上 下
118 / 124
最終章?

覚悟

しおりを挟む
 ウォーカーから作戦を聞いた俺は、マサトとミレイが『消失王』クニヒコと戦っている場所に向かっていた。ただ、ウォーカーと行動を共にしているが、まだ俺は彼らに協力するかの結論は伝えていない。心の中では既に答えが出ているものの、それが本当に正しいのかを確かめる時間が欲しかった。

 書斎を出て、長い長い廊下を俺たちは歩く。暗く細く、それでいて冷たい空気を纏った道。そこをウォーカーの後ろを、囚人のように付いていく。頭の中は今までに出会い別れた転生者のみんなと、ここまで共に来た三人が浮かんでいた。

「抜けるぞ。この先だ」

 ウォーカーの言葉通り、直ぐに開けた世界が顔を出す。突然明るくなったせいで、目がチカチカする中で、目の上に手をかざして見れば、そこは俺たちが元々居た場所とほぼ同じ闘技場だった。

 そして、その中央にはマサトとミレイと、『消失王』のクニヒコが──

「──なっ……?」

 戦場を見た俺は声が漏れる。
 
 だが、それも当然だ。俺とミレイ相手に圧倒していた、あのクニヒコが追い詰められている状態で時間が止まっていたのだ。左上半身は弾け飛び、また急所を避けてはいるものの全身に弾が貫通している。空中に浮かぶ血液が鮮やかに恐ろしかった。

「やはり駄目だったか……」

 ウォーカーは溜息をつきながら、宙で止まる肉片を器用に避けながらマサトとミレイ側の方に歩いていく。俺はその後を追いかけながら「やはりって?」と聞いた。

「マサト・タカダの『風固定』はクニヒコの相性は最悪だ」
「……相性?」
「クニヒコの『消失』の発動条件は、物理的障壁が間にない状態で対象を視認できること。マサト・タカダが空気に物理性を持たせることが出来る以上──」
「完封できる、か」

 前回戦った時のことを考えれば、クニヒコは自分自身を消失させることも出来ると思われる。だが結局それでマサトの空気の壁を抜けたとしても、マサトならば直ぐに新たに壁を作ってしまうだろう。不可視なのに物理性を持つそれは、それ自体を消失させることも出来なければ、マサト本体を消失させることも防ぐ。確かに、最悪の相性だ。

 今思えば、俺がクニヒコと戦った時も、俺が<隠密ハイド>をしようとした途端に、先制攻撃を仕掛けてきた。あれも視認が出来なくなることを恐れたからなんだろう。

「で、お前はどうする?」

 マサトの真後ろに立ったウォーカーは、俺の方を向かずに聞く。もし俺が協力をするというならば、作戦に従うというならば、俺は俺の手でマサトとミレイを殺さなければならない。俺が二人の特典を受け継がなければならない。それを、ウォーカーは「どうする?」と聞いているのだ。

「……」

 亡くしてしまった仲間の想いが既に俺には受け継がれている。1層で俺を命を救ってくれたエディもローザもアンも、2層から3層にかけて俺の心を救ってくれたセージも、5層で俺が救えなかったユミも、4層から8層までずっと俺を支えてくれたリカも、全員の背負ってきたものを俺は[転生者の篝火]として受け継いでいる。
 
 一応、答えは決まっている。ただそれが正しいのかは分からない。みんなならどうするのだろう。

 エディは何と言うだろう? ローザは? アンは?

「世界を救う云々より、まずはテメェの心に正直になれ。お前が正しいと信じるなら、それでいいんだよ」
「私が救える命があるならば、私は何だって犠牲にします。リューロさんなら、大丈夫です。私以上に優しい人ですから」
「ふん、世界なんてどうでもいいでしょ。ただ、仲間が世界を滅ぼすのは黙って見てられない。違う? だから、あなたの答えに私は賛成よ」

 セージは? ユミは? リカは何と言う?

「グランツ、お前ならなんだってやれる。どんな選択だろうとな」
「大好きなあなたが、望むならば、それが正解なのです。でしょう? そうでない世界なんて要らないし」
「リューロよ、わしの国の民を頼んだぞ」

「そうか……そうだよな。お前らならそう言うよな……」

 幻聴かもしれない。だが、確実に俺にだけは届いた声に俺は笑ってしまう。それでいて泣いてしまう。ただ、確かなのは俺の心に今、火が灯ったということ。

 罪滅ぼし、それともそんな名前の自己満足。もしくは責任感、受け継いだものを無にしないための防衛行動。さらには使命、俺にしか出来ない神に与えられた運命を受け入れて立ち向かう。そして新たな一歩、俺がこのまま燻らないための克服の一歩。

 世界が滅びたら俺も困るからとか、軽いものじゃない確かな火が、俺の心には灯っていた。

 だから応える。

「俺がやる。マサトもミレイも俺が殺す」

 俺の返答にウォーカーは振り返って笑った。不器用な笑みだ。

「良い顔つきになったな。なら5秒後、時間を動かす」

***

「<魔法剣>」

 ──ブスッ!

