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ゲームが動きだしました
しおりを挟むあれからどうやってセレスティンの部屋を出たのか、よく覚えていない。
気が付いたら寮の自室にいて、午後の授業は始まってしまっていた。
授業をサボったのなんて、入学して初めてのことだったけど。そんなことが気にならないくらい、僕の頭の中はセレスティンのことでいっぱいだった。
「はぁ……」
ーーーセレスティンが、僕のことを愛してる…?
有り得ないと思ってた。
攻略対象であるセレスティンが、モブである僕のことをそんな風に思うだなんて。
必死に否定しながらも、心から湧き上がってくるのは恐ろしいほどの歓喜だった。
僕の愛を請う唇が、あの湿った感触が、今も心をビリビリと痺れさせる。
僕の前世からの推しであり、強くかっこよく、誰よりも素敵なセレスティン。
そんな彼に愛していると言われて、嬉しくならない方が難しい。
ーーー…でも、自惚れてはいけない。
セレスティンが僕のことを好きだとしても、それは気の迷いとか、一過性のものに過ぎないのだから。
ノアともまだ出会ったばかりだし、これからストーリーが始まって本当の恋をするのかもしれない。
彼のルートにライバルはいなかったけれど、ノアと結ばれないとしても、公爵家の跡取りに相応しい相手と結婚するだろう。
さっきは勢いで「弟がいるから後を継がなくてもいい」だなんて言っていたけれど、そんなの許されるはずがない。
何より幼いころから将軍になるため必死に努力をしてきた彼自身が、そんなこと許さないだろう。
だからさっきのことは忘れて、今まで通りに接しよう。
きっとセレスティンも今頃血迷ったと後悔しているかもしれないし。
そんな風に考えて必死に心を落ち着かせると、僕はゆっくりお茶を飲んでから教室へと戻った。
***********************************************
あれから2週間が経った。
予想通りというかなんというか、セレスティンとは何事もなかったかのように元通りだ。
次の日こそ気まずそうにしていた彼も、僕がいつも通りに話しかけると、安心したのか普段の態度に戻った。
そして変化があったのは僕とセレスティンではなく、まさかのエドウィン王子とノアの方だった。
「こらノア、またここが間違ってるぞ」
「あ…!す、すみません、すぐに直します!」
「まったく。次に同じ間違いをしたら、お仕置きするからな?」
「お、お仕置き…!?」
少し怯えながらも頬を染めたノアに、エドウィン王子が満足気に微笑む。
「…なんだ、お仕置きされたいのか?」
「ち、違いますよ!」
慌てるノアを、くすくすと笑いながら撫でるエドウィン王子は本当に楽しそうで。
同じ執務室の中でそんな甘い会話を聞かされている僕とセレスティンは、聞こえないふりをしながら書類に目線を落とした。
僕がセレスティンに引っ張って行かれたあの日。
カフェテリアに残されたノアと王子は、そのまま2人で食事をしたらしい。
そこでゲーム通りというか運命的にというか、ノアをすっかり気に入ってしまった王子は、それから彼をかまい倒しているのだ。
最近では執務室だけでなく、学園内でも時々2人でいるところを見かける。
ーーーノアはエドウィン王子ルートに入ったってことなのかな…?
今のところ、からかわれて照れているだけと言った感じだが、ノアも王子に嫌な顔はしていない。
好感度はお互い少しずつ上がっていると言っていいだろう。
もしこのまま2人が上手くいったら、セレスティンは誰と結ばれることになるんだろう…?
そんなことをぼんやりと考えていた僕は、自分が『王子ルートの悪役令嬢の取り巻きの婚約者』だということを、すっかり忘れていたのだった。
「ーーー…あなた、一体どういうおつもりですの?」
その道を通りかかったのは、本当に偶然だった。
普段なら生徒が近づかない、温室の裏。教師に頼まれて実験に使用する種を取りに来た僕は、聞こえてきた声に足を止めた。
「いえ、僕は…」
「浮ついた気持ちがないとでも? 図々しく殿下にくっついて回っておいて、よくそんな顔ができますわね」
温室の影から覗いてみれば、そこにいるのは想像した通りの人物だった。
戸惑った様子で俯いているのがノア。そして彼を睨みつけているのは、豊かな金髪を靡かせた令嬢だった。
名前を聞かなくても、彼女が誰なのか想像がつく。だってスチルで見たのとまったく同じ光景なのだから。
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