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隊長の仕事をしました
しおりを挟む夏の始まりにセレスティンが学徒軍に入隊してきて、もう2ヶ月が経った。
入隊してまだ2ヶ月であるセレスティンは、その実力ですぐに精鋭揃いのA班に配属された。
週に1度ほどある討伐では、毎回新人とは思えない活躍を見せてくれている。
今日も討伐のため森に来ていた僕らは、魔獣が出現したという報告を受けてそのポイントへと向かった。
「南西に2体、北西に3体です!」
「B班、C班は南西へ!A班は僕とともに北西に!」
「はい!」
僕はセレスティンのいるA班とともに、魔獣がいるポイントへと到着した。
大きな牙を持った蛇型の魔獣は、予想していたよりもずっと大きい個体だった。普通の隊員であれば10人ほどで共闘して、1体倒せるレベルの魔物だろう。
茂みから魔獣を観察していた僕に、背後からセレスティンが声をかけてきた。
「ジョエル隊長。1体は俺にやらせてもらえませんか」
確かに僕とセレスティンなら、1人で1体ずつ倒せそうだ。
他の隊員全員で残りの1体を相手にする方が、確実性が高いだろう。
「いいよ。ただ蛇型の魔獣だから、毒にー」
「毒に注意して接近戦はしない、ですよね。わかってます」
言おうとしていたことをそっくりそのまま言われてしまい、苦笑しながらセレスティンの頭を撫でた。
「よく勉強しているね、その通りだ」
「……はい」
褒められて嬉しかったのか、セレスティンの頬が少し赤く染まった。
最初の討伐実習ではあんなに冷たかったのに、入隊して2ヶ月が経った今ではすっかり慕ってくれていて嬉しい。
「左の個体はセレスティンが、その横の個体は僕がやろう。僕が後ろからぱっくりいかれないように、頼んだよ」
「そんなことは、俺の命に代えてもさせません」
頼もしい言葉にふふっと微笑んで、他の隊員たちに指示を出した。
最近さらに腕に磨きがかかっているセレスティンの実力はすさまじく。
戦い始めて数分もたたない内に、大きな蛇は氷の槍に貫かれたオブジェとなっていた。
「…さすが。見事だね」
森の木々を杭のように変形させて同じように蛇を貫いた僕は、セレスティンが仕留めた個体を見上げて感嘆する。
倒した魔獣を見上げながら息を整えていたセレスティンは、僕の言葉に照れくさそうに目を伏せた。
「いえ、まだジョエル隊長には及びません」
「もう僕より強いだろう。これならいつ隊長を譲っても大丈夫だね」
「そんなわけないでしょう」
むっとした様子のセレスティンが、僕を咎めるように見た。
実際すぐにでも譲りたいんだけどなーという本音は、苦笑いで隠しておいた。
「…あちらは少し苦戦してるようだね」
「俺が行きます」
少し離れたところにいる個体を相手にしていたA班は、まだ仕留め終わっていないようだった。
僕の目線に気が付いたセレスティンが、駆け足で向かっていく。
魔獣を囲い込んでいた隊員たちの後ろから飛び出すと、先ほどの個体と同じように氷の槍で突き刺した。
突然現れた氷の槍と断末魔をあげた魔獣に、戦っていた隊員たちは驚いて固まっている。
「ちょっと!ギルクラウド君!やるなら一声かけてくださいよ、びっくりするじゃないですか」
魔獣が完全に動かなくなったことを確認すると、僕の同期であるマックスが、不満気にセレスティンに詰め寄った。
彼は僕と同じ2年生なのでセレスティンの先輩にあたるのだが、公爵家の令息である彼にタメ口をきくなど恐ろしくてできないと、敬語で話している。
「背後に気を配るのは当然のことだろう。近づいてきたのが俺ではなく魔獣だったら、お前たちは死んでいる」
「うっ…それは、そうですけど……」
セレスティンにギロリと厳しい視線を向けられたマックスは、しおしおと縮こまった。
さすが公爵令息というか、セレスティンは基本敬語を使おうとしない。聞くと「実力が伴わない者を、年齢だけで敬おうとは思いません」という何とも彼らしい理由だったのだけど。
他の隊員たちも、公爵家の令息に敬語で話されるのは落ち着かないからと、そんなセレスティンをすんなりと認めている。
身分だけでなく実力でも、1年生とは思えない威厳が彼にあるからだろう。
「ジョエル~…」
悔しそうに弱った顔のマックスが、セレスティンの後ろに僕を見つけて、すがるような目を向けてきた。
自分では言えないので、何とか言ってくれということだろう。
「…セレスティン」
仕方ない。あんまり叱るようなことは言いたくないけれど、ここは隊長の僕が言うべきなのだろう。
少し咎めるような僕の声色で何かを察したのか、セレスティンの肩が小さく跳ねた。
「攻撃に集中していて気配に気がつかない場合もある。共闘の場合には声掛けが大事だと、知っているね?」
「………はい」
僕から目をそらしたセレスティンが、それでも素直に返事をした。
最初の討伐実習で助けたことがあるからか、それとも単に隊長という立場だからか、彼は僕の言うことは素直に聞いてくれる。
「でも攻撃は適切で素晴らしかったよ、お疲れさま」
叱るだけじゃなくて、良いところもちゃんと褒めないとね。
そう言って微笑むと、反省して少し落ち込んだ顔をしていたセレスティンの口元に小さな笑みが戻った。
そんな僕らの様子を眺めながらマックスが遠い目をしていることには、気が付かないふりをした。
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