モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織

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引き続き、推しに口説かれています

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「おはよう」

「お…おはよう?」



次の日の朝。

自室のドアを開けると、壁に寄りかかるようにしてセレスティンが立っていた。



「どうしたの?」



こんなに朝早くから、何か用事だろうか。

ノックでもして、起こしてくれればよかったのに。



「特に用事はない。教室まで一緒に行こうと思って」

「え…?」

「昨日言っただろう、もう我慢はしないと。…これからは四六時中、口説きにかかるからな」



流石に少し恥ずかしかったのか、そう言うとセレスティンはふいっと目を逸らした。

その様子があまりに可愛くて、つい笑みが零れる。



「ふふ、わかったよ。でも僕はもう充分、セレスティンのことが大好きだけどね」

「だっ…!?そ、そういうのじゃない!俺が言ってるのはー…!」

「大丈夫、ちゃんとわかってるよ」



真っ赤になっているセレスティンにくすくす笑うと、彼は少し拗ねたように眉を顰めた。

甘くくすぐったいやり取りに、胸がいっぱいになる。





昨日のセレスティンのまっすぐな言葉で、僕の心境も少し変わってきていた。



モブである僕がセレスティンと結ばれるなんて、やっぱりあり得ないことのように思えるけれど。

でも少なくとも今、彼が僕を好きだと思ってくれているのは確かだ。

いつか魔法が解けるように消えてしまう気持ちかもしれないけれどー…その時が来るまでは彼の好きにさせてあげればいい。



前世からの推しに好きだと思ってもらえるなんて、たとえ刹那であっても得難い幸せだ。

彼の将来に影響を及ぼさない一線を守りつつ、今はその幸福を享受していればいい。

そんな風に、考えられるようになっていた。





**********************************



「パーティ、ですか?」

「ああ。ちょうど俺が成人になる歳だから、盛大にやるんだ」



エドウィン王子の17歳の誕生日は来月で、王宮で祝賀パーティが開かれるという。

いつも通り王子の執務室で書類に追われていると、ふと思い出したかのようなエドウィンに豪華な招待状を渡されたのだ。



「セレスティンやノアも、将来俺を支えてくれる人材としてお披露目することになっている。ジョエル、もちろんお前もな」

「……本気で今後も、僕を側に置くおつもりなんですか」

「当たり前だ、お前は使える。手放すには惜しい」



僕の嫌そうな顔を見て、むしろ楽しそうに笑ったエドウィン王子に、小さく諦めの溜息を吐いた。



「俺に目をかけられたくて必死な人間が山ほどいるというのに。お前は贅沢な男だな」

「…僕はただ、静かに穏やかな生活を送りたいのですよ」



王子の側近ともなれば、国の役職を担わなければならなくなるだろう。

ただの伯爵であるより富も権力も手にできるだろうが……領主をしながら大臣を務めるのがどんなに忙しいか、想像するだけでも眩暈がする。



「たとえ俺が見逃したところで、お前はセレスティンに捕まるだろうに。穏やかな領地生活は諦めるんだな」



ニヤニヤと楽しそうなエドウィン王子に、眉を顰める。

人前だろうと執務室だろうと僕に愛を囁くようになってしまったセレスティンのせいで、僕らの関係は公然のものとして扱われるようになってきていた。

ちらりとセレスティンが座る方へ目線をやると、彼もこちらを見ていた。



「年に何度か休暇をとって、ゆっくり領地で過ごしたっていい。王都でだって、ジョエルが穏やかに暮らせるよう何だって用意する」

「いや、そういう話じゃなくてねセレスティン…」



真面目に答えるセレスティンを嗜めると、王子が肩を震わせて笑っていた。

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