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第0話 始まりの物語
3.ジークとセイシェス
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「オレもセイシェスも先日冒険者登録したばっかりで刻印はねぇ。てめぇさえよければ一緒に組まねぇか?」
突然の申し出に目をぱちくりさせているアーシェに、ほらよ、と青年は自分の身分証をアーシェに渡した。
「これが私の身分証です」
黒髪の若者も腰の帯に取り付けていたプレートを外してアーシェに手渡す。
自分の物とそう変わらない、新しい身分証だ。
失礼します、と一声かけて2人の身分証を受け取ってそこに刻まれた文字を確認する。
【ジーク・エーゲル 1263年11月1日 クラス:盗賊 拠点都市:ヴェルーク】
【セイシェス・クローウィック 1264年1月7日 クラス:魔術師 拠点都市:ヴェルーク】
裏を見れば自分と同じ『刻印なし』だ。
「ジーク・エーゲルさん…とセイシェス・クローウィックさん…」
どうやら金髪の口が悪い青年がジークで、黒髪の静かな青年がセイシェスという名前らしい。
「ああ。冒険者としては登録したばっかだけど、これでもガキの頃から盗賊ギルドに身を置いてたから解錠や気配探知は得意だぜ?セイシェスだって、冒険者としての経験はないけど、こいつもガキの頃から魔術の修練してたからな」
優良物件だぜ?と冗談交じりにジークがアーシェに笑いかける。
「ジークさんとセイシェスさんは幼馴染か親戚とかですか?」
その悪戯っぽい笑みにつられるように小さく笑って、アーシェはジークを見上げた。
2人とも齢が1つしか違わないし、さっきの勧誘されているときも同じパーティに所属したいと言っていたことを思い出したのだ。
「”さん“なんてつけなくていいぜ?…オレとセイシェスは親友ってとこだな。ヴェルークに向かう途中で知り合って、まぁいろいろあって意気投合してそれからつるんでるよな」
「そうですね。だから共に行動するようになったのはひと月前ほどです」
なぁ?と同意を求めたジークに、セイシェスも苦笑交じりに頷くとまだ不思議そうにしているアーシェに「さらに言いますと」と続ける。
「いろいろあったと言いますが、友人になったきっかけは殴り合いでした」
「へ?!」
思わずアーシェの口から間の抜けた声が飛び出した。
殴り合い?
第一印象でこんなことを言っては失礼だろうが、ジークならまだわからないこともない、いや、むしろ大いにあり得る。
だが、この見た目も雰囲気も手を上げたりしなさそうなセイシェスと、ジークと殴り合い、という言葉が結びつかない。
「おい、余計に混乱してるぜ?…アーシェリア、わかりやすく言うとこいつと口論の末、オレが殴っちまったら、こいつも思いっきり平手で打ってきたってわけだ」
「…初めて人を叩きましたよ、あの時は」
「……男の子って、殴りあって友情を深めるって聞いたことあるけど…本当だったのね」
思わず敬語も忘れてアーシェは呟くと、手に持ったままだった2人の身分証をそれぞれに返却する。
「…なんだよそれは…。まぁ、でもどうする?見た所てめぇもパーティを探している。オレらも近接で戦える奴がほしい」
そんなの聞いたことねぇぞ、とジークが眉間にしわを寄せるも、申し出の返答を聞くべくアーシェの決断を促す。
身分証で確認したがジークは18歳、セイシェスは17歳と齢も近いし、声を掛けられた時は怖い人かもしれないと思ったが、案外気さくで話しやすく、悪い人にも見えない。
それに、『刻印なし』同士だ。1人では難しい依頼も力を合わせればきちんと達成できるだろう。
盗賊はその感知能力や身軽さ、俊敏さが武器で、魔術師はその多彩な魔法と知識が武器だ。
貼り紙にも調査役として盗賊の募集はあるし、魔術師も募集が多くかけられているなか、声を掛けてくれたのは素直に嬉しかった。
「…わたしこそ。まだ登録したばかりだけど、どうぞよろしくお願いします。あと、アーシェ、でいいです」
そう言ってにこりと笑うアーシェに、ジーク満足げに親指を立てて、セイシェスは微笑んで頷く。
「ああ。よろしくな、アーシェ。あと、敬語は使わなくていいぜ」
