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推しに出逢いました
しおりを挟む一言でいって、大好きなゲームの舞台で魔法を学べる環境は最高だった。
楽しすぎて夢中になって勉強に打ち込んでいたら、入学からあっという間に1年が過ぎた。
「在校生代表、ジョエル・アンダーソン君」
そして僕は今、なぜか主人公たちの入学式で、在校生代表として挨拶をしている。
別に急に抜擢されたわけでもなく、単純に2年生で僕が一番成績が良かったから選ばれただけなのだけど。
前世チートというか、入学前の勉強の賜物というか、僕の魔法のレベルは完全に新入生のそれを超えてしまっていたらしい。
魔法の実習授業が始まってすぐ、自分がレベルを上げすぎてしまったことに気が付いた。僕が魔法を披露したときの、同級生のポカンとした顔を今でも覚えている。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。歴史あるカールロイン魔法学園で共に学びあえることを光栄にー……」
よくある祝辞を述べながら、檀上から新入生たちの顔を眺めていた。
ゲームの設定通りなら、新入生として主人公と攻略対象2名が入学してくるはずだった。
並んだ色とりどりの頭をざーっと見下ろしながら、見覚えのあるその色を見つける。
桃色のふわふわとした髪に、水色の瞳。女の子のようにも見える、甘やかで可愛らしい顔立ち。
ーーー…間違いない、主人公のノアだ。
少し上目遣いで檀上の僕を見つめるその瞳はスチルで見たそのまま。男とは思えないほど可愛らしい。
さすが主人公。桃色の髪はこの世界でも珍しいからすぐにわかる。
そして、そのすぐ近く。新入生の列の一番前。
金色に輝く髪と瞳。男らしくも美しい、気品を感じさせるイケメン。あれは間違いなく第一王子のエドウィンだろう。
実物を見ると驚くほどの美少年だ。あれで15歳なのだから、成長した将来が恐ろしい。
そんな美しい王子よりも僕の心臓を高鳴らせたのは、その隣にいた少年だった。
艶やかな黒髪に深い青の瞳。明るい色彩の人が多いこの世界で、その深い色合いはむしろ際立っていた。
ドクン、と心臓が音を立てる。
だって、前世では彼のルートを何周もするほど大好きだったのだから。
ーーーセレスティン・ギルクラウド
代々この国の将軍を担う、ギルクラウド公爵家の嫡男。
15歳には見えない大きな体躯に、冷たさを感じる精悍な顔立ち。
あああ…!!本当にセレスティンがいる…!!
興奮で上ずりそうな声を必死で抑えて祝辞を読み終えた僕は、最後の仕事を果たすため小さく深呼吸をした。
「皆さんの学園生活が、彩あるものとなりますように」
すうーっと、吸い込んだ息に魔力をまとわせる。
吐き出された息が風を巻き込んで舞い上がり、青い小さな花びらが新入生の上に降り始めた。思わぬ魔法に会場から「わぁっ…!」という歓声が上がる。
在校生代表が新入生に魔法で花を贈るのは本学園の伝統だ。その方法は人によって任されているので、大きな花束を咲かせてみせる者もいれば、光の魔法で花の形をかたどる者もいる。
僕はダリアを喜ばせようと小さなころから花の魔法を研究していたこともあり、この類の魔法が得意なのだ。
どうせなら全員が楽しめるものがいいと、全員に花が届くような今回の魔法にした。
新入生たちの嬉しそうな顔を見てほっとした僕は、役目を終えて檀上から降りる。大きな拍手をもらえたから、成功と考えていいだろう。
地味顔のモブだけど、セレスティンの記憶に少しでも残っていたらいいなあ、なんて考えながら。
花の色を青にしたのは彼のイメージカラーだったからだけど、このくらいは許されるだろう。僕から推しキャラへの入学祝いということで。
主人公のノアがどのルートに進むかはわからないけれど、どのルートに進んだとしてもセレスティンの幸せを遠くから祈っていよう。
モブで学年も違う僕が彼と関わることはないだろうけど、遠目から眺めるくらいなら出来るだろう。
そんなことを考えていた僕の考えは、入学式から1か月後の魔獣討伐実習で覆されることになるのだった。
*****************************************
「アンダーソン先輩、よろしくお願いします」
「あ、ああ。こちらこそよろしく」
僕に礼儀正しく頭を下げるのは、艶やかな黒髪の我が推しセレスティン。
魔獣の討伐実習のため学園から離れた森に来ていた僕は、後輩である彼とペアを組むことになった。
元々2年生と1年生がペアになり、先輩が後輩を教える形で行う実習ではある。
でもまさか、100人近くいる新入生の中でセレスティンが僕のパートナーになるなんて思わないじゃないか…!!
「セ、…っギルクラウド君、魔法実習一位なんてすごいね。やはり入学前から鍛錬を?」
思わずセレスティンと呼びそうになったのを誤魔化しつつ、平静を装ってにこやかに話しかける。
「一位はアンダーソン先輩もでしょう。…武家の家系ですから、鍛錬は小さいころからしていました」
そう。このペアは魔法実習の成績順で組まされるのだ。そういうことで、1年生の1位であるセレスティンと、2年生の1位である僕が組むことになった。
代々国の将軍をしているギルクラウド家の嫡男ということもあり、魔獣討伐に必要な魔法の練習は小さいころからしているということだろう。
「さすがだね。僕が教えられることはあまりないかもしれないな」
「…ご謙遜を。1年生の頃から、学徒軍の隊長を務めていたと伺っています」
学徒軍というのは、カールロイン魔法学園の生徒で編成される魔獣討伐軍のことだ。
魔法を使える人間は主に貴族に限られる。貴族はその魔力を使って恐ろしい魔獣から国民を守っているのだ。
魔法学園で攻撃魔法が優れている生徒のほとんどは、卒業後に国の騎士団に入ることになる。その前組織として、学園生徒で編成される学徒軍というものがあり、騎士団について魔獣の討伐を行ったりしているのだ。
「たまたまだよ。優秀な後輩が入学してくれたし、僕はもうお役御免さ」
実際ゲーム内で、セレスティンは1年生ながら学徒軍の隊長に任命されていた気がする。
魔法が得意だったせいで似合わない隊長を任されてしまったけれど、セレスティンが入学したなら僕が隊長を続けることはないだろう。
隊長を務めるセレスティン、カッコいいだろうなあ…!
そんなことを考えながらにっこりと微笑むと、セレスティンは眉間に皺を寄せて不快そうな目線を向けてきた。
…あれ。なんか気に障ること言っちゃったかな…?
「…行きましょう」
ふいっと顔を逸らしてスタスタと歩いていってしまうセレスティンの後を追いかける。
基本セレスティンは、主人公のノア以外には塩対応なのだ。ノアにすら打ち解けるまではとても冷たくあたっていたほど。
硬派で口数の少ない武闘派の彼が、好きな人にだけ見せる甘えた表情がたまらないのである。
そんなことを考えつつ、僕の前を歩くセレスティンの背中を見てニヤニヤとしてしまうのだった。
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