冒険は風の標すその先に -新米リーダーは仲間と共に奮戦中!

月守 宵

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第1話 初めての依頼は鉱山で

12. また一難

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 小休止から1時間もたたないうちに足元には水溜りが増え、上からは染みだしてきた雫が落ちてきては不意に頭や首筋を濡らしてくる。
 こういう場所だと、座るにしても水溜りや濡れている岩が多く休憩もできなかっただろう。

「ジークの言うとおりね。あちこちが濡れているし、空気が湿っているもの」

 ひょい、と水溜りに足を踏み入れないようにアーシェがそこを飛び越える。
 先程の開けた場所のように道幅がぐんと広くなり、天井も高いため空気も湿ってはいるが、圧迫感は感じない。

「そろそろいい加減最深部あたりだと思うんだよな」

 そう言って、周囲を照らしているランタンを、真っ暗な先に向けた時だった。

「…っ!今光ったぜ!」

 ランタンの明かりに、赤い光が反射した。次いで、重いものを引きずるような音が奥から響いてくる。

「なんだ?!」

 最後尾のエドガーも思わずジークの近くへ向かうとランタンをかざした。
 2つのランタンの明かりに照らされて、ゆっくりと暗い奥から姿をくねらせてやってきたのは漆黒の体と、頭のすぐ下に首輪のようにぐるりと赤い線の入った巨大な蛇だった。

「…な…っ、…嘘…」

 その大きさにアーシェは愕然とした。
 ベロニカが言っていた『3mとか、そういうレベルじゃなかった』との言葉は間違っていなかった。
 その黒い大蛇はゆうにその3倍以上、体長10m以上はあるかと思われるほどの巨体で、その胴回りは成人男性二人が両手を広げて何とか囲えるくらいもあるのだ。

「…マジかよ…」

「化け物レベルだな…」

 そういいながらも、ジークは袖に仕込む黒刃を、エドガーは背負っていた大剣を抜くと構えをとる。
 不意に強い光と共に現れた闖入者に、大蛇も鎌首をもたげて威嚇するようにぎらつく赤い目を向け、低く空気を吐き出すような威嚇音を立てている。

「ベロニカさんは無理をするなと言いましたけど…この状況は…逃げられるかも怪しいですね…」

 セイシェスがクリスタルの杖を握りしめて、大蛇を見上げる。
 大蛇は次の瞬間、人の上半身など簡単に飲み込めそうなほどの大きな口を開けると見かけによらない俊敏さで目の前にいるジークに襲い掛かった。

「ちっ!」

 開いた口めがけてジークは黒刃を3本まとめて投げつけるや、地面に転がるようにしてその攻撃をぎりぎりで躱す。

 その動きを見越したエドガーが大剣を大蛇の鼻先に振り下ろすが、鱗に弾かれる形で大剣が跳ねあがり、崩しそうになる体勢をぐっとエドガーは堪える。
 ジークの投げた黒刃が喉に刺さったのだろう、苦悶の叫びに似た音を上げながら大蛇はその巨体をくねらせると尻尾で周りを薙ぎ払う。
 尻尾で鍾乳石のように細く伸びた岩が砕かれ、破片が飛んでくるのをアーシェは岩陰に身を隠して防ぐ。

「エドガーの大剣でも攻撃が通らないって…どれだけ鱗が硬いの?!」

「やべぇな。攻撃するなら口開けた時を狙うか、どっか弱点かなんか見つけて突くしかねぇか?!」

 ジークも咄嗟に暴れる大蛇から距離を置くべくアーシェの近くの岩に潜んでいる。

「でも、何とかしなきゃ!逃げるにも、クレールとセイシェスが…っ!」
 後方にいた2人に目をやったアーシェが息をのむ。
暴れる大蛇がその太い尻尾を振り上げたのだ。

「逃げて!」

 大蛇の尻尾が薙ぎ払うように振り下ろされて、クレールとセイシェスを襲う。
「水精よ、願いにこたえてここに守りの加護を…っ!」

 クレールは精霊に呼びかける言葉を紡ぎながら目の前の大きな水たまりに両手を突っ込んだ。

「クレール!…くっ!」

 大蛇の尻尾が目の前に迫り、セイシェスが杖で防御しようとしたがそれより早く、目の前の水溜りの水がまるで盾か壁のように立ち上がる。

「ぐっ!」

 水の壁のおかげでだいぶ威力は削げたが、そのまま尻尾に薙ぎ払われてクレールとセイシェスが地面に叩き付けられた。

「セイシェス!」

「クレールも!大丈夫!?」

 駆け寄りたいが、大蛇は次の得物を求めてずりずりとエドガーやアーシェたちに迫ってくる。

「…っ、つう…っ」

 したたかに背中を地面に打ち付けたセイシェスが紫色の目を顰める。
 体中に、主に上半身に痛みはあるが、動けない程ではない。クレールのドルイドとしての精霊の力のおかげで、思いのほかダメージを和らげてくれていたようだった。
 指も、手も、腕も足もしっかり感覚はあるし、水の盾に守られたとはいえ尻尾がまともに当たった上半身は痛むものの、鎖骨やあばらなどの骨を折った感じはない。

 セイシェスが痛む体に構わず上体を起こせば、髪を束ねていた銀の髪留めが壊れたようで、乱れた長い黒髪が顔にかかってくる。
 それを手で払って何とか立ち上がり、少し離れたところに飛ばされたクリスタルの杖を掴んでクレールに視線を向ければ、クレールも樫の杖を手に立ち上がったところだった。

「2人とも大丈夫か?!」

 エドガーの声に顔を向ければ、ジーク、アーシェと3人で食らいつこうとする大蛇に防戦を強いられていた。
 大きな口を開けて襲い来る大蛇を、エドガーが何とか大剣で口の中を狙って繰り出すも、同じ轍《てつ》を踏むつもりはないのか首を引いて逃れては、頭で薙ぎ払おうとするかのように3人に勢いよく首が振り抜かれる。
「くそったれめ!」
 薙ぎ払われたら岩や地面に叩き付けられるのは、先刻のセイシェスとクレールを見れば容易に察せられる。
 必死にかわしつつ斬りかかるもジークの黒刃も、アーシェの剣も、その鱗に弾かれてしまう。

「なんとか気をそらさせないと!今逃げても逃げきれないわ!」

 アーシェの悲鳴のような言葉に、セイシェスは大蛇を見据えた。
 大蛇は幸いにも自分たちは眼中にないらしく、目の前にいるアーシェたちを執拗に狙っている。
 大概の生き物は鱗や棘など、外敵から身を護るのに必要だから持っているのだ。
 だから外敵から目につかないところは攻撃が通るはず。
 セイシェスはジークに目を向けた。

「ジーク!目を狙えますか?!」
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