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推しを泣かせてしまいました
しおりを挟む「ノアは何を着ても愛らしいな。ついでだから何着か仕立てよう」
「えっ…そんな、僕は大丈夫ですから…!」
「可愛いお前を飾りたい俺のわがままを叶えてくれ。いいだろう?」
「……っ…エ、エドウィン様はずるいです…」
真っ赤になった愛らしいノアの頬を、エドウィンが満足気に撫でる。
テーラーたちは何も聞こえていないかのような素知らぬ顔で、テキパキと手を動かしていた。
「セレスティンとジョエルも、気に入ったものがあれば何着か作ってくれていいぞ」
思い出したように僕とセレスティンの方へ振り返ったエドウィンに、僕は苦笑いを返した。
「俺の側近としてお披露目するんだから、下手な恰好は許さない」というエドウィンの計らいで、僕らは王宮に呼ばれパーティ用の服を仕立ててもらっている。
僕とセレスティンは、おそらくノアの分を仕立てるついでのようなものだろう。
それでもやはり王族御用達の服は素晴らしく、鏡に映った自分はいつもより輝いてみえるようだった。
体型にピッタリとあったデザインはより足が長く見えるし、淡いグリーンの生地はハシバミ色の僕の瞳を引き立てる。
この地味な顔立ちすら、むしろ上品に見えてくるから不思議だ。
「……綺麗だ」
ぼそりと、呟くように落とされた声に顔を向けると、セレスティンがうっすらと頬を染めて僕を見つめていた。
彼が着ている深い紺色のジャケットには、所々に銀色の装飾が入れられている。まるで夜明けの空に零れ落ちた輝く星のようで、とても美しい。
服の上からでもわかる鍛え上げられた厚い胸板や広い肩幅が、男らしくてとてもセクシーだ。
「綺麗なのは君だろう」
「……っ!」
素直な感想を口にすると、セレスティンの顔がぼっと赤くなった。
「っ…なんで…いつも、こう…!?」
当たり前のことを言っただけなのに、セレスティンは動揺した様子で顔を手で覆い、何かをブツブツと呟いている。
「あいつ、いつも返り討ちに合ってるな」
ノアに夢中だったはずの王子はなぜかこちらを向いていて、堪えきれないとでもいうように腹を抱えてクツクツと笑っていた。
**********************************************
「…今度のパーティ、俺のパートナーになってくれないか」
執務室から寮へ向かう帰り道、いつもに比べて静かだったセレスティンがそう切り出した。
その目元はうっすら赤く染まっていて、勇気を出して誘ってくれたことがわかる。
あの庭園での告白の後、毎日のように好意を示されるようにはなったけれど、改めてこういうのはやはり緊張するらしい。
普段の一方通行で返事を求めない愛情表現に比べて、僕の返事を求める行為だからだろうか。
「……ごめん、セレスティン。もうダリアと約束をしてしまっているんだ」
彼が勇気を出してくれたことがわかるからこそ、断るのがとても心苦しい。
僕の返事に目を伏せたセレスティンは、数秒の沈黙の後「そうか」と小さく答えた。
「私がレディーとして扱われる年齢になったら、必ず私をパートナーに選んでくださいね!約束ですからね!」という小さなころからの先約を叶える形で、パーティへの参加が決まってすぐ、僕は彼女を誘っていた。
ダリアはとても喜んで、ドレスを新調しようかなどと頬を染めながら目を輝かせていた。
その様子を見ていたときは、僕まで嬉しくなったのだけど。
こうして気が沈んだセレスティンを見ると、胸が痛む。
「ダリアとの小さいころからの約束で、パーティは必ず彼女と一緒に行くことになっているんだ。ごめん」
「……これからも、ってことか?」
一度は納得した様子だったセレスティンが、ぴくりとその眉を顰めた。
「そうなると思うけどー…」
「だめだ」
それ以上言わせないとばかりに声を重ねると、セレスティンが僕の手をぎゅっと掴んだ。
「今回は……譲るが。でも、次は俺と行ってくれ。その次も」
「セレスティン…」
あまりの勢いに驚く僕を、深い青の瞳がまっすぐに見つめている。
パーティのパートナーというのは、基本的に親しい間柄であることを意味する。
夫婦や兄弟、婚約者。そうでない場合ももちろんあるが、それに準ずる親しい間柄であると、周囲には捉えられる。
セレスティンと僕は共に王子の側近だから、1度くらいパートナーを務めても不自然には思われないだろう。…でも「その次も」というのは意味が違ってくる。
何度もパートナーを務めれば、僕とセレスティンが特別な関係だと思われるだろう。
「……次は一緒にいこうか。でも、一度だけだよ」
少し笑顔を作って、宥めるように彼の頭を優しく撫でた。
「……どうして」
「わかるだろう。何度もパートナーを務めることの意味くらい」
「それはわかってる。ジョエルとそういう風になりたいから言ってるんだ」
「……セレスティン」
僕に頭を撫でられたまま、セレスティンは苦しそうに眉を顰めて俯いた。
彼にこんな顔をさせてしまうことが苦しい。
求められるまま、その望みを叶えてあげられたらどんなにいいだろう。
喉の手前までせりあがったそんな考えを、理性が必死で抑えこんだ。
「……きっといつか、僕なんかよりもずっと素敵な、君に相応しい人が現れる」
「は……?」
その言葉に、俯いていたセレスティンが顔を上げた。
大きく見開いた蒼い瞳が、みるみる激情に染まっていくのがわかった。
「ジョエルよりも、素敵な……?」
片方の口端を上げ、鼻から乾いた笑いを吐き出したセレスティンの顔はこわばっていた。
「そんなやつ、いるわけないだろう。未来永劫、絶対に、そんなやつ現れない」
「…セレスティン。そう言ってくれるのは嬉しいけど、君もいつか目が覚めー…」
「俺は!!」
僕の言葉を遮るように、きつく抱きしめられた。
息を吸うことさえ出来ないような力で僕を抱きしめながらも、セレスティンの体は小さく震えていた。
「……俺は、そんな軽い気持ちでジョエルを愛してるんじゃない。来年も、再来年も、どんなに歳をとったって、きっとこの気持ちは変わらない」
反論は許さないとばかりに僕を抱きしめるセレスティンに、なんて声をかければいいのかわからない。
そんな風に思ってもらえてもちろん嬉しい。
このまま彼の背中に腕を回せたらどんなに幸せだろう。
それでも、僕がセレスティンと結ばれるだなんて…どう考えても釣り合わない。
お互い嫡男同士で、家の問題だってある。僕がセレスティンに相応しくないのは悲しいけれど明らかだ。
「……僕は、セレスティンに相応しくないよ」
擦れるような声で小さく零した言葉は、それでもしっかり聞こえたらしい。
ぴくりと体を震わせて腕を解いたセレスティンの瞳には、涙が溜まっていた。
くしゃりと顔を歪ませて、僕を睨みつける。
「俺に誰が相応しいかは、俺が決める。…ジョエル以外、俺はいらない」
激情に押し出されたようなその声は、熱く震えていた。
零れ落ちる涙を隠すように俯くと、そのまま僕に背を向けて行ってしまった。
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