モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織

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推しをおんぶしました

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「……ふぅ…」



魔獣が銅像のように動かなくなったことを確認して、ようやく息をついた。

あーーー焦った…。

攻略対象のセレスティンがいるから無敵かと思って、ちょっと油断してたかもしれない。



…って、あ!そうだ、セレスティンは!?



ばっと振り向くと、セレスティンはシールドを張ったまま、茫然とこちらを見ていた。

意識もはっきりしているようだし、とりあえずは無事でほっとする。



「大丈夫!?ギルクラウド君!怪我は?」

「……あばらを、何本か」



駆け足で歩み寄ると、彼は胸のあたりを押さえていた。

やっぱり折れちゃってるか。あれだけの攻撃を食らえばそうだろう。



「動けるかい?僕が治癒魔法を使えればよかったんだけど…」

「…大丈夫です。少しなら、自分で治せます」



使えちゃうんかい!

さすが攻略対象。有能にもほどがある。

治癒魔法は難しい魔法で、僕は相性が悪いのか小さな傷を治す程度しか使えないのだ。



「そうか、よかった。動けるようになったら、出来るだけ早く移動しよう。また魔獣がでたら危ないからね」

「はい…」



負傷したセレスティンを庇いながらの戦闘は、さすがに不安がある。

一刻も早く上級魔獣がでる地域から脱出しなければ。



治癒魔法を自分でかけたセレスティンは、よろよろと立ち上がる。

痛みを少しとった程度で、骨をくっつけるほどの魔法ではないのかもしれない。

これは歩くのは辛そうだな。



「ー…よし、乗って」

「は…?」



彼の前でおんぶのポーズをとった僕に、彼が目を丸くした。

1つ下とは言えど僕と同じほどの身長で、僕より筋肉がついたセレスティンはかなり重そうだけど。軽量の魔法を少しかければ、歩くのに問題はないだろう。



「折れているなら、あまり動かさない方がいい。とはいえ早く移動しないといけないから。さあ」

「い…いえ、そんな。先輩にこれ以上ご迷惑をおかけするわけには…!」



あれ。なんだかセレスティンが急にしおらしくなってる。

自信満々で上級魔獣を倒しに来たのにあんなことになったから、恥ずかしいのかな。



耳を少し赤くしているセレスティンも良い。

硬派な男が照れるの、良い。とにかく良い。



「何言ってるの。君が怪我をしたのは、後輩を守り切れなかった僕の責任だよ。だからほら、早く乗って」

「ですが…っ!」

「もたもたしてると次の魔獣が来るよ。早く」

「…っ…!」



セレスティンの顔は、ついに真っ赤になった。

それでも安全のためと言われれば従うしかないと思ったのか、おずおずとセレスティンが僕の背中に覆いかぶさる。

背中から伝わる熱い体温と、首筋に触れる柔らかい黒髪に、思わず心臓がバクバクと音を立てた。



これは救護!!救護だから!!

推しに興奮しちゃだめだぞ僕!!!



湧き出てくる煩悩を次々に倒しながら、スタスタと足を進める。

必死に平静を装おうとする僕の耳元で、セレスティンの小さな声が聞こえてきた。



「…すみませんでした」

「え?」



気のせいかと思うほど小さな声に、思わず聞き返す。



「俺のせいで、アンダーソン先輩まで危険に巻き込みました。上級はまだ早いと、忠告を受けていたのに…」



顔は見えないけれど、肩を掴むその手に少し力がこもったように感じた。

真面目で責任感の強い彼だ。きっと自分を責めているに違いなかった。



「…上級に進むことを、最終的に許したのは僕だ。僕の判断が甘かった。ごめんね」

「そんな、先輩は何もー…!」

「後輩を導きながら護るのが今日の僕の役目だった。僕の力不足さ」



それ以上セレスティンが自分を責める言葉を紡がないよう、少し声のトーンを落としてそう言い切った。

実際にこれは上級生である僕の過失だ。

上級に進むことを許可したのなら、上級魔獣を倒してセレスティンを守る義務があったのに。



「………」



口を噤んでしまったセレスティンが、ぎゅっと僕の肩を掴む手に力を込めた。

僕のせいだと言ったところで、彼は自分のことも責めているだろう。



「……新入生とは思えない素晴らしい魔法だったよ。学徒軍でもすぐに活躍できるだろうね。あとは場数を積んで魔獣に対する知識が増えれば、ギルクラウド君が勝てない魔獣はいなくなるだろう」



実際ゲーム内では最強の武闘派として描かれていたわけだし。

今日は違ったとしても、セレスティンが活躍する日はそう遠くない未来に必ず来る。



「……名前…」

「え?」

「…名前…。さっきはセレスティンって…呼んでました」

「あ」



そうだった。魔獣から彼を守る時、咄嗟に”セレスティン”って名前で呼んでしまったんだった。



「ごめんね。緊急事態で焦ってて、つい」

「……別にかまわないです。……アンダーソン先輩に、なら…」



え?ええ??

なにこれ。もしかして名前で呼んでも良いってこと……?

僕の都合の良い幻聴なんじゃないだろうか。



「…セレスティンって呼んでもいいの?」

「………はい」



恥ずかしそうに、でもちゃんとはっきりと耳元で彼が頷いたのがわかった。

うわーーー嬉しい!!

ゲーム内でもセレスティンの名前を呼び捨てできるのは、王子やノアなど親しい間柄の人間だけだったのに!



「うれしいな、ありがとう。僕のことも、ジョエルって呼んでほしいな」

「……ジョッ…っはい…」



名前を呼ぶくらいで、照れるセレスティンがめちゃくちゃに可愛い。

おんぶしていて顔が見えないのは幸いだったかもしれない。だって絶対に僕、今情けないほどニヤついた顔をしていると思う。



「また実習で一緒になったときにはよろしくね、セレスティン」

「はい、……ジョエル」



推しの学園の先輩という立場を手に入れられそうで、にまにまと顔が緩む。

幸せな気持ちで胸がいっぱいのまま、推しとの魔物討伐実習は終わった。

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