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パーティーに出席しました
しおりを挟む少し休むという母を残し、僕は父と部屋を出た。
屋敷の廊下を歩きながら、自分とよく似た明るい茶髪を揺らす父に、問いかけた。
「……父上は…母上と結婚する時、躊躇いませんでしたか」
「ん?どういう意味だ?」
「その……自分でいいのか、とか…」
息子ながら失礼な質問だろうかと、言葉が尻すぼみになる。
目を逸らした僕を見て、父は少し笑った。
「もちろん思ったさ。こんな美しい人には、俺じゃなく、もっと相応しい人がいるんじゃないかって」
「…なら、どうして」
顔を上げた僕に、父は穏やかな声で答えた。
「そんな理由で諦められないくらい、彼女を愛していたからね」
はっきりと迷いないその言葉に、一瞬息をするのを忘れる。
目をぱちくりさせる僕に、父は続けた。
「もし彼女が俺を選んでくれるなら、この世の誰より幸せにすると誓った。俺を選んでくれたことを、一瞬だって後悔させないように」
モブである僕は、セレスティンに相応しくない。
それは変えられない事実で、どうしようもないことだと思っていた。
ーーー…でも。
もしセレスティンが僕を選んでくれるなら。
僕は、彼を幸せにすることができるだろうか。
「お前も、そういう恋が出来るよ。俺の息子だからな」
僕と同じハシバミ色の瞳が、優しく笑う。
母のことを考えているのか幸せそうに笑う父の横顔を、僕は無言で眺めていた。
*************************************
王都に戻ってきたのは、エドウィン王子の誕生祝賀パーティの前日の夕方だった。
溜まっていた手紙を確認したり、学園に報告をしたりしている内に、あっという間に夜になってしまった。
移動の疲れもあった僕は、誰にも会うことのないまま眠りについた。
そして迎えたパーティ当日。
不在にしている間に届いていた、王子に仕立ててもらった服に袖を通し、ダリアを迎えに向かった。
「母上様のお加減は、本当にもうよろしいのですか?」
「ああ、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
髪と同じ深紅のドレスに包まれたダリアは、とても可愛らしい。
そう思ったまま褒めると、頬も赤く染まった。
倒れた母の看病のため、僕が急遽領地に戻ったという話は、学園内でも噂になっていたらしい。
幼馴染であるダリアは僕の母のこともよく知っていて、体調を心配して何度も手紙を書いてくれていた。
「母もダリアからの手紙をとても喜んでいたよ。気にかけてくれてありがとう」
「私にとって、もう一人のお母様のような方ですもの。お元気になられて、本当に良かったです」
そう微笑んだダリアに、僕は曖昧な笑みを返した。
『もう一人の母』というのは、ただ単に小さいころから可愛がってもらったという意味なのかもしれないけれど。
このまま僕と結婚すれば、ダリアにとっては義理の母になる。
いつもなら何も考えず、ありがとうと言えていただろうその言葉が、なぜか喉の奥に詰まったように出てこなかった。
返事のない僕を少し見つめていたダリアは、しばらくすると空気を変えるように明るい声を出した。
「ジョエル様とこうしてパーティに行けて、とても嬉しいです。小さいころからの夢が叶いました」
「…ダリアが喜んでくれるなら、僕も嬉しいよ」
普段なら頭を撫でていたけれど、パーティ用にセットしたその髪を崩してしまいそうで、僕はその頬を指の背でそっと撫でた。
擽ったそうに目を細めたダリアは、なぜだか少し寂しそうに見えた。
「本当に…大好きです。ジョエル様」
「……ありがとう、ダリア」
お礼を言った僕に、ダリアは眉を下げて微笑んだ。
彼女が望む返答がこれではないことを知りながら、僕はどうしてもその言葉を口にすることが出来なかった。
馬車が王宮に着き、ダリアをエスコートしながらパーティの会場に入った。
豪華なシャンデリアが輝く大きなホールには、既に大勢の人が集まっている。
さすが王太子であるエドウィンの成人祝賀会というところか、国の名だたる貴族から外国の王族までが招待されているようだった。
何人か知り合いに挨拶をしながら奥へと進むと、僕に気が付いたエドウィン王子が手を挙げた。
「ジョエル!来ていたのか!」
「殿下」
話していた相手に断ってから、エドウィンがこちらに歩いてきた。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「堅苦しいのはよしてくれ、いつも通りでかまわない。それよりお母上は大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまで回復いたしました。ご心配ありがとうございます」
「それは良かった。今日のパーティに参加してくれて、嬉しいよ」
少しよそいきの王子スマイルを浮かべるエドウィンの後ろから、濃い緑色のドレスに身を包んだエリザベスがやってきた。
そのままエドウィンの横に立つと、自然とその腕に手を添える。
「ごきげんよう、アンダーソン様」
「…ご無沙汰しております、ガーライル様」
少し驚いた様子の僕に、エリザベスは小さく笑う。
そして横に立つエドウィンを見上げると、穏やかな顔で微笑んだ。
「婚約者である私が、エドウィン殿下のパートナーを務めているのがそんなに驚きかしら?」
「あ…いえ。決してそのようなことは」
思った以上に、感情が顔に出ていたらしい。
ノアの服を張り切って仕立てていたから、てっきりエドウィンはノアをパートナーに選ぶのかと思っていた。
確かに婚約者はエリザベスであるが、将来の側近として今日ノアを公に紹介するのなら、彼をパートナーに据えてもそこまで違和感は持たれないだろうし。
しどろもどろになる僕を見て、エリザベスはいたずらっ子のような笑顔を浮かべた。
「ごめんなさい。少し意地悪な言い方でしたわね」
それはすっかり憑き物が落ちたかのような清々しい笑顔だった。
以前ノアを虐めていた時の彼女からは、想像もつかないような穏やかさを感じる。
…エドウィンにパートナーとして選ばれた自信が、エリザベスを変えたのだろうか。
最近のノアと殿下の仲の良さを見る限り、2人が恋人になるのは時間の問題かと思っていたが……もしかしてエドウィンは、結局エリザベスを選ぶのだろうか。
そういえば、ノアはどこにいるんだろう?
エドウィンがパートナーを務めないなら、一体誰と?
そう思って少し周囲を見渡すと、僕の背後に視線を向けたエドウィンが明るい声を出した。
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