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君のキタルファ。僕のデルタ・スクルプトーリス。
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君への僕の、秘密。
「私ね、大きくなったらお星様になりたい!」
「どうして?」
「だって、キラキラでとっても綺麗で、そして、そして自由で……私の憧れ」
そう言っている彼女の目は一瞬既に星のようにキラキラと輝いているように見えた。年に似合うような、無邪気で純粋な瞳。でもすぐに現実を真っ直ぐ見つめて、その光は死んだ。
この国の奴隷制度は解放令により、表面上は無くなったことになってる。しかし、あくまで表面上。未だに貴族の中では奴隷を手放さず、こき使う者もいる。
その内の一人が僕、アラン。
僕は九歳の冬頃からこの屋敷で使われて、その後冬が八回来ているから、大体八年間ここにいる。
毎日、メイドや執事たちがやりたがらない汚い動物の飼育小屋とかの掃除は勿論、汚い仕事――俗に言う誰かを始末する殺し――やその他諸々やっていた。
そもそも僕には戸籍がない。
生まれた時には既に母の存在は無く、育ててくれたのは子供だった。
孤児たちが集まって群れを作っていたらしい。僕はそこに引き取られ、リーダーのロイや、他の子供に育てられた。
この群れのモットーは「子供を自分たちの目の前で死なせない」だったらしく、たまたま僕は拾われた。
物心つき、子供たち――家族との生活に「幸せ」という感情を知って実感していたときだった。
銃声。
大人が、僕の家族を、殺した。
銃声は鳴り止まない。暮らしていた簡易的な家は銃弾で容易くボコボコにされていった。家族にも、容赦なく体から赤黒い液体を流させていった。思い出を、容赦なく、貫く。
僕は怖くて、怖くて、近くの茂みに息を殺して隠れていた。
「もう、止めてくれ!」
ロイの声だった。
ガタイのいい頭の禿げた男に土下座をしている。
「俺が悪かった。俺が、俺がお前たちの言うことを聞かなかったせいだろ?」
ロイの体はカタカタと震えが抑えきれないようだった。
「お願いだ……。家族を……家族を殺さないでくれ……っ」
喉が締まって上手く声が出ないのか、か細い声で男たちに掛け合った。
「じゃあ、お前俺たちについて来い」
「え……?」
「六年だ。六年俺たちについてきたら、二度とここに手出しはしねぇよ」
「ほんとか……?」
「約束は破らねえよ」
ロイは顔を少し明るくさせ、立ち上がり、男たちについて行こうとした。
「待って!ロイ!」
「アラン……!生きてたのか!」
「嫌だ!嫌だよ!行かないで!」
「早くしねぇと、またやっちまうぞー」
男の急かす声が聞こえる。
「大丈夫だ。ぜってぇ戻ってくるからよ」
ニッと笑い、僕の頭を数回撫でたあと、男たちの方について行った。
「よお。君があん時のアラン君?」
「誰だおま――」
僕は絶句した。
目の前にいたのはあの時の男。
そして、そいつが肩を貸している相手は、
「おーい。起きろよロイ。もう着いたぞ」
「ロ……イ……?」
目を疑った。
焦点の定まらない目。開けっ放しでヨダレが垂れている口。フラフラで痩せぎすの体。なにより、腕には無数の赤い斑点のようなものがあった。
「リーダーの代わりご苦労さまぁ。リーダー六年経ったから返しに来たんだよ。まあ、あっちの『労働』に耐えられずにちょっとヤバいのに手ェ出しちゃってさぁ、まあ、大丈夫だよね? だって『家族』だもんね?」
心臓の鼓動が早くなっていく。
目の前の出来事に頭が追いつかない。
ロイ。ロイ。ロイ……。
数日後ロイは息を引き取った。
だが、息を引き取ったのは体だけだ。
心の中のロイはとっくに、死んでいた。僕の知らない、どこかで。
あの男たちは約束通り僕たちの島には手出ししなくなった。しかし、平穏というのは、長くは続かない。バランスが傾く時は、いつか分からない。
違うグループの親玉が来たのはそれから三ヶ月経ってからだった。
正確には奴隷商人だったが。
「お前、来い」
たった二言で呼び出され、警戒しながらも近づくと、家族を売れと乞う。そんなことできるはずもない僕は、自分を差し出す代わりに家族に平穏を永遠に与えた。
