モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織

文字の大きさ
上 下
7 / 37

隊長の仕事をしました

しおりを挟む


夏の始まりにセレスティンが学徒軍に入隊してきて、もう2ヶ月が経った。

入隊してまだ2ヶ月であるセレスティンは、その実力ですぐに精鋭揃いのA班に配属された。

週に1度ほどある討伐では、毎回新人とは思えない活躍を見せてくれている。



今日も討伐のため森に来ていた僕らは、魔獣が出現したという報告を受けてそのポイントへと向かった。



「南西に2体、北西に3体です!」

「B班、C班は南西へ!A班は僕とともに北西に!」

「はい!」



僕はセレスティンのいるA班とともに、魔獣がいるポイントへと到着した。

大きな牙を持った蛇型の魔獣は、予想していたよりもずっと大きい個体だった。普通の隊員であれば10人ほどで共闘して、1体倒せるレベルの魔物だろう。

茂みから魔獣を観察していた僕に、背後からセレスティンが声をかけてきた。



「ジョエル隊長。1体は俺にやらせてもらえませんか」



確かに僕とセレスティンなら、1人で1体ずつ倒せそうだ。

他の隊員全員で残りの1体を相手にする方が、確実性が高いだろう。



「いいよ。ただ蛇型の魔獣だから、毒にー」

「毒に注意して接近戦はしない、ですよね。わかってます」



言おうとしていたことをそっくりそのまま言われてしまい、苦笑しながらセレスティンの頭を撫でた。



「よく勉強しているね、その通りだ」

「……はい」



褒められて嬉しかったのか、セレスティンの頬が少し赤く染まった。

最初の討伐実習ではあんなに冷たかったのに、入隊して2ヶ月が経った今ではすっかり慕ってくれていて嬉しい。



「左の個体はセレスティンが、その横の個体は僕がやろう。僕が後ろからぱっくりいかれないように、頼んだよ」

「そんなことは、俺の命に代えてもさせません」



頼もしい言葉にふふっと微笑んで、他の隊員たちに指示を出した。



最近さらに腕に磨きがかかっているセレスティンの実力はすさまじく。

戦い始めて数分もたたない内に、大きな蛇は氷の槍に貫かれたオブジェとなっていた。



「…さすが。見事だね」



森の木々を杭のように変形させて同じように蛇を貫いた僕は、セレスティンが仕留めた個体を見上げて感嘆する。

倒した魔獣を見上げながら息を整えていたセレスティンは、僕の言葉に照れくさそうに目を伏せた。



「いえ、まだジョエル隊長には及びません」

「もう僕より強いだろう。これならいつ隊長を譲っても大丈夫だね」

「そんなわけないでしょう」



むっとした様子のセレスティンが、僕を咎めるように見た。

実際すぐにでも譲りたいんだけどなーという本音は、苦笑いで隠しておいた。



「…あちらは少し苦戦してるようだね」

「俺が行きます」



少し離れたところにいる個体を相手にしていたA班は、まだ仕留め終わっていないようだった。

僕の目線に気が付いたセレスティンが、駆け足で向かっていく。

魔獣を囲い込んでいた隊員たちの後ろから飛び出すと、先ほどの個体と同じように氷の槍で突き刺した。

突然現れた氷の槍と断末魔をあげた魔獣に、戦っていた隊員たちは驚いて固まっている。



「ちょっと!ギルクラウド君!やるなら一声かけてくださいよ、びっくりするじゃないですか」



魔獣が完全に動かなくなったことを確認すると、僕の同期であるマックスが、不満気にセレスティンに詰め寄った。

彼は僕と同じ2年生なのでセレスティンの先輩にあたるのだが、公爵家の令息である彼にタメ口をきくなど恐ろしくてできないと、敬語で話している。



「背後に気を配るのは当然のことだろう。近づいてきたのが俺ではなく魔獣だったら、お前たちは死んでいる」

「うっ…それは、そうですけど……」



セレスティンにギロリと厳しい視線を向けられたマックスは、しおしおと縮こまった。



さすが公爵令息というか、セレスティンは基本敬語を使おうとしない。聞くと「実力が伴わない者を、年齢だけで敬おうとは思いません」という何とも彼らしい理由だったのだけど。

他の隊員たちも、公爵家の令息に敬語で話されるのは落ち着かないからと、そんなセレスティンをすんなりと認めている。

身分だけでなく実力でも、1年生とは思えない威厳が彼にあるからだろう。



「ジョエル~…」



悔しそうに弱った顔のマックスが、セレスティンの後ろに僕を見つけて、すがるような目を向けてきた。

自分では言えないので、何とか言ってくれということだろう。



「…セレスティン」



仕方ない。あんまり叱るようなことは言いたくないけれど、ここは隊長の僕が言うべきなのだろう。

少し咎めるような僕の声色で何かを察したのか、セレスティンの肩が小さく跳ねた。



「攻撃に集中していて気配に気がつかない場合もある。共闘の場合には声掛けが大事だと、知っているね?」

「………はい」



僕から目をそらしたセレスティンが、それでも素直に返事をした。

最初の討伐実習で助けたことがあるからか、それとも単に隊長という立場だからか、彼は僕の言うことは素直に聞いてくれる。



「でも攻撃は適切で素晴らしかったよ、お疲れさま」



叱るだけじゃなくて、良いところもちゃんと褒めないとね。

そう言って微笑むと、反省して少し落ち込んだ顔をしていたセレスティンの口元に小さな笑みが戻った。



そんな僕らの様子を眺めながらマックスが遠い目をしていることには、気が付かないふりをした。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

処理中です...