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推しを守りました
しおりを挟むセレスティンは強い。それは知っていたつもりだったけれど。
実際に目の前にするとびっくりするくらい、彼は強かった。
「すごいね。こんな魔法初めて見たよ」
2メートルはあるだろう熊に似た魔獣に突き刺さった大きな氷の柱。
セレスティンがまるで野球のボールでも投げるみたいに振りかぶったかと思うと、次の瞬間には魔獣に氷の棘が突き刺さっていたのだ。
氷の魔法は僕も使ったことがあるけれど、こんなに大きな塊を短時間で作り出すことは出来ない。
さすが攻略対象。
生まれ持った魔力が違うということなのかもしれない。
「この程度なら、領地でも何度か討伐したことがありますから」
涼しい顔でそう答えるセレスティン。15歳にして魔獣討伐の経験もあるのか。
僕を含む大抵の生徒は、この学園に入学して初めて魔獣討伐をするというのに。将軍の家系って大変なんだなあ。
「その実力なら、もう少し奥に進んでも大丈夫そうだね。中級まで進んでみようか」
「いえ、上級でも大丈夫です」
「…でも今日は初日だから。中級で様子を見てからの方が安心だと思うよ」
森は奥へと進むほど体も大きく狂暴な魔獣が出現する。
今日は初級と呼ばれる森を少し入ったところで実習する予定となっていたが、セレスティンの実力からしてもう少し奥へ進んでも大丈夫かと思ったのだ。
それでも、急に上級まで進むのはさすがに危険だろう。上級ほど奥へ進むと、どんな魔獣が出てくるか予想できない部分も増える。
「大丈夫です。上級レベルまで進まねば、先輩に教えてもらうまでもなく俺が倒してしまえますから」
「でも…」
「いざとなれば防御魔法も使えます。ご心配なく」
僕の躊躇いを無視して、セレスティンはずんずん森の奥へと進んでいく。
確かセレスティンが1年生にして学徒軍の隊長を務めることになったのは、最初の討伐実習で実績を残したことがきっかけだった気がする。
となるとこれはストーリー通りということになるんだろうか…?
少しの不安は残りつつも、攻略対象である彼が怪我をしたり死ぬことはないだろうと思い、僕はその後をついていくことにした。
途中に出会った中級クラスの魔獣もさらっと倒してしまったセレスティンは、ついに上級と呼ばれる森の奥深くへと足を踏み入れた。
「……気を付けて、ギルクラウド君」
「わかっています」
ひやりとした空気に神経を尖らせる僕に、セレスティンは冷たく返す。
まったく塩対応なんだから、なんて思った次の瞬間だった。
「危ない!!」
「っーー…」
ボゴン!!と、さっきまでセレスティンが立っていた地面に大きな穴が開いていた。
間一髪のところで彼を引き寄せた僕は、浅く息を吐きだす。
「防御を!」
茫然としたままのセレスティンに声をかけると、彼ははっとした様子でシールドを張った。
魔法のシールドは全てを防御できるわけではないけれど、受けるダメージを軽減することはできる。張っておけば致命傷を負うことはないだろう。
ザリっと、獣の爪が大地を踏みしめる音がする。
目の前に現れたのは、獅子のような体躯に龍のような長い尻尾を持った魔獣だった。
先ほど地面をえぐったのは、この尻尾をムチのようにしならせた攻撃だろう。
体はそこまで大きくないものの、恐ろしく動きが速い。そして一撃でも食らえば命に関わるほど攻撃力が高そうだ。
上級の中でも、かなり上の魔物だろう。学生が相手にするようなレベルではないことは確かだった。
「俺がやります」
後ろから聞こえてきたその声に、目を見開いた次の瞬間。
振り返るとセレスティンが氷の棘を魔物に投げつけるところだった。
「ーー・・・っセレスティン!!」
だめだ。いくら彼の魔力が強いといっても、氷の魔法は形成までに多少の時間がかかる。
そして氷の魔法を使用する間、シールドの魔法は弱まってしまう。
その隙に、素早いこの魔物に攻撃でもされたらー…!
嫌な予感は的中する。
セレスティンが氷の刃を発現させた瞬間には、魔物の尾が彼を腹から吹き飛ばすところだった。
「ぐぅっ…!!」
すんでのところで魔獣とセレスティンの間にシールドを入れ込む。
しかし完全に間に合うことは出来ず、尻尾の衝撃で僕も吹き飛ばされることになった。
「げほっ…!」
「ぐっ……だ、大丈夫っ…!?」
木に打ち付けられた背中が痛い。痛いけど、立ち上がれる程度だ。
シールドが入ったから直撃ではないにしろ、セレスティンの方はあばら骨が折れるくらいしているかもしれない。
彼は苦しそうにせき込むと、腹部を押さえて膝をついた。
「ぐっ…ぅ…!」
「シールドは張れるね?防御に集中して、そこを動かないで!」
おそらくもうセレスティンに戦闘は難しいだろう。
彼が僕の言葉通りにシールドを張ったことを横目で確認すると、魔獣の意識を僕に向けるために走りだした。
氷や炎や雷は、そこにないものを生み出す分、魔法が出来上がるまでに時間がかかる。セレスティンのように魔力が多くない僕なら余計にだ。
素早い攻撃をしたいのなら、今ここにあるものを使うしかない。
集中して、浅く息を吸い込む。吐き出した息に魔力をまとわせるこの方法が、僕が最も得意とする魔法だ。
フッと小さく息を吐きだすと、魔獣の足に土がまとわりついた。
「グルッ…!?」
足元の異変に気が付き走り出そうとする魔獣を追いかけるように、土を魔獣の足にまとわりつかせる。
そして同時に、土に硬化の魔法をかけた。
「グガアアア!!!」
魔獣は四肢の全てが土で覆われ、あっという間に身動きがとれなくなった。動きを封じてしまえば、そこまで恐ろしい魔獣ではない。
首を切り落としてもいいが、せっかくだからこのまま固めてしまおう。
土を鋼鉄のように固くしながら、息ができないよう顔まで全てを塗り固めた。
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