 的確に魔法剣がマサトとミレイの二人の首を後ろから貫いた鈍い音、それと共にマサトは振り返る。

「リュ……ロ……? なん……ゴフっ……どう……て?」
「ユリ……ス……様ぁ」

 喉を貫いたから、血が詰まって喋れていない。呼吸ができていない。血を口から吐き出しながら、二人は恨めしげに俺を睨みながら血に伏す。俺はそこから目を逸らさない。ただじっと受け止めた。

ステータス 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
[リューロ・グランツ] 19歳 人族 男
レベル 90
体力 SS
魔力 SS
膂力 SS
俊敏性 SSS

スキル 
疾走スプリント ><軽量化ウェイトリダクション><隠密ハイド><治癒ヒール><反転リバース><対象変更ターゲットチェンジ><鑑定アプレーザル><瞬歩><クナイ><空中歩行><烈爪フィアスクロー><盾空エアシールド><爆哮バーストロア><封印クローズ><開放オープン><波撃タイダルインパクト><渦烈槍ヴォルテックスランス><水獄ウォーターヘル><結円コネクト><陽動ディバージョン><分裂弾フラグメント><炸裂弾エクスプローシブ>

称号
[転生者の篝火]⋯ 転生者と出会い導く運命を神に与えられた者の称号。その篝火を灯せば転生者は正しく道を歩み貴方に感謝するだろう。その篝火を消せば転生者は霧の中を彷徨い、全ての力は貴方の手の上のものになるだろう。

転生者特典
『超回復』『忍びの術』『魔道の極み』『代償成就』『水操術』『変装』『風固定』『強度変更』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。 ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。 失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。 主人公が本当の愛を手に入れる話。 独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。 さくっと読める短編です。 ※完結しました。ありがとうございました。 閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。 (次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!? そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!? 農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!? 10個も願いがかなえられるらしい! だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ 異世界なら何でもありでしょ? ならのんびり生きたいな 小説家になろう!にも掲載しています 何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします

前世は最悪だったのに神の世界に行ったら神々全員&転生先の家族から溺愛されて幸せ!?しかも最強➕契約した者、創られた者は過保護すぎ!他者も!?

a.m.
ファンタジー
主人公柳沢 尊(やなぎさわ たける)は最悪な人生だった・・耐えられず心が壊れ自殺してしまう。 気が付くと神の世界にいた。 そして目の前には、多数の神々いて「柳沢尊よ、幸せに出来なくてすまなかった転生の前に前の人生で壊れてしまった心を一緒に治そう」 そうして神々たちとの生活が始まるのだった... もちろん転生もします 神の逆鱗は、尊を傷つけること。 神「我々の子、愛し子を傷つける者は何であろうと容赦しない!」 神々&転生先の家族から溺愛! 成長速度は遅いです。 じっくり成長させようと思います。 一年一年丁寧に書いていきます。 二年後等とはしません。 今のところ。 前世で味わえなかった幸せを! 家族との思い出を大切に。 現在転生後···· 0歳  1章物語の要点······神々との出会い  1章②物語の要点······家族&神々の愛情 現在1章③物語の要点······? 想像力が9/25日から爆発しまして増えたための変えました。 学校編&冒険編はもう少し進んでから ―――編、―――編―――編まだまだ色んなのを書く予定―――は秘密    処女作なのでお手柔らかにお願いします。文章を書くのが下手なので誤字脱字や比例していたらコメントに書いていただけたらすぐに直しますのでお願いします。(背景などの細かいところはまだ全く書けないのですいません。)主人公以外の目線は、お気に入り100になり次第別に書きますのでそちらの方もよろしくお願いします。(詳細は200) 感想お願いいたします。 ❕只今話を繋げ中なためしおりの方は注意❕ 目線、詳細は本編の間に入れました 2020年9月毎日投稿予定(何もなければ)  頑張ります (心の中で読んでくださる皆さんに物語の何か案があれば教えてほしい~~🙏)と思ってしまいました。人物、魔物、物語の流れなど何でも、皆さんの理想に追いつくために! 旧 転生したら最強だったし幸せだった

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

社畜だけど転移先の異世界で【ジョブ設定スキル】を駆使して世界滅亡の危機に立ち向かう ~【最強ハーレム】を築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 俺は社畜だ。  ふと気が付くと見知らぬ場所に立っていた。  諸々の情報を整理するに、ここはどうやら異世界のようである。  『ジョブ設定』や『ミッション』という概念があるあたり、俺がかつてやり込んだ『ソード&マジック・クロニクル』というVRMMOに酷似したシステムを持つ異世界のようだ。  俺に初期スキルとして与えられた『ジョブ設定』は、相当に便利そうだ。  このスキルを使えば可愛い女の子たちを強化することができる。  俺だけの最強ハーレムパーティを築くことも夢ではない。  え?  ああ、『ミッション』の件?  何か『30年後の世界滅亡を回避せよ』とか書いてあるな。  まだまだ先のことだし、実感が湧かない。  ハーレム作戦のついでに、ほどほどに取り組んでいくよ。  ……むっ!?  あれは……。  馬車がゴブリンの群れに追われている。  さっそく助けてやることにしよう。  美少女が乗っている気配も感じるしな!  俺を止めようとしてもムダだぜ?  最強ハーレムを築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!  ※主人公陣営に死者や離反者は出ません。  ※主人公の精神的挫折はありません。

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼
ファンタジー
 酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。  私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!    辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!  食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。  もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?  もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。  両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?    いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。    主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。  倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。    小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。  描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。  タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。  多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。  カクヨム様にも載せてます。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

処理中です...