「よろしくお願いいたします。私達は齢も近いですから、変に気を遣わないでくださいね」
2人に言われて、アーシェは大きく頷いたのだった。
突然の申し出に目をぱちくりさせているアーシェに、ほらよ、と青年は自分の身分証をアーシェに渡した。
「これが私の身分証です」
黒髪の若者も腰の帯に取り付けていたプレートを外してアーシェに手渡す。
自分の物とそう変わらない、新しい身分証だ。
失礼します、と一声かけて2人の身分証を受け取ってそこに刻まれた文字を確認する。
【ジーク・エーゲル 1263年11月1日 クラス:盗賊 拠点都市:ヴェルーク】
【セイシェス・クローウィック 1264年1月7日 クラス:魔術師 拠点都市:ヴェルーク】
裏を見れば自分と同じ『刻印なし』だ。
「ジーク・エーゲルさん…とセイシェス・クローウィックさん…」
どうやら金髪の口が悪い青年がジークで、黒髪の静かな青年がセイシェスという名前らしい。
「ああ。冒険者としては登録したばっかだけど、これでもガキの頃から盗賊ギルドに身を置いてたから解錠や気配探知は得意だぜ?セイシェスだって、冒険者としての経験はないけど、こいつもガキの頃から魔術の修練してたからな」
優良物件だぜ?と冗談交じりにジークがアーシェに笑いかける。
「ジークさんとセイシェスさんは幼馴染か親戚とかですか?」
その悪戯っぽい笑みにつられるように小さく笑って、アーシェはジークを見上げた。
2人とも齢が1つしか違わないし、さっきの勧誘されているときも同じパーティに所属したいと言っていたことを思い出したのだ。
「”さん“なんてつけなくていいぜ?…オレとセイシェスは親友ってとこだな。ヴェルークに向かう途中で知り合って、まぁいろいろあって意気投合してそれからつるんでるよな」
「そうですね。だから共に行動するようになったのはひと月前ほどです」
なぁ?と同意を求めたジークに、セイシェスも苦笑交じりに頷くとまだ不思議そうにしているアーシェに「さらに言いますと」と続ける。
「いろいろあったと言いますが、友人になったきっかけは殴り合いでした」
「へ?!」
思わずアーシェの口から間の抜けた声が飛び出した。
殴り合い?
第一印象でこんなことを言っては失礼だろうが、ジークならまだわからないこともない、いや、むしろ大いにあり得る。
だが、この見た目も雰囲気も手を上げたりしなさそうなセイシェスと、ジークと殴り合い、という言葉が結びつかない。
「おい、余計に混乱してるぜ?…アーシェリア、わかりやすく言うとこいつと口論の末、オレが殴っちまったら、こいつも思いっきり平手で打ってきたってわけだ」
「…初めて人を叩きましたよ、あの時は」
「……男の子って、殴りあって友情を深めるって聞いたことあるけど…本当だったのね」
思わず敬語も忘れてアーシェは呟くと、手に持ったままだった2人の身分証をそれぞれに返却する。
「…なんだよそれは…。まぁ、でもどうする?見た所てめぇもパーティを探している。オレらも近接で戦える奴がほしい」
そんなの聞いたことねぇぞ、とジークが眉間にしわを寄せるも、申し出の返答を聞くべくアーシェの決断を促す。
身分証で確認したがジークは18歳、セイシェスは17歳と齢も近いし、声を掛けられた時は怖い人かもしれないと思ったが、案外気さくで話しやすく、悪い人にも見えない。
それに、『刻印なし』同士だ。1人では難しい依頼も力を合わせればきちんと達成できるだろう。
盗賊はその感知能力や身軽さ、俊敏さが武器で、魔術師はその多彩な魔法と知識が武器だ。
貼り紙にも調査役として盗賊の募集はあるし、魔術師も募集が多くかけられているなか、声を掛けてくれたのは素直に嬉しかった。
「…わたしこそ。まだ登録したばかりだけど、どうぞよろしくお願いします。あと、アーシェ、でいいです」
そう言ってにこりと笑うアーシェに、ジーク満足げに親指を立てて、セイシェスは微笑んで頷く。
「ああ。よろしくな、アーシェ。あと、敬語は使わなくていいぜ」
「よろしくお願いいたします。私達は齢も近いですから、変に気を遣わないでくださいね」
2人に言われて、アーシェは大きく頷いたのだった。
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