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第0話 始まりの物語
1.冒険者登録完了
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「アーシェリア・ルベイユさん。年齢は16歳…あ、先月が誕生日だったのですね。
クラスは剣士、で間違いはないですね」
カウンターの向こうに座る若い女性が手元の申請書と作成された銅製の10㎝程の楕円形のプレートを確認しながら目の前の少女を見つめた。
「はい。剣は小さい頃から父に教わっていました」
明るい赤毛はまるでニンジン色で、腰近くまで伸ばしてゆったりと編んでまとめている、あどけなさの残る顔立ちの少女は頷いた。
剣士を名乗るだけあって椅子に腰を下ろしている彼女の腰のベルトには細身の片手剣が金具で取り付けられ、若草色の上着と脛のあたりまでを隠すような白いスカートという姿の少女を冒険者であることを再認識させる。
ここは大陸の交易路上にあり各地を結ぶ街道も多い、いわば人と物流の要となる大陸有数の大都市のひとつ、ヴェルークの冒険者ギルドである。
近隣国をつなぐ街道や交易路があるため人と物の往来が盛んで、それ故に冒険者と呼ばれる者たちが多く立ち寄ることから、王都にある冒険者ギルドに次いで2番目に立てられた支所で石造りの堅牢なたたずまいは歴史が浅くないことを物語っていた。
「…はい。申請書に不備はありませんね。作成した身分証もきちんと申請書の内容と一致しています」
ギルドの制服である白いブラウスにダークブラウンのリボンを襟で結び、モスグリーンのベストを纏う女性は申請書をカウンターに置くと、にっこり微笑んだ。
「無事、登録完了です。冒険者としてこれから頑張ってくださいね」
「はい!」
女性から冒険者の身分証である、そのプレートを受け取ってアーシェリア…アーシェという愛称を好んで使う彼女は元気に返事を返した。
そんな様子に、女性は微笑まし気に優しい表情で、それでもてきぱきと手元の書類をめくりつつ続ける。
「では、身分証とギルドに関する説明を行いますね。今お渡ししたのが身分証です。あなたの名前、生年月日、クラス、拠点都市名が刻まれています。これは冒険者としてギルドがあなたの身分を証明するものですから、決して無くさないように気を付けてくださいね。万が一、紛失したり、戦闘中に破損したり、魔物に飲み込まれたりと、身分証を無くした場合は国内に5つ、冒険者ギルドの支所がありますから報告してくださいね。ヴェルーク以外のギルドだとここまで連絡を貰ってからの身分証の再発行になりますから少し時間がかかります」
アーシェは説明を受けながら、できたばかりの身分証に頬が緩みながら刻まれた文字をなぞった。
【アーシェリア・ルベイユ 1265年5月16日 クラス:剣士 拠点都市:ヴェルーク】
冒険者としての証明になる身分証だ。
「裏面にギルドでの功績に応じて、刻印が入ります。まずは登録したばかりの方はみな『刻印なし』の状態です。経験や功績を重ねると『剣』『斧』『杖』と刻印が増えていきます。『杖』の刻印の次は『王冠』になるのですが、国内のギルドに登録している冒険者の皆さんの中でも『王冠』持ちは数えるくらいしかいません。それだけ、すごいランクの人たちということです。アーシェリアさんも、まずは『剣』の刻印持ちの冒険者を目指してくださいね」
女性はカウンターに刻印の見本を並べながら、説明をする。
プレートの裏に刻まれる刻印が、その冒険者のギルドでの経験や功績からくるステータスになるのだ。
「例えば、ですけど…冒険者になったばかりでも、すごく剣術が強い人とかはいると思うのですが、その人も『刻印なし』からですか?」
刻印がギルドでの功績や冒険者としての経験でもらえるのなら、スタート地点が何のとりえもない人と、何かに秀でた人も一緒ということになる。
ということは、実力がそこそこでも、長く続けていれば上の刻印になっている人もいるのでは、とアーシェは疑問に思ったのだ。
「はい、ですがそこはちゃんと皆さんの受けた依頼等で判断していますから。何か得意なものや技術がある人は、依頼の達成率も高いですし早くランクが上がります。…それに、冒険者は危険と隣り合わせですから、中には命を落とす方も残念ですがいます。なので、まずは慣れないうちは、確実にこなせる依頼を受けるようにしてくださいね」
早く刻印持ちになりたいからと言って焦りは禁物ということなのだ。
「あとはギルドについて簡単に説明しますね。近隣国を合わせて大陸の主要都市には計18か所の冒険者ギルドがあり、国内にはここヴェルークを含めて5か所あります。何かあったら近くのギルドに行けば依頼を受けることもできますし、相談もできますよ。皆さんの情報は国内のギルド間で共有されますから、いつでも手続きや依頼を受けることができます。あと、更新については…アーシェリアさんが依頼を受けて、しばらくしたらまた説明しますね」
女性はそういうと、アーシェが真剣に説明を聞いている姿に小さく微笑むとカウンターの上で手を重ねるように組んで、質問を促すように首を傾げた。
「何かわからないこととかありますか?」
「あ、いえ。大丈夫です」
「では、説明は以上になります」
慌てて首を振るアーシェに、女性は申請書類や説明に使った刻印の見本などをきちんと所定の場所に片づける。
「あ、そうです。1人で依頼を受けるのはまだあまりお勧めできませんし、冒険者の皆さんの多くは仲間とパーティを組んでいるんです。だからアーシェリアさんも誰かと組んだり、あちらにあるパーティ募集の掲示板の貼り紙を確認して、パーティに加入するのもいいかもしれませんね」
女性はギルドの入り口近くに設けられたカウンター越しに、奥のテーブル席が設けられた待機場所近くの掲示板を示した。
遠目からでも掲示板には何枚もの貼り紙が貼られ、その周辺や待機場所には何人もの冒険者の姿が見える。
あそこで仲間を探したり、同業者同士、談笑したり情報交換などをしているのだろう。
「わかりました。本当にいろいろありがとうございました」
椅子から立ち上がったアーシェは対応してくれていた女性に頭を下げると、教えてもらった奥の掲示板が並ぶエリアに足を向けたのだった。
クラスは剣士、で間違いはないですね」
カウンターの向こうに座る若い女性が手元の申請書と作成された銅製の10㎝程の楕円形のプレートを確認しながら目の前の少女を見つめた。
「はい。剣は小さい頃から父に教わっていました」
明るい赤毛はまるでニンジン色で、腰近くまで伸ばしてゆったりと編んでまとめている、あどけなさの残る顔立ちの少女は頷いた。
剣士を名乗るだけあって椅子に腰を下ろしている彼女の腰のベルトには細身の片手剣が金具で取り付けられ、若草色の上着と脛のあたりまでを隠すような白いスカートという姿の少女を冒険者であることを再認識させる。
ここは大陸の交易路上にあり各地を結ぶ街道も多い、いわば人と物流の要となる大陸有数の大都市のひとつ、ヴェルークの冒険者ギルドである。
近隣国をつなぐ街道や交易路があるため人と物の往来が盛んで、それ故に冒険者と呼ばれる者たちが多く立ち寄ることから、王都にある冒険者ギルドに次いで2番目に立てられた支所で石造りの堅牢なたたずまいは歴史が浅くないことを物語っていた。
「…はい。申請書に不備はありませんね。作成した身分証もきちんと申請書の内容と一致しています」
ギルドの制服である白いブラウスにダークブラウンのリボンを襟で結び、モスグリーンのベストを纏う女性は申請書をカウンターに置くと、にっこり微笑んだ。
「無事、登録完了です。冒険者としてこれから頑張ってくださいね」
「はい!」
女性から冒険者の身分証である、そのプレートを受け取ってアーシェリア…アーシェという愛称を好んで使う彼女は元気に返事を返した。
そんな様子に、女性は微笑まし気に優しい表情で、それでもてきぱきと手元の書類をめくりつつ続ける。
「では、身分証とギルドに関する説明を行いますね。今お渡ししたのが身分証です。あなたの名前、生年月日、クラス、拠点都市名が刻まれています。これは冒険者としてギルドがあなたの身分を証明するものですから、決して無くさないように気を付けてくださいね。万が一、紛失したり、戦闘中に破損したり、魔物に飲み込まれたりと、身分証を無くした場合は国内に5つ、冒険者ギルドの支所がありますから報告してくださいね。ヴェルーク以外のギルドだとここまで連絡を貰ってからの身分証の再発行になりますから少し時間がかかります」
アーシェは説明を受けながら、できたばかりの身分証に頬が緩みながら刻まれた文字をなぞった。
【アーシェリア・ルベイユ 1265年5月16日 クラス:剣士 拠点都市:ヴェルーク】
冒険者としての証明になる身分証だ。
「裏面にギルドでの功績に応じて、刻印が入ります。まずは登録したばかりの方はみな『刻印なし』の状態です。経験や功績を重ねると『剣』『斧』『杖』と刻印が増えていきます。『杖』の刻印の次は『王冠』になるのですが、国内のギルドに登録している冒険者の皆さんの中でも『王冠』持ちは数えるくらいしかいません。それだけ、すごいランクの人たちということです。アーシェリアさんも、まずは『剣』の刻印持ちの冒険者を目指してくださいね」
女性はカウンターに刻印の見本を並べながら、説明をする。
プレートの裏に刻まれる刻印が、その冒険者のギルドでの経験や功績からくるステータスになるのだ。
「例えば、ですけど…冒険者になったばかりでも、すごく剣術が強い人とかはいると思うのですが、その人も『刻印なし』からですか?」
刻印がギルドでの功績や冒険者としての経験でもらえるのなら、スタート地点が何のとりえもない人と、何かに秀でた人も一緒ということになる。
ということは、実力がそこそこでも、長く続けていれば上の刻印になっている人もいるのでは、とアーシェは疑問に思ったのだ。
「はい、ですがそこはちゃんと皆さんの受けた依頼等で判断していますから。何か得意なものや技術がある人は、依頼の達成率も高いですし早くランクが上がります。…それに、冒険者は危険と隣り合わせですから、中には命を落とす方も残念ですがいます。なので、まずは慣れないうちは、確実にこなせる依頼を受けるようにしてくださいね」
早く刻印持ちになりたいからと言って焦りは禁物ということなのだ。
「あとはギルドについて簡単に説明しますね。近隣国を合わせて大陸の主要都市には計18か所の冒険者ギルドがあり、国内にはここヴェルークを含めて5か所あります。何かあったら近くのギルドに行けば依頼を受けることもできますし、相談もできますよ。皆さんの情報は国内のギルド間で共有されますから、いつでも手続きや依頼を受けることができます。あと、更新については…アーシェリアさんが依頼を受けて、しばらくしたらまた説明しますね」
女性はそういうと、アーシェが真剣に説明を聞いている姿に小さく微笑むとカウンターの上で手を重ねるように組んで、質問を促すように首を傾げた。
「何かわからないこととかありますか?」
「あ、いえ。大丈夫です」
「では、説明は以上になります」
慌てて首を振るアーシェに、女性は申請書類や説明に使った刻印の見本などをきちんと所定の場所に片づける。
「あ、そうです。1人で依頼を受けるのはまだあまりお勧めできませんし、冒険者の皆さんの多くは仲間とパーティを組んでいるんです。だからアーシェリアさんも誰かと組んだり、あちらにあるパーティ募集の掲示板の貼り紙を確認して、パーティに加入するのもいいかもしれませんね」
女性はギルドの入り口近くに設けられたカウンター越しに、奥のテーブル席が設けられた待機場所近くの掲示板を示した。
遠目からでも掲示板には何枚もの貼り紙が貼られ、その周辺や待機場所には何人もの冒険者の姿が見える。
あそこで仲間を探したり、同業者同士、談笑したり情報交換などをしているのだろう。
「わかりました。本当にいろいろありがとうございました」
椅子から立ち上がったアーシェは対応してくれていた女性に頭を下げると、教えてもらった奥の掲示板が並ぶエリアに足を向けたのだった。
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