深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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最終章?

作戦

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「さあ、リューロ・グランツ。お前はどうする?」

 俺がまだ戸惑っているというのに、ウォーカーはそう聞いてきた。どうするか、俺はどうすればいいのか、ずっと仲間だと思っていた『シズク』が悪者で、敵だと思っていたウォーカーが正義だった。その時、俺はどうするべきなのか。考えるには時間が足りなかった。

「俺は、このエイミー・レンブラントを殺す最大の好機を逃すつもりはない。今回で決着をつけるつもりだ」

 俺が返答に苦しんでいるの見てウォーカーは彼自身に誓うように宣言する。その瞳には強い意志が宿っているように見えたが、直ぐに「はぁ……」とため息をついて、下を向く。

「だがな……正直に言うと、現状、このまま時間を元に戻したとしても、エイミー・レンブラントと帝国側には勝てる確率はゼロに等しい」
「……どうしてだ? ウォーカーはエイミーよりも特典を持っているんじゃないのか? それに『消失王』もかなりの強さだったはずだ」

 エイミーは二百年間、[転生者の篝火]として生きていたといえ、親密になってから殺すという性質上、持っている特典の数で言えば、魔王を使って大規模に転生者を殺していたウォーカーに軍杯が上がるはずだ。
 さらに『消失王』のクニ……ヒコだったか? 奴もかなりの強者、ミレイやマサトが敵うとは思えなかった。

 だが、俺の問いにウォーカーは首を横に振る。

「……俺は特典のほとんどを自ら捨てている」

 強い口調でこちらに目を合わさず下を向きながらウォーカーは、そう言った。特典を……捨てていると。

「……は? いや、どうしてだ?」
「転生者特典などに甘えるのは、に相応しくないだろう」
「信仰……」

 飲み込んだように復唱してみるが、本音を言えば全く共感はできなかった。だから、ウォーカーが何を考えているのかを知りたくて、俺は下を向く彼の表情を覗き込んだ。

「ひっ」

 が、座ったまま腰を引いて後ずさる結果に終わる。なぜなら明らかに正常では無い表情をしてたからだ。歯を食いしばり目は虚ろ、よだれを垂らして「神様……して……れ……ゆ……し……れ」と何かをブツブツと呟いている。さながら狂信者だ。

「っああ、すまない」

 俺が声を出したので、ウォーカーは気を取り戻したようで顔を上げる。狂信者から、何かに苦しむような表情、そして無能な領主、その三つの顔を見せた後に、ウォーカーはやっと、元の世界を守るためならば何だってやるような覚悟の決まった顔つきに戻る。

「特典の話だったな。俺が持っている特典は、<記憶視メモリームービー><歴視トリップヒストリー>などの調査用の『万里眼』、間接的に転生者を殺しても篝火の能力が発動するようになる『効果拡張』、特典やスキルを消去する用の『廃棄』。後は仲間に特典をあげる『譲渡』、この四つだけだ。1回きりの『時間支配』も使ってしまったしな」
「あ、あぁそうなのか……というか、ならさっきまで素のステータスだけでエイミーと渡り合っていたのか」
「そうだな。だが、あのまま行けばこちらが負けていただろう。それはお前が居ても居なくてもな」

 戦力面で何の足しにも数えられていないことに俺はちょっと悲しくなる。

「確かにクニヒコは強いが、マサト・タカダとは酷く相性が悪い。それにこちらの切り札であるエレナ・ブラッディが無力化されたこと、そして同様にアズサが居ないのが痛手すぎるんだ」
「……帝国と協力する道は無いのか? ユリウス陛下もエイミーをただの転生者だと思っているようだし──」

 そう提案した俺だったが、ウォーカーの表情を見て言葉を止める。ユリウス陛下は転生者の軍を作っているらしいし、陛下を味方につければ自動的にマサトもミレイもこちら側になるから良い案だと思ったのだが、そうでもないようだ。

「帝国と協力? バカを言うな、ユリウス・カーデンこそ悪辣に欲深く世界を支配せんと目論む男だぞ。アイツは自分の野望の為ならば毒でも平気で体内に入れる男だ、恐らくはエイミー・レンブラントのことも薄々気付いていながら協力関係を結んでいるはずだ」

 吐き捨てるようにウォーカーはそう言う。ただ、確かにユリウス陛下にそのような一面があるのは、言われてみれば納得がいくし、腑に落ちた。彼は自分が覇道を歩むことを信じているし、その障害となるものを容赦無く叩き潰す、そんな気配があった。

「アレに半洗脳状態にされている部下二人も無理だな。ユリウス・カーデンが望むならば、奴らは平気で何でも殺す狂った忠義を植え付けられている」
「半洗脳……? ちょっと待て、ミレイとマサトはユリウスに操られているのか?」

 確かに、あの二人の忠誠心には命を平気で賭ける程度の行き過ぎた部分があるとは思っていたが、流石にそれは予想外だった。

「あぁ、つってもスキルとかじゃなくて単に心理学を用いた幼少期からの刷り込みのようなものだが。ほら、俺がマサト・タカダを捕まえた後に、お前らに仕向けたことがあるだろう。あの時に一回洗脳を軽く上書きしたんだが、まだ治っていないようだな」

 マサトが強くなって、エレナと共に俺たちを襲ってきた時のことか。
 そう言えば、確かにあの時、少年はウォーカーにマサトが洗脳されていると言っていた。その関連で同時に、マサトの目の前でアレスやライアンを殺したり非道な拷問を行うという、魔人リンによって見せられた記憶を思い出して、俺はウォーカーを睨む。

「責めたきゃ責めろ。俺は目的の為ならば何だってやってきたし、これからもそのつもりだ」

 だがウォーカーはそう言って、こちらの非難の目を真正面から受け止める。その態度に、逆に俺はどう責めたら良いのか分からなくなる。

「いや……あの時から俺たちが世界の敵だったのか。ならば俺は責める立場に無い……のかもしれない」
「……まぁいい。今の状況は理解したか? 俺たちはお前がどう行動しようが、エイミー・レンブラントと帝国に敵対するつもりだし、お前がこちらに付こうが付かまいが、敗色濃厚だ」

 ウォーカーは長くなった話を纏めるようにそう言うので、俺は黙って頷く。

「だから、『逃亡王』を使う。リューロ、さっき戦ってる中で<封印クローズ>した奴を取り出せ」
「え? ……よく分からないが、まぁ<開放オープン>」

 俺はウォーカーに言われた通り、何がなにやら分からないまま、その場でスキルを発動させる。中身を俺は知らなかったので、部屋の隅に向けて<開放オープン>しようとしたのだが、ウォーカー曰く大丈夫らしい。

「え……?」

 宙に浮いた黒い箱、そこからソレが出てきて俺はちょっと戸惑う。

 ──なるほど、確かに大丈夫だ。なんの危険性もない……が、だがなぜだ?

 疑問で頭がいっぱいだ。なにしろ出てきたのが手のひらサイズのハリネズミ一匹だったからだ。

「今から、お前が俺たちに協力した場合と、協力しなかった場合の二通りの作戦を教えてやる。俺としては協力を無理強いするつもりは無い、お前にとってまだエイミーは仲間意識があるだろうしな」

 ウォーカーはそう言って、作戦を語り始めた。
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