数日馬車に乗せられ、闇市に売られた。九歳という微妙な年齢から、近くにいた同じ奴隷商人に売られている子供方が早くに買われていった。
そのうち、僕とリュナという少女だけになった。
リュナには顔の左側の唇から耳にかけて大きな火傷の痕があった。
女は買われやすいと商人が話しているのを聞いたことがあったが、その火傷の痕のせいで売れ残っているらしい。
僕と彼女は同じくらいの年齢だったのもあり、互いの寂しさを紛らわせる相手として話すようになった。
彼女は星が好きらしく、毎晩星への思いを僕に教えていた。
彼女は母によく星の話をよく教えてもらったらしく、それが星との出会いとも言っていた。しかし、その母親は体が弱くて亡くなってしまったから自分は今ここに売られているのだとも言った。
そう話しながら彼女の瞳から溢れ出す涙は星よりも美しいと僕は思った。
反対に僕は家族との思い出を話した。
リーダーの僕が九歳(ロイは僕を拾ってくれた時十二歳)ということでびっくりしていた。十歳からは街に出稼ぎに行くルールがあったからというのもあるし、単純に家族のことを一番理解してるというのが任命された理由だと思う。
まあそんな家族を守るために僕は売られたんだけどね、と僕は悲しく笑った。
一週間後。僕の新しい生き場所が決まった。リュナと共に。
買われた先は、聞いたところいい所の貴族の家らしく、処遇も劣悪過ぎるものでもなく、一般的な奴隷の扱いと変わらないため、やりやすかった。
今や十七歳になった僕の体は買われた時より随分と大きくなっていた。
食事は最低限しか無かったが、幸いこの貴族は庶民のままごとが好きなようで牛や豚を育てたり畑をつくっていたため、肉の解体作業の時に肉をくすめたり、卵をくすめたり、畑の野菜をくすねたりして食べたりしていたからだろう。
リュナは買われた時こそ「キズもの」と使用人たちにも呼ばれていたが、火傷の痕は大分薄くなり、立派な女性になっていた。
いつしか僕は彼女を愛してしまっていた。
夜はよく、二人で過ごしていた。
「何を聞いているの?」
「人生のメリーゴーランドさ」
「それってハウルの動く城の?」
「あぁ、そうさ。あの貴族の趣味が変わったらしくてさ。CDが捨てられていたんだ」
「私もその曲好きよ」
僕はふっと微笑む。
彼女がなぜこの曲を知っているのかという疑問は湧いたが、この時間にうっとりしてしまっていた僕はそれをすぐに忘れてしまった。
「僕も。でもこの曲を聞くとなんだか…」
「悲しくなる?」
「そうなんだ…。なぜだろうか」
「それはね、きっと私たちが飛べないからよ」
「?」
「ハウルとソフィーは空を自由に飛んだわ。この曲をバックにね。それに最後には国とも社会ともさよならして、あの人たちだけで生きていける世界を作って過ごしていた。だから、よ。私たちは自由にどこへも行けない。社会のしがらみからも、あの貴族からも一生抜け出すことはできない、要は飛べないってことなのよ」
「そうか…。そりゃ、悲しくなるな」
「なるわ。でもなんだか落ち着くし安心する気持ちにもなれちゃう不思議な曲ね」
「そうだな…」
「ハウルの魔法でもかかってるのかしら」
「相変わらず、君は面白いことを言うな」
くくっと僕は笑う。
私はそんな彼を見て幸せを感じる。
ただ二人で過ごす、時が流れる。
それだけで十分だった。
数日後だった。彼女があの貴族の妾になっていたことを知ったのは。
僕は自分の無力さに失望し、また彼女が僕に知らせずに耐えていた苦しみを思うと絶望を感じずにはいられなかった。
「奴隷を妾にしている」という事実を知ってしまった僕は体を縄で縛られ、屋敷の近くのスーサイドリバーと呼ばれる川に連れて行かれた。
隣にはリュナが泣きじゃくって「ごめんなさい。ごめんなさい」とずっと言っている。
真夜中だからか、微かな明かりに照らされた彼女の涙は星のように光を帯びて、とてもキラキラと輝いていた。
「リュナ」
そう優しく呼ぶと、彼女は僕の目を真っ直ぐ見つめた。
「君はきっと、星になれるよ」
その瞬間身体は美しい星の中に落とされた。肺の中に水が入ってくるのが分かる。キラキラと、輝く、星たちが、僕を、見つ、める。彼女の、顔が、浮かぶ。意識、が、遠のいて、い、く。
君を愛する僕は、夜と溶け合って星になったよ。
「私ね、大きくなったらお星様になりたい!」
「どうして?」
「だって、キラキラでとっても綺麗で、そして、そして自由で……私の憧れ」
そう言っている彼女の目は一瞬既に星のようにキラキラと輝いているように見えた。年に似合うような、無邪気で純粋な瞳。でもすぐに現実を真っ直ぐ見つめて、その光は死んだ。
この国の奴隷制度は解放令により、表面上は無くなったことになってる。しかし、あくまで表面上。未だに貴族の中では奴隷を手放さず、こき使う者もいる。
その内の一人が僕、アラン。
僕は九歳の冬頃からこの屋敷で使われて、その後冬が八回来ているから、大体八年間ここにいる。
毎日、メイドや執事たちがやりたがらない汚い動物の飼育小屋とかの掃除は勿論、汚い仕事――俗に言う誰かを始末する殺し――やその他諸々やっていた。
そもそも僕には戸籍がない。
生まれた時には既に母の存在は無く、育ててくれたのは子供だった。
孤児たちが集まって群れを作っていたらしい。僕はそこに引き取られ、リーダーのロイや、他の子供に育てられた。
この群れのモットーは「子供を自分たちの目の前で死なせない」だったらしく、たまたま僕は拾われた。
物心つき、子供たち――家族との生活に「幸せ」という感情を知って実感していたときだった。
銃声。
大人が、僕の家族を、殺した。
銃声は鳴り止まない。暮らしていた簡易的な家は銃弾で容易くボコボコにされていった。家族にも、容赦なく体から赤黒い液体を流させていった。思い出を、容赦なく、貫く。
僕は怖くて、怖くて、近くの茂みに息を殺して隠れていた。
「もう、止めてくれ!」
ロイの声だった。
ガタイのいい頭の禿げた男に土下座をしている。
「俺が悪かった。俺が、俺がお前たちの言うことを聞かなかったせいだろ?」
ロイの体はカタカタと震えが抑えきれないようだった。
「お願いだ……。家族を……家族を殺さないでくれ……っ」
喉が締まって上手く声が出ないのか、か細い声で男たちに掛け合った。
「じゃあ、お前俺たちについて来い」
「え……?」
「六年だ。六年俺たちについてきたら、二度とここに手出しはしねぇよ」
「ほんとか……?」
「約束は破らねえよ」
ロイは顔を少し明るくさせ、立ち上がり、男たちについて行こうとした。
「待って!ロイ!」
「アラン……!生きてたのか!」
「嫌だ!嫌だよ!行かないで!」
「早くしねぇと、またやっちまうぞー」
男の急かす声が聞こえる。
「大丈夫だ。ぜってぇ戻ってくるからよ」
ニッと笑い、僕の頭を数回撫でたあと、男たちの方について行った。
「よお。君があん時のアラン君?」
「誰だおま――」
僕は絶句した。
目の前にいたのはあの時の男。
そして、そいつが肩を貸している相手は、
「おーい。起きろよロイ。もう着いたぞ」
「ロ……イ……?」
目を疑った。
焦点の定まらない目。開けっ放しでヨダレが垂れている口。フラフラで痩せぎすの体。なにより、腕には無数の赤い斑点のようなものがあった。
「リーダーの代わりご苦労さまぁ。リーダー六年経ったから返しに来たんだよ。まあ、あっちの『労働』に耐えられずにちょっとヤバいのに手ェ出しちゃってさぁ、まあ、大丈夫だよね? だって『家族』だもんね?」
心臓の鼓動が早くなっていく。
目の前の出来事に頭が追いつかない。
ロイ。ロイ。ロイ……。
数日後ロイは息を引き取った。
だが、息を引き取ったのは体だけだ。
心の中のロイはとっくに、死んでいた。僕の知らない、どこかで。
あの男たちは約束通り僕たちの島には手出ししなくなった。しかし、平穏というのは、長くは続かない。バランスが傾く時は、いつか分からない。
違うグループの親玉が来たのはそれから三ヶ月経ってからだった。
正確には奴隷商人だったが。
「お前、来い」
たった二言で呼び出され、警戒しながらも近づくと、家族を売れと乞う。そんなことできるはずもない僕は、自分を差し出す代わりに家族に平穏を永遠に与えた。
数日馬車に乗せられ、闇市に売られた。九歳という微妙な年齢から、近くにいた同じ奴隷商人に売られている子供方が早くに買われていった。
そのうち、僕とリュナという少女だけになった。
リュナには顔の左側の唇から耳にかけて大きな火傷の痕があった。
女は買われやすいと商人が話しているのを聞いたことがあったが、その火傷の痕のせいで売れ残っているらしい。
僕と彼女は同じくらいの年齢だったのもあり、互いの寂しさを紛らわせる相手として話すようになった。
彼女は星が好きらしく、毎晩星への思いを僕に教えていた。
彼女は母によく星の話をよく教えてもらったらしく、それが星との出会いとも言っていた。しかし、その母親は体が弱くて亡くなってしまったから自分は今ここに売られているのだとも言った。
そう話しながら彼女の瞳から溢れ出す涙は星よりも美しいと僕は思った。
反対に僕は家族との思い出を話した。
リーダーの僕が九歳(ロイは僕を拾ってくれた時十二歳)ということでびっくりしていた。十歳からは街に出稼ぎに行くルールがあったからというのもあるし、単純に家族のことを一番理解してるというのが任命された理由だと思う。
まあそんな家族を守るために僕は売られたんだけどね、と僕は悲しく笑った。
一週間後。僕の新しい生き場所が決まった。リュナと共に。
買われた先は、聞いたところいい所の貴族の家らしく、処遇も劣悪過ぎるものでもなく、一般的な奴隷の扱いと変わらないため、やりやすかった。
今や十七歳になった僕の体は買われた時より随分と大きくなっていた。
食事は最低限しか無かったが、幸いこの貴族は庶民のままごとが好きなようで牛や豚を育てたり畑をつくっていたため、肉の解体作業の時に肉をくすめたり、卵をくすめたり、畑の野菜をくすねたりして食べたりしていたからだろう。
リュナは買われた時こそ「キズもの」と使用人たちにも呼ばれていたが、火傷の痕は大分薄くなり、立派な女性になっていた。
いつしか僕は彼女を愛してしまっていた。
夜はよく、二人で過ごしていた。
「何を聞いているの?」
「人生のメリーゴーランドさ」
「それってハウルの動く城の?」
「あぁ、そうさ。あの貴族の趣味が変わったらしくてさ。CDが捨てられていたんだ」
「私もその曲好きよ」
僕はふっと微笑む。
彼女がなぜこの曲を知っているのかという疑問は湧いたが、この時間にうっとりしてしまっていた僕はそれをすぐに忘れてしまった。
「僕も。でもこの曲を聞くとなんだか…」
「悲しくなる?」
「そうなんだ…。なぜだろうか」
「それはね、きっと私たちが飛べないからよ」
「?」
「ハウルとソフィーは空を自由に飛んだわ。この曲をバックにね。それに最後には国とも社会ともさよならして、あの人たちだけで生きていける世界を作って過ごしていた。だから、よ。私たちは自由にどこへも行けない。社会のしがらみからも、あの貴族からも一生抜け出すことはできない、要は飛べないってことなのよ」
「そうか…。そりゃ、悲しくなるな」
「なるわ。でもなんだか落ち着くし安心する気持ちにもなれちゃう不思議な曲ね」
「そうだな…」
「ハウルの魔法でもかかってるのかしら」
「相変わらず、君は面白いことを言うな」
くくっと僕は笑う。
私はそんな彼を見て幸せを感じる。
ただ二人で過ごす、時が流れる。
それだけで十分だった。
数日後だった。彼女があの貴族の妾になっていたことを知ったのは。
僕は自分の無力さに失望し、また彼女が僕に知らせずに耐えていた苦しみを思うと絶望を感じずにはいられなかった。
「奴隷を妾にしている」という事実を知ってしまった僕は体を縄で縛られ、屋敷の近くのスーサイドリバーと呼ばれる川に連れて行かれた。
隣にはリュナが泣きじゃくって「ごめんなさい。ごめんなさい」とずっと言っている。
真夜中だからか、微かな明かりに照らされた彼女の涙は星のように光を帯びて、とてもキラキラと輝いていた。
「リュナ」
そう優しく呼ぶと、彼女は僕の目を真っ直ぐ見つめた。
「君はきっと、星になれるよ」
その瞬間身体は美しい星の中に落とされた。肺の中に水が入ってくるのが分かる。キラキラと、輝く、星たちが、僕を、見つ、める。彼女の、顔が、浮かぶ。意識、が、遠のいて、い、く。
君を愛する僕は、夜と溶け合って星になったよ。
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