、彼はなかなか見当たらなかった。
ふとエドウィン王子の横にノアを見つけて、僕は駆け寄る。
「殿下、お話し中に失礼いたします。…ノア、セレスティンがどこにいるか知らないかい?」
「セレスティンですか?さっき外の空気が吸いたいから中庭に行くって言ってましたけど…」
「そうか、ありがとう」
手短に礼を言って中庭に向かう僕を、エドウィン王子がニヤニヤした顔で見つめていた。
王宮の中庭はとても広い。
ぽつぽつ設置された外灯の微かな光に照らされた夜の庭園は薄暗かった。
駆け足でセレスティンを探し回った僕は、一番奥にある噴水の手前で、ようやく愛しい黒髪を見つけた。
月を見ていたのか、彼は噴水のふちに腰を掛けて夜空を見上げている。
僕の足音に気が付いて、こちらを振り向いたその蒼い目が大きく見開いた。
「……どうして、ここに」
「君を探してたんだ、セレスティン」
歩み寄る僕をじっと見つめていたセレスティンは、隣に座ってもいいか尋ねると、無言のまま頷いた。
「月見の邪魔をしてしまったかい?」
「…いや、ただ少し休んでいただけだ。ジョエルは…俺に何の用だ?」
「……セレスティンに、話したいことがあったんだ」
そう言って体を彼の方に向ける。
まっすぐにその瞳を見つめると、セレスティンは少し怯えるように体を固くした。
まるで僕と話をしたくないと言われているようで、思わず心が怯む。
…それでももう、止まれない。
これで彼が僕を拒むのなら、僕はそれを受け入れるしかないのだから。
「…セレスティンが、ノアをパートナーに誘ったって聞いたよ」
僕の言葉に、セレスティンがピクリと体を震わせた。
後ろめたそうに目を伏せるその仕草に、まるで彼を責めているような口調になってしまったことに気が付いた。
「違うんだ、別に君を責めているわけじゃなくて…。その…今日セレスティンがノアと一緒にいるところを見て思ったんだ。僕はー…」
「聞きたくない!」
僕の言葉を遮って、突然大きな声を出したセレスティンは、両耳を手で覆うと背筋を丸めて俯いた。
「聞きたくない。…ノアとお似合いだったとでも言うつもりか?だから自分のことは諦めろって?」
「セレスティン、僕はー…」
「わかってるさ…!今日嫌ってほどに見せつけられて。…別に俺が特別なわけじゃない。貴方はフォレスト嬢にだって…誰にだって優しくて、あんな風に微笑むんだ」
最後の言葉は、涙で震えていた。
「ちゃんとわかってるから…っ…だから、諦めろなんて、言わないでくれ」
「ーーーわかってないよ」
俯くセレスティンの頬に手を滑り込ませて、顔を上げさせる。
僕にされるがまま顔を上げたセレスティンの青い瞳から、月明かりに照らされた涙が零れ落ちた。
ーーーああ、好きだ。
胸にせりあがる愛しさと歓喜で、どうにかなってしまいそうだ。
僕の両手に頬を包まれて茫然とした様子のセレスティンは、どこかあどけなくて、思わず小さな笑みが零れる。
「…君は、何もわかってないよ」
涙で濡れたその唇に吸い寄せられるように、そっと口づける。
あやすように、宥めるように、角度を変えて何度もその唇を食んだ。
「…っん…!」
青い瞳を見開いて固まっていたセレスティンは、しばらくすると背筋を反らすようにして僕を受け入れた。
息継ぎのため開いた唇から、ゆっくりと舌を滑り込ませる。
「ん……は…ぁっ…!」
頬から首に手を滑らせて、彼の後頭部を包み込むように支える。
ねだるように絡んでくる可愛い舌の裏をくすぐると、セレスティンの腰がびくりと震えた。
すっかり蕩けた表情のセレスティンが、涙を浮かべながらうっすらと瞳をあけて僕を見つめていた。
あまりにも熱情を煽るその反応に、下半身に熱が集まっていくのを感じる。
ーー…まだ、大事な言葉を言っていない。
これ以上はだめだと理性をかき集めると、仕上げに小さなリップ音を落として、唇を離した。
「…セレスティンは、本当にあわてんぼうだね。そういうところも、好きだけど」
キスで息が上がったままのセレスティンの頬に、優しく口づけを落とす。
彼はされるがまま、涙に濡れた瞳で僕を見つめていた。
「…今日君がノアと一緒にいるところを見て、心が焼けるような思いがした。僕は君に相応しくないなんて言いながら…僕以外が君に触れることを、許せないと思った」
「……ジョエル、それって…」
信じられないかのような表情で僕を見つめるセレスティンの瞳から、涙がぽろぽろと零れていく。
愛しくて、可愛くて。僕はその涙を舐めるように、頬に口づけを落とした。
「こうして君に触れるのも、口づけるのも、僕だけがいい。誰かにそんな思いを抱いたのは、初めてなんだ」
セレスティンの頬を両手で包み、まっすぐに目線を合わせる。
涙も、声も、体温も。目の前のセレスティンを形作る全てに、愛おしさがこみ上げてくる。
「君を愛してる」
「…っ…!」
くしゃりと顔を歪めたセレスティンは、僕の胸に抱き着いて泣き始めた。
ぎゅっと抱き着いてくる彼の頭と背中を撫でながら、その艶やかな黒髪に顔をうずめる。
1,608
お気に入りに追加
2,103
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました
藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。
(あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。
ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。
しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。
気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は──
異世界転生ラブラブコメディです。
ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!
華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
推しの為なら悪役令息になるのは大歓迎です!
こうらい ゆあ
BL
「モブレッド・アテウーマ、貴様との婚約を破棄する!」王太子の宣言で始まった待ちに待った断罪イベント!悪役令息であるモブレッドはこの日を心待ちにしていた。すべては推しである主人公ユレイユの幸せのため!推しの幸せを願い、日夜フラグを必死に回収していくモブレッド。ところが、予想外の展開が待っていて…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる