冒険は風の標すその先に -新米リーダーは仲間と共に奮戦中!

月守 宵

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第1話 初めての依頼は鉱山で

13. 大蛇

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 親友の声にジークはダガーを手に、その攻撃をかいくぐりながら叫ぶ。

「黒刃、あと2本しかねぇぞ!」
「充分です!」
 セイシェスはクレールを振り返った。
「クレール、先ほどの水の盾はもう一度使えますか?」
「…ええ、大きな水があればもっと大きな盾を作ってもらえるのですが…」

 ローブの袖を水で濡らしたクレールが、戦闘で無造作に置かれたランタンが水面を反射させるのを頼りに視線を巡らせて、はっとしたように不意に走り出した。

「クレール?」
「ここです、セイシェス!ここなら、そこそこ大きな盾を作ってもらえます」

 大蛇から20mほどは距離を空けてクレールが両膝をついて示した水溜りは、先ほどの物よりだいぶ大きく直径1mくらいはある。

「…クレール、ここに大蛇を誘導します。アーシェとエドガーが来たら、水精の力を借りて、また盾を作ってもらえませんか?ジークと私であの蛇の目を潰します」
 セイシェスは言うと、エドガーとアーシェに叫ぶ。
「エドガー、アーシェ!こっちへその大蛇ごと来てください!ジークもこっちへ!」
「わかった!」

 セイシェスの指示に従って、アーシェたちはセイシェスとクレールのいる場所まで全力で移動しようとするが大蛇も得物を逃す気はないのだろう、その漆黒の体をうねらせて追ってくる。

「アーシェ、エドガー!先に行け!」
ジークは叫ぶと、足元の拳大の石を拾うと大蛇の頭をめがけて投げつけた。
「てめぇらはセイシェスの所へ行け!オレが引きつけておく!」

頭に投げられた石に、大蛇は鎌首をもたげてジークに狙いを定めたように追う進路を変えた。
それを確認するや、ジークはセイシェスたちと逆のほうへと走り出す。

「ジーク、無茶しないで!」
「アーシェ!急いでください!」
「―――っ!」

セイシェスに強い口調で呼ばれて、アーシェはジークをもう一度振り返るとエドガーと共にセイシェスのもとへと走り出した。
ジークは執拗に追いかけてくる大蛇を、足場が悪いのをものともせずその俊足で適度な距離を保ったまま誘導している。

「ジークは大丈夫です。足は速いですし子供の頃から盗賊ギルドで散々無茶な訓練をさせられたらしいですから。…それに、私がしくじらせません」

息を切らせながら合流し、それでも心配げなそぶりを見せるアーシェにそう言うと、セイシェスがクリスタルの杖を片手に、口の中で小さく詠唱を始める。

「討て!」

1本青白い矢が流星のように大蛇に放たれる。
魔法まで弾くのか、その魔術の矢が大蛇を貫くことはなかったが衝撃は感じたようで、ぐるり、と頭をこちらへ向ける。

「ジーク!こちらへ!」

注意をこちらへ向けることに成功し、セイシェスがジークを呼ぶ。

「距離は稼げただろ?!」
「充分です!」

にっと口の端を持ち上げたジークが、身をひるがえして合流すべく駆け出した。
大蛇もそれを追うように、セイシェスたちと合流したアーシェたちのほうへとずるずると移動を始める。
足場が悪い場所でもそのスピードは落ちることなく、大蛇よりも先に合流できたジークに「お疲れ様です」とセイシェスが労いながら、その背を軽く叩いた。

「察しがいいダチでよかったなぁ?一応てめぇの考え通りに動けたってところか」
「ええ。いい親友を持ちました」

紫水晶の瞳を細めてセイシェスは頷くと、こちらへ向かってくる大蛇に目を向ける。
距離は充分。
クレールにも話した策を実行すべくアーシェたちに向き直った。

「今からジークと目を潰します。クレールが水の盾を出してくれますから、アーシェとエドガーは少しの間、大蛇を引き付けておいてください!…ジーク、左をお願いします」
「了解、てめぇは右な?外すんじゃねぇぞ」
「わかったわ。…クレール、お願いね」
「大丈夫です、これだけの水があれば2人をしっかり守れます」
「俺とアーシェであの大蛇の意識を向けさせておけばいいんだな」

 目を潰す、と聞いてどういうやり方でと聞きたくなるのをこらえ、アーシェは矢継ぎ早に指示を出すセイシェスに頷く。
 エドガーも「威嚇をすればいいか」と大剣を大きな水たまりの前で構えて、大蛇を見据えた。
 体を左右に振りながら大蛇はあと3mほどに迫ってきている。

「水精よ、今一度ここにいる我らに水の加護を!」

 クレールが精霊に呼びかける詠唱を始めれば、セイシェスもクリスタルの杖を握りしめて詠唱を始める。

「…我が名のもとに命ず。大いなる刃となり目の前の敵を討ち果たさんと願う。凍れる水、永久の氷壁、冷気を纏いてここに集え!我が命に従いてその氷柱の刃で我らが敵を討て…!」

 ジークも残る2本の黒刃を抜くと右手に持ち、タイミングを計る。
 エドガーとアーシェは剣を構えて、大蛇を迎撃する構えをとる。
 威嚇音とともに大蛇が2人に食らいつく。

「水の盾を!」

 クレールの声とともに、アーシェとエドガーの前に水が盾のように沸き上がり、大蛇の攻撃を遮断する。

「行くぜ!」
氷柱の槍アイシクル・スピア!」

 冷気を纏った青白い魔力で生成された氷の槍が大蛇の右目に、ジークの投げた2本の黒刃が左目に真正面から突き立てられた。
 両目を潰された大蛇が耳障りな音を上げてその場でのたうち回る。

「2人共、無事ですね!」

 無傷で護り切れたことにクレールがエドガーとアーシェに安堵の笑みを見せた。
両目を潰された大蛇にセイシェスが前衛の2人に叫ぶ。

「外敵に晒されない場所なら刃を通ると思います!だから…っ」
「…!、なるほどな。…アーシェ!」
「ええ!」

 エドガーが振り上げた大剣が、アーシェの剣が大蛇の腹を切り裂く。
 絶叫のような音とともに、暴れる大蛇はその尻尾を振るい、岩や壁を打ち付ける。
 冒険者として魔物などと戦うのは覚悟していたが、実際にそれを目の当たりにするとやはり衝撃的で、斬られてもなお暴れる姿に軽い恐怖さえ感じた。

「…大丈夫か?」

 無意識に顔が引きつっていたのかもしれない。
 アーシェを察してエドガーが声を掛けるが、アーシェは首を横に振った。

「わたしも冒険者だから。精神的にも強くなりたいし、ならなきゃいけないわ」
「あぶねっ!」

 飛んできた握りこぶし大の石をかわしたジークがダガーでその尾を斬りつけた。
 さすがの大蛇も腹を裂かれたのは致命傷だったらしく、次第に暴れる力も弱くなり、やがてぐったりとその場に体を伸ばして動かなくなった。

「…倒した、の?」
「…一応、とどめだけを刺しておこう」

 そういうと、エドガーは動かなくなった大蛇の首に、大剣を突き立てた。
 急所を貫けば、擬態や仮死状態になって敵をやり過ごす、ということもないだろう。
 血だまりの中、巨体を横たえた大蛇は地面に伸びているのを見れば感じていた以上に大きかった。

「…大蛇を退治するっていうのは達成、だな」

 ふぅ、と息を吐いてエドガーが振り返った。

「あとは、鉱石採取ですね」
「とりあえず、討伐報酬が出るし、赤い鱗を5枚以上、だっけか?剥がさせてもらおうぜ」

 ジークはダガーを手に、大蛇の首周りの赤い鱗をはがしにかかる。
 その鱗は大人の掌ほどの大きさで、普通の蛇とは全くの規格外だ。
 5枚鱗をはがしたジークは、それを布に包んでギルドに提出すべく荷物袋にしまったのだった